2022年4月24日日曜日

パラメーターで規定された物の発明の新規性が公然実施に基づき否定された事例

 東京地裁令和3年10月29日判決
平成31年()第7038号 特許権侵害行為差止等請求事件(第1事件),同第9618号 損害賠償請求事件(第2事件)
 
1.概要
 本事例は、原告が有するパラメーターで規定された物の発明に係る特許権に基づく特許権侵害訴訟の地裁判決において、被告が実施する被告製品は本件各発明の技術的範囲に属するものの、本件各発明は,その特許出願前に日本国内において公然実施をされたものであるから,本件各特許は,法104条の3,29条1項2号により,いずれも無効というべきものであると判断され、原告の請求が棄却された事例である。
 原告は、黒鉛系炭素素材である被告製品を、本件発明の登録後に入手し分析して、本件発明で規定するパラメーターを満たしていることを確認した。裁判所は被告製品が本件発明の技術的範囲に属すると判断した。
 被告は、被告製品及びパラメーターを充足する他の製品は、本件発明に係る特許権の出願日よりも前から同一の製品仕様、製造方法により実施されていたものであるから、本件発明の新規性は公然実施により否定されると主張し、裁判所もこれを支持する判断を示した。公然実施に基づく新規性に関する複数の興味深い論点について判断が示されている。
 
2.本件発明
 原告は,平成26年9月9日,本件特許2に係る特許出願(特願2014-550587号)をし,平成27年1月8日,この一部を分割して本件特許1に係る特許出願(特願2015-2556号)をして,同年2月20日,本件特許権1の設定の登録(請求項の数1)を受け,同年2月6日,本件特許権2の設定の登録(請求項の数6)を受けた。
 
 本件特許1の特許請求の範囲の請求項1(本件発明1)は以下のように分説できる。
    1A  菱面晶系黒鉛層(3R)と六方晶系黒鉛層(2H)とを有し,
    1B  前記菱面晶系黒鉛層(3R)と前記六方晶系黒鉛層(2H)とのX線回折法による次の(式1)により定義される割合Rate(3R)が31%以上であることを特徴とする
    (Rate(3R)=P3/(P3+P4)×100(式1)
    ここで,P3は菱面晶系黒鉛層(3R)のX線回折法による(101)面のピーク強度,P4は六方晶系黒鉛層(2H)のX線回折法による(101)面のピーク強度である。)
    1C  グラフェン前駆体として用いられる黒鉛系炭素素材。
 
3.裁判所の判断のポイント
3.1.争点1(被告各製品が本件各発明の技術的範囲に属するか)について
「・・・被告製品A1ないし3並びにB2及び6は,構成要件1Aないし1Cを充足するから,本件発明1の技術的範囲に属すると認められ・・・」
 
3.2.争点2-6(公然実施に基づく新規性欠如)について
(被告製品Aの規格,製造工程等
a 被告伊藤は,被告製品A1については平成18年7月16日に,被告製品A2及び4ないし6については平成17年1月6日に,被告製品A3については平成21年6月1日に,分級,梱包方法,最終検査における項目(固定炭素分,灰分,揮発分,水分及び粒度),規格値及び試験方法,工程の流れ等を定めた製品別製造標準をそれぞれ作成した。上記の各製品別製造標準のうち,被告製品A2ないし6に係るものは,本件特許出願当時から現在に至るまで,改訂されたことはなく,被告製品A1に係るものは,平成29年7月6日,粒度の規格値について(省略)とする改訂がされたが,本件特許出願当時から現在に至るまで,そのほかの点について改訂がされたことはなかった。
 被告伊藤は,平成17年6月3日,被告製品A7ないし11のそれぞれについて,検査の項目(灰分,揮発分及び粒度)及び規格値等を定めた黒鉛原料受入検査詳細を作成した。上記黒鉛原料受入検査詳細は,本件特許出願当時から現在に至るまで,改訂されたことはなかった。
c 被告伊藤は,前記aの製品別製造標準及び前記bの黒鉛原料受入検査詳細作成以降現在に至るまで,顧客からの特段の要望がない限り,これらに定められた基準に従った被告製品Aを製造販売してきた・・・。
(被告製品A9及び10のサンプルのRate(3R)
 被告伊藤は,平成31年4月15日から令和元年5月20日までの間に,同被告において保管していた被告製品A9及び10の各サンプルをSmartLabを用いて分析し,これにより得られた回折プロファイルをPDXLの自動解析機能により解析して,菱面晶系黒鉛層の(101)面及び六方晶系黒鉛層の(101)面の各ピーク強度を計算し,これを基にRate(3R)を算出したところ,サンプル結果①(別紙3Rate(被告伊藤)の番号4の列)を得た(乙A9,104)。」
 
(2) 公然実施該当性
 ア 判断基準について
  法29条1項2号にいう「公然実施」とは,発明の内容を不特定多数の者が知り得る状況でその発明が実施されることをいい,本件各発明のような物の発明の場合には,商品が不特定多数の者に販売され,かつ,当業者がその商品を外部から観察しただけで発明の内容を知り得る場合はもちろん,外部からそれを知ることができなくても,当業者がその商品を通常の方法で分解,分析することによって知ることができる場合も公然実施となると解するのが相当である。
・・・
(サンプルのRate(3R)
     a 前記(1)()のとおり,被告伊藤が保管していた被告製品A9及び10の各サンプルのRate(3R)は,サンプル結果①のとおりであるところ,証拠(乙A8,40,41)及び弁論の全趣旨によれば,上記各サンプルは,「EC500」及び「Lot 120202」と記載された袋並びに「EC300」及び「Lot 130930」と記載された袋から取り出されたものであること,被告伊藤においては,黒鉛製品のロット番号を,製造開始日を6桁の数字で表示していたことが認められることからすると,上記各サンプルは,平成24年2月2日に製造された被告製品A9のサンプル及び平成25年9月30日に製造された被告製品A10のサンプルであると認めるのが相当である。
 
「・・・被告製品A10に係るサンプル結果については,複数回算出したRate(3R)にばらつきがほとんどなく,回折プロファイルにおける回折線の角度43ないし44°付近のピークは必ずしも明瞭ではないものの,このような場合に,PDXLの自動解析機能を使用して得られた解が常に誤っていることを認めるに足りる証拠はないことからすると,被告製品A10のサンプルのRate(3R)について,サンプル結果①を一応採用することができるというべきである。
・・・・
(被告伊藤が本件特許出願前から本件各発明の技術的範囲に属する被告製品Aを製造販売していたか
・・・前記(1)()のとおり,被告伊藤は,本件特許出願前から,被告製品Aの各名称を付した黒鉛製品を製造販売しており,被告製品A2ないし11については,本件特許出願前から現在に至るまで,その製造工程及び出荷の基準となる規格値に変更はなく,被告製品A1についても,粒度の規格値が(省略)と改訂されたが,従前の規格値を限定した内容になっており,そのほかの変更はない。
 また,前記2(1)()のとおり,原告が甲A5結果を得た被告製品Aは,平成30年6ないし8月頃に被告伊藤が販売していたものであり,平成26年9月9日の本件特許出願(前記前提事実(2))からそれほど長い年月が経過しているものとはいえない。
 以上によれば,被告伊藤は,本件特許出願前から現在に至るまで,被告製品Aの各名称を付した黒鉛製品を製造販売しており,この間,菱面晶系黒鉛層の増減に影響を与えると考えられるこれらの製品の製造工程及び規格値にほぼ変更はないことから,この間に製造販売された被告製品Aは,同じ製造工程を経て,同じ規格を満たすものであると認められる。そして,他にこれらの製品に対してRate(3R)の増減に影響を及ぼす事情が存したとは認められず,前記2のとおり,現時点において,被告製品A1ないし3は本件発明1の,被告製品A4ないし11は本件各発明の各技術的範囲に属する。これらの事情に照らせば,被告伊藤は,本件特許出願前から,被告製品A1ないし3については本件発明1の,被告製品A4ないし11については本件各発明の各技術的範囲に属する被告製品Aを製造販売していたと認めるのが相当である。
 なお,被告製品A10に係るサンプル結果①は,乙A9結果と近接している。前記2(2)イ(ア)のとおり,乙A9結果は,被告製品A10のRate(3R)を示すものとしては採用することはできないが,乙A9結果,サンプル結果①のいずれも,適宜の解析条件を手動で入力することなく,PDXLの自動解析機能により得たものであることからすると,これらのRate(3R)が近接していることは,被告伊藤が本件特許出願前から本件各発明の技術的範囲に属する被告製品A10を製造販売していたという上記認定と矛盾しないといえる。」
以上によれば,本件特許出願前から,被告伊藤は,本件発明1の技術的範囲に属する被告製品A1ないし3及び本件各発明の技術的範囲に属する被告製品A4ないし11を,・・・・それぞれ製造販売していたものである。
 そして,前記2(1)イのとおり,本件特許出願当時,当業者は,物質の結晶構造を解明するためにX線回折法による測定をし,これにより得られた回折プロファイルを解析することによって,ピークの面積(積分強度)を算出することは可能であったから,上記製品を購入した当業者は,これを分析及び解析することにより,本件各発明の内容を知ることができたと認めるのが相当である。
 したがって,本件各発明は,その特許出願前に日本国内において公然実施をされたものであるから,本件各特許は,法104条の3,29条1項2号により,いずれも無効というべきである。
 
(3) 原告の主張について
   ア 原告は,被告ら,日本黒鉛ら及び中越黒鉛の取引の相手方は秘密保持義務を負っていたから,本件特許出願前に本件各発明が公然と実施されたとはいえないと主張する。
 しかし,証人Zは,日本黒鉛工業が黒鉛製品を販売するに当たり,購入者に対して当該製品の分析をしてはならないとか,分析した結果を第三者に口外してならないなどの条件を付したことはないと証言するところ,この証言内容に反する具体的な事情は見当たらない。また,被告ら,日本黒鉛ら及び中越黒鉛が,その全ての取引先との間で,黒鉛製品を分析してはならないことや分析結果を第三者に口外してはならないことを合意していたことをうかがわせる事情はない。
 取引基本契約書(甲A82)には「甲および乙は,本契約および個別契約の履行により知り得た相手方の技術情報および営業上の秘密情報(目的物の評価・検討中に知り得た秘密情報を含む)を,本契約の有効期間中および本契約終了後3年間,秘密に保持し,相手方の書面による承諾を得ることなく第三者に開示または漏洩せず,また本契約および個別契約の履行の目的以外に使用しないものとする。」(38条)との記載が,機密保持契約書(甲A95)には「受領者は,開示者の書面による承諾を事前に得ることなく,機密情報を第三者に開示または漏洩してはならない。」(3条1項)との記載が,日本黒鉛商事が当事者となった取引基本契約書(乙A123)には「甲および乙は,相互に取引関係を通じて知り得た相手方の業務上の機密を,相手方の書面による承諾を得ないで第三者に開示もしくは漏洩してはならない。」(9条)との記載が,それぞれ存することが認められる。しかし,「相手方の技術情報および営業上の秘密情報(目的物の評価・検討中に知り得た秘密情報を含む)」,「機密情報」及び「相手方の業務上の機密」に,購入した製品のRate(3R)が含まれるかは明らかではないし,黒鉛製品をX線回折法による測定により得られた回折プロファイル,さらにはこれを解析して得た積分強度が,秘密として管理されてきたことや有用な情報であることをうかがわせる事情は見当たらない。
 したがって,本件特許出願当時,製造販売されていた被告製品A,被告製品B1及び2,日本黒鉛各製品並びに中越黒鉛各製品を分析することについて契約上の妨げがあったとはいえないから,原告の上記主張は採用することができない。
・・・・
ウ 原告は,本件特許出願前に販売された製品と近時に販売された製品の品名・品番が同一であるからといって,製品として同一であるとはいえないと主張する。
 しかし,品名・品番を基準として,製品の品質が管理されることが多いことは,当裁判所に顕著な事実である。そして,このような事情に加えて,前記(2)イないしオのとおり,被告ら,日本黒鉛ら及び中越黒鉛において,本件特許出願の前後を通じて,製品の製造工程に大きな変更はなく,製品の規格にも変更がなかったこと,本件特許出願前の製品のサンプルにRate(3R)が31%以上又は40%以上のものが含まれていることなどを考慮すると,前記(2)カのとおり,被告ら,日本黒鉛ら及び中越黒鉛は,本件特許出願前から,本件発明1又は本件各発明の各技術的範囲に属する製品を製造販売していたものと認めるのが相当である。
 したがって,原告の上記主張は採用することができない。
・・・・
オ 原告は,検査成績書(乙A8)や製品別製造標準(乙A38,48)等には,存在証明・非改ざん証明が一切行われていない文書であり,事後的に作成することができるものであり,また,これらの文書に記載された作成日又は改訂日以降に変更が加えられていないことは明らかではないと主張する。
 しかし,存在証明・非改ざん証明が行われていない文書であるからといって,直ちにこれらを信用することができないということはできない。また,上記各文書が事後的に作成されたり,その内容に変更が加えられていたりすることをうかがわせる具体的な事情は見当たらない。
 したがって,原告の上記主張は採用することができない。」

2022年4月10日日曜日

特許権侵害訴訟において「楕円形」という構成要件の充足性が争われた事例
 
知財高裁令和4年3月30日判決
令和3年(ネ)第10049号,同年(ネ)第10069号 特許権侵害差止等請求控訴事件(原審・東京地裁平成31年()第2675号)
 
1. 概要
 本事例は、競技用吹き矢の矢に関する特許権の侵害訴訟の知財高裁判決である。
 特許された本件発明の矢は「長手方向断面が楕円形」である先端部を有することを構成要件とする。明細書には、楕円形の定義は記載されておらず、図面では「小判型」の形状が「楕円形」の一例として描写されている。
 一方、被告製品の矢の先端部は「長手方向断面が,前部が曲率の緩い曲線形状,後部が略円錐形となるように円弧を描き,後部の円柱部との接合面が上下に角を有し,前記後部の角と角とを直線で結んだ形状」、すなわち、卵型形状であって細い方の頂部が直線的に切り取られた形状である。
 被告製品での「卵型形状」が、本件発明の「楕円形」という構成要件を充足するのかが争われた。東京地裁は、文言侵害成立を認めたのに対して、知財高裁は文言侵害も均等侵害も否定し地裁判決を取り消した。
 
2. 本件発明
 本件発明を分説すると,以下のとおりである。
A 吹矢に使用する矢であって,
B 長手方向断面が楕円形である先端部と該先端部から後方に延びる円柱部とからなるピンであって,該円柱部の横断面の直径が前記楕円形の先端部の横断面の直径よりも小さいピンと,
C 円錐形に巻かれたフィルムであって,先端部に前記ピンの円柱部すべてが
差し込まれ固着されたフィルムと,からなり,
D 前記フィルムの先端部に連続して前記ピンの楕円形の部分が錘として接
続された
E 矢。
 
3. 被告製品
被告製品は,以下の構成を有すると認められる。
a 吹矢に使用する矢であり,
b 長手方向断面が,前部が曲率の緩い曲線形状,後部が略円錐形となるように円弧を描き,後部の円柱部との接合面が上下に角を有し,前記後部の角と角とを直線で結んだ形状である先端部と,該先端部から後方に延びる円柱部とからなるピンであって,該円柱部の横断面の直径が前記先端部の横断面の直径よりも小さいピンと,
c 円錐形に巻かれたフィルムであって,そのフィルムの先端部に前記ピンの円柱部すべてが差し込まれ固着されたフィルムと,からなり,
d 前記フィルムの先端部に連続して前記ピンの先端部が錘として接続された,
e 矢
 
4. 文言侵害についての東京地裁の判断
「「楕円」とは,一般的に「円錐曲線(二次曲線)の一。幾何学的には一平面上で二定点(F,F)からの距離の和(FP+FP)が一定であるような点Pの軌跡。」を意味する(乙2)。また,「楕円形」について,「楕円状をなす形,あるいは,それに近い形。」(デジタル大辞泉),「楕円のような形。また,そのような形のさま。小判がた。長円形。側円形。」(精選版日本国語大辞典)と説明されたりする(甲9)。
 また,長手方向の端の一方が他方よりも緩い曲率の形状のこたつの天板について,「楕円形こたつ」,「楕円形 たまご型 卵型天板」と記載されたり,長手方向の端の一方が他方よりも緩い曲率の形状の水色の画像について,「楕円形ブルー水滴」と記載されたりしたものがある(甲10の1,4)。
 これらによれば,「楕円形」は,一般的には,幾何学的意味での楕円の形のほか,水滴などともいわれるそれに近い形も含むものであり,また,長手方向の端が同じ曲率ではない形状も楕円形と呼ばれることがあるといえる。
 本件明細書には,「楕円形」の意義につき特段の定義はない。
 本件発明の実施例として,「楕円形ヘッド14」とそれと連続して後方に伸びる「円柱部10」を有する「楕円ピン12」が示され,その形状は【図3】のとおりである。この「楕円ピン12」は鉄製で一体成型されたことが記載されている(段落【0066】)。【図3】のとおり,「楕円ピン12」は,直線の上辺,下辺を有していて,幾何学的な楕円ではなく,楕円に近い形といえるものである。
・・・・
 さらに,被告製品では,前部が曲率の緩い曲線形状,後部が略円錐形となるように円弧を描いている。しかし,楕円形については,幾何学的意味での楕円の形のほか,それに近い形も含むものであり,水滴と似た形状など,長手方向の端が同じ曲率ではない形状も楕円形と呼ばれることもある(前記ア)。そして,本件明細書によっても,本件発明の「楕円形」は幾何学的意味での楕円に近い形を含む。また,本件明細書によれば,本件発明の先端部は「楕円形」とすることで,「かえし」がなくなるほか,上下方向の重心が均等であり,従来技術の釘形状の先端部と比べて錘として重くなり,矢全体の長手方向の重心を前寄りに寄せるという技術的意義を有するところ,構成bを有する被告製品の先端部も同じ効果を奏するものであり,被告製品の先端部は,本件発明においては,楕円に近い形であるとして「楕円形」(構成要件B,D)の先端部であるということが相当と解される。
 
5. 知財高裁の判断のポイント
(文言侵害について)
(1) 「楕円形」の一般的な意味について
ア 「楕円形」とは,「楕円状をなした形」をいい,「楕円」とは,「円錐曲線(二次曲線)の一つ。幾何学的には,一平面上で二定点(F,F)からの距離の和(FP+FP)が一定であるような点Pの軌跡。」を意味する(「広辞苑 第六版」(平成20年1月11日発行,株式会社岩波書店)1705頁,乙2参照)。この点,被控訴人が提出するウェブサイト「コトバンク」における検索結果に係る証拠(甲2。令和元年5月30日印刷)では,「楕円形」について,「楕円状をなす形,あるいは,それに近い形。」(デジタル大辞典の解説),「楕円のような形。また,そのような形のさま。小判がた。長円形。側円形。」(精選版日本国語大辞典の解説)とされている。
 上記を踏まえると,一般に,「楕円形」とは,「楕円状をなした形」をいい,幾何学上の楕円の形状がそれに含まれることはもとより,同形状とは異なるがそれに近い形についても用いられる語であると解される。
 もっとも,幾何学上の楕円の形状とは異なるがそれに近い形として,どのような形が「楕円形」に含まれるか,「楕円形」の意味の外延は,上記の辞書的な意味からは明確とはいえない。
イ 上記に関し,「卵形(たまごがた)」は,「鶏卵に似た楕円形。」を意味する語である(上記「広辞苑 第六版」1756頁,甲78参照)。なお,被控訴人が提出するウェブサイト「コトバンク」における検索結果に係る証拠(甲77。令和3年7月29日印刷)では,「卵形(たまごがた)」について,「鶏卵のような楕円形。また,そのような形のもの。たまごなり。」(精選版日本国語大辞典の解説),「鶏卵に似た楕円形。たまごなり。らんけい。」(デジタル大辞典の解説)とされている。
 また,「卵形(らんけい)」は,「たまごのような形。たまごがた。」を意味する語である(上記「広辞苑 第六版」2933頁)。なお,上記証拠(甲77)では,「卵形(らんけい)」について,「卵のような形。楕円の一方が少し細くなっている形。たまごがた。」(精選版日本国語大辞典の解説),「卵のような形。たまごがた。」(デジタル大辞典の解説)とされている。
 そうすると,「楕円形」の語は,「卵形」を含むものとして用いられることもあるものの,他方で,前記アの「楕円形」の意味において,「卵形」と同義である旨の説明はもちろん例示としても「卵形」という説明がみられないことや,上記のとおり,「卵形」の意味においても,限定なしで「楕円形」と同義であることは何ら示されず,「鶏卵に似た」,「鶏卵のような」といった限定を付して「楕円形」という語が用いられたり,「楕円の一方が少し細くなっている形」との説明がされていることも踏まえると,「楕円形」は本来的な意味として「卵形」を含むものではないとみられるところである。
ウ 以上によると,「楕円形」の語は,幾何学上の楕円の形状及びそれに近い形をいうものであるが,当該楕円の両端(当該楕円とその長軸が交わる2点をいう。)付近の曲線を比較した場合に,その一方の曲率が他方の曲率より小さい形状(「卵形」など。当事者の主張における「長手方向の端の一方が他方よりも緩い曲率の形状」。以下「曲率に差のある形状」という。)を含むものとして「楕円形」の語が用いられているか否かは,明細書(図面を含む。)における当該「楕円形」の語が用いられている文脈等を踏まえて判断する必要があるというべきである。
エ これに対し,被控訴人は,「楕円形」の語が卵形等を含むものであると主張して,インターネットでの画像検索の結果(甲10の1~6)やウェブサイト等における語の使用例(甲79~84)を指摘するが,それらは一般に「楕円形」の語がどのような形を説明する際に用いられているかといった事情を示すものにすぎず,「楕円形」の語が上記各証拠で示される各種の形をその意味として当然に含むことを示すものとは解されない。
(2) 本件明細書における「楕円形」の語について
ア 本件明細書に,「楕円形」の意味について説明する記載等は見当たらない。 ただし,請求項1の発明においては先端部が「球形」とされ,本件明細書でも「球形」と「楕円形」が使い分けられていることを踏まえると,少なくとも,本件発明の「楕円形」は,円形(球形の断面)を含むものではなく,円形を含み得るような広い意味の語ではないことは理解されるといえる。
(訂正の上引用した原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」の1(2)を踏まえると,本件発明が解決しようとする課題は,従来技術について,矢の先端部に「かえし」が存在することにより生じていた,矢を的から外すときに丸釘のピンだけ的に残ってフィルムだけ引き抜かれてしまうという課題と,ダブル突入の場合に後ろの矢を引き抜くときにフィルムが丸釘のピンから抜け,後ろの矢のピンが前の矢のフィルム内に残ってしまうという課題(以下,併せて「ピン抜けの課題」という。)のほか,矢の先端部の頭部と円柱部の位置のずれやフィルムの重なりにより生じていた,③上下方向の重心に偏りがあるという課題(以下「重心の課題」という。)であると解される。
(本件発明の「長手方向断面が楕円形」という先端部の形状は,ピン抜けの課題の原因が先端部の「かえし」の存在にあったとされていることを踏まえると,ピン抜けの課題の解決手段の一つとして採用されたものと理解されるところ,「かえし」の存在をなくすという観点からは,先端部の形状は,幾何学上の楕円の形状で足り,曲率に差のある形状である必要はない。したがって,ピン抜けの課題の解決手段の一つであるという事情は,本件発明における「楕円形」の語が,曲率に差のある形状を含むというべき積極的な事情には当たらない。むしろ,曲率に差のある形状とした場合,具体的な形状次第では,的やダブル突入の場合の前の矢のフィルムに曲率の差のある形状の先端部が残ってしまうという可能性が別途生じ,ピン抜けの課題の解決に支障が生じ得るともいえるところである。この点,本件明細書には,先端部の形状について,「楕円形」としてどのような範囲内のものであればピン抜けの課題が適切に解決されるかの判断の資料となり得るデータ等は,何ら記載されていない。
 他方,本件明細書上,重心の課題の解決と「長手方向断面が楕円形」という先端部の形状との関係は明確ではないが,重心の課題の原因の一つとして,矢の先端部の頭部と円柱部との位置のずれが挙げられていることのほか,本件発明の効果等に関し,請求項1の発明に係る実施例についてのものではあるものの,「ピンを従来の丸釘から先端球形に変更することによって矢の長手方向の重心位置を矢の先端方向に寄せることができた」ことが記載され,その変形例が本件発明に係るもので,上記実施例と同様に従来の矢の丸釘と比較した丸ピンの重量等について具体的な記載がされていることも考慮すると,「長手方向断面が楕円形」という先端部の形状は,円柱部との位置のずれを解消しやすく,また,上下方向の重心に偏りがなく,かつ,従来の丸釘よりも先端部が後ろに長い形状であるために先端部が相対的に重くなるといった観点から,重心の課題の解決手段の一つとして採用されたものと理解することもあり得る。しかし,そのような観点からも,先端部の形状は,幾何学上の楕円の形状で足り,曲率に差のある形状である必要はない。むしろ,曲率に差のある形状とした場合,具体的な形状次第では,円柱部との位置の調整が困難になったり,上下方向の重心に偏りがなく,かつ,先端部が相対的に重くなるといった特徴が十分に発揮できなくなり,重心の課題の解決に支障を生じ得るともいえるところである。この点,本件明細書には,先端部の形状について,「楕円形」としてどのような範囲内のものであれば重心の課題が適切に解決されるかの判断の資料となり得るデータ等は,何ら記載されていない。
ウ 本件発明の実施例は,本件明細書の【0065】~【0069】及び【図3】のとおりであり,先端部の長手方向の断面は,請求項1の発明の実施例(同【図2】)の先端部の形状である「球形」の長手方向の断面である円を左右(矢の進行方向からすると前後)に二つに分割してその間に長方形を挟み込んだような形(換言すると,「円」を左右に引き伸ばしたような形)であって,「小判型」や「俵型の断面」などというべきものであり,幾何学上の楕円の形状とは異なるものの,長手方向の両端の曲率を同じくするものである。上記の形については,本件明細書に実験結果が記載されており,また,前記イ()で指摘したような,ピン抜けの課題の解決や重心の課題の解決に支障を生じ得るといった事情も認め難いものといえる。
(3) 構成要件B及びDの「楕円形」の意味及び文言侵害の成否について
ア 前記(1)及び(2)の点を踏まえると,構成要件B及びDの「楕円形」は,幾何学上の楕円の形状や,本件発明の実施例の形のような,楕円に近い形状であって長手方向の両端の曲率を同じくする形状は含むものと解される一方で,曲率に差のある形状は含まないものと解するのが相当である。なお,これと異なる技術常識を認めるべき証拠もない。
イ 被告製品のピンの先端部は,「長手方向断面が,前部が曲率の緩い曲線形状,後部が略円錐形となるように円弧を描き,後部の円柱部との接合面が上下に角を有し,前記後部の角と角とを直線で結んだ形状である先端部」(構成要件b)であり,曲率に差のある形状の一端を更に一定の範囲で切断した形状というべきものであるから,構成要件B及びDの「楕円形」には含まれない。
 したがって,被告製品が,文言上,本件発明の技術的範囲に属するとは認められない。」
 
(均等論についての判断)
() 前記3で認定判断した構成要件B及びDの「楕円形」の意味及び弁論の全趣旨によると,本件発明の先端部の形状と被告製品の先端部の形状について,本件発明では「楕円形」であるのに対し,被告製品では,曲率に差のある形状を基礎として,「長手方向断面が,前部が曲率の緩い曲線形状,後部が略円錐形となるように円弧を描」く形状となっていること(なお,別紙乙第1号証のとおり,後部の略円錐形となるような円弧について,一定の曲率が選択されているものである。乙3の1・2,乙15参照)と,根元段差部分があることとにおいて,異なっているということができる。
 上記のうち①について,前記3(2)イで指摘したところからすると,本件発明は,少なくともピン抜けの課題の解決方法として,「長手方向断面が楕円形である先端部」という構成を採用したものと解される。そして,同イ()で指摘したとおり,「長手方向断面が楕円形」という形状を曲率に差のある形状に変更した場合,ピン抜けの課題の解決や重心の課題の解決に支障を生じ得るともいえるところ,「楕円形」としてどのような範囲内のものであればピン抜けの課題が適切に解決されるかの判断の資料となり得るデータ等は本件明細書に記載されていない。
 そうすると,本件発明における前記3(3)で認定判断した意味での「長手方向断面が楕円形」という先端部の形状の特定は,本件発明の本質的部分に含まれるものというべきであり,それを被告製品の先端部の形状に置き換えることは,本件発明の本質的部分を変更するものというべきである。
ウ したがって,本件発明の構成中に,被告製品と異なる部分が存在するところ,異なる部分は本件発明の本質部分であるから,第1要件を満たさない。」

2022年4月2日土曜日

優先権主張の遡及効が争われた事例

知財高裁令和4年2月9日判決言渡

令和2年(ネ)第10059号 特許権侵害差止請求控訴事件

(原審・東京地裁平成30年()第18555号)

 

1.概要

 本事例は特許権侵害訴訟での知財高裁判決において、侵害不成立の東京地裁判決が棄却され、差し止めが認容された事例である。

 特許権者である控訴人(一審原告)が有する特許権に係る発明(本件訂正発明)は、「物を生産する方法」の発明である。本件特許は(国内)優先権主張を伴う特許出願を原出願とする分割出願であった。

 特許法104条は,物を生産する方法の発明について特許がされている場合において,その物が「特許出願前に日本国内において公然知られた物」でないときは,その物と同一の物は,その方法により生産したものと推定する旨規定する。本事例では、「特許出願前に日本国内において公然知られた物」の判断基準日を巡って、本件特許が優先権の利益を享受できるかどうかが争われ、優先権の遡及効を東京地裁は否定したのに対し知財高裁は肯定した。東京地裁は優先権基礎出願の文言の明示的記載のみを考慮して優先権の範囲を狭く判断したが、知財高裁は優先権基礎出願の文言に加えて技術常識等も考慮して優先権を広く判断した。

 

2.本件訂正発明

「A’ ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類にアルギニンを添加すること,及び,

B’-1 前記ダイゼイン類と前記アルギニンを含む発酵原料を

B’-2 オルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物で発酵処理することを含む,

C’ オルニチン及びエクオールを含有する粉末状の発酵物の製造方法であって,

D’ 前記発酵処理により,前記発酵物の乾燥重量1g当たり,8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオールを生成し,及び

E’ 前記発酵物が食品素材として用いられるものである,前記製造方法。」

 

3.優先権に関する争点

 本件原出願明細書(本件特許は分割出願である)の段落0093には「ダイゼイン類を含む発酵原料」について以下の記載がある。

「また,ダイゼイン類を含む発酵原料としては,ダイゼイン類を含む限り,特に制限されるものではないが,安全性の観点から,食品素材としても利用可能なものが好適である。ダイゼイン類を含む発酵原料としては,具体的には,大豆,大豆胚軸,大豆胚軸の抽出物,豆腐,油揚げ,豆乳,納豆,醤油,味噌,テンペ,レッドクローブ又はその抽出物,アルファルファ又はその抽出物等が挙げられる。これらの中でも,大豆胚軸は,ダイゼイン類を豊富に含んでいるので,ダイゼイン類を含む発酵原料として好ましい 。」

 すなわち、本件訂正発明における構成B’-1におけるダイゼイン類を含む発酵原料は、大豆胚軸を包含するがそれには限定されない概念である。

 

 一方、本件特許の優先権基礎出願(分割原出願の優先権基礎出願)では発酵原料として明示的に記載されているのは「大豆胚軸」だけであり、「大豆胚軸」以外のものを発酵原料とすることは明示的には記載されていない。

 そこで、本件訂正発明が優先権の利益を享受することができるのか否かが争われた。

 

4.東京地裁の判断

「本件発明の方法に係る発酵原料は,「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類」であって,本件明細書においても,様々なダイゼイン類が開示されているのに対し,優先権基礎出願の明細書(乙B1の1~3)を精査しても,これらに開示されている発酵原料は「大豆胚軸」のみであって,「大豆胚軸」以外のダイゼイン類は開示されていない。そうすると,本件発明のうち,発酵原料が大豆胚軸である発明については,上記「本件特許の特許出願」日は,優先日である2007年(平成19年)6月13日となる一方,発酵原料が大豆胚軸以外のダイゼイン類である発明については,上記「本件特許の特許出願」日は,親出願日である2008年(平成20年)6月13日となると解するのが相当である。」

 

5.知財高裁の判断

「前記(ア)(イ)のとおり,基礎出願に明示的に発酵原料として記載されているのは「大豆胚軸」だけであり,「大豆胚軸」以外のものを発酵原料とできることを明示する記載が追加されたのは,本件原出願以降である。

 しかし,基礎出願では,「ダイゼイン類」を資化してエクオールを産生する能力を有する微生物を使用するとされている上,基礎出願の実施例で使用されているラクトコッカス20-92株がそのような微生物の一例として記載されている(基礎出願Aの段落【0013】,【0014】,基礎出願Bの段落【0015】,【0016】,基礎出願Cの段落【0014】,【0015】)。また,基礎出願では,「・・・大豆胚軸の発酵において,発酵原料となる大豆胚軸には,必要に応じて,発酵効率の促進や発酵物の風味向上等を目的として,・・・栄養成分を添加してもよい。」と記載されており(基礎出願Aの段落【0018】,基礎出願Bの段落【0020】,基礎出願Cの段落【0019】),基礎出願において,「水」と「アルギニン」以外の栄養成分を添加することは排除されていない。さらに,基礎出願では,「また,使用する発酵原料(大豆胚軸含有物)には,更に,前記ダイゼイン類を含むイソフラボンを添加しておいてもよい。」と記載されており(基礎出願Aの段落【0020】,基礎出願Bの段落【0022】,基礎出願Cの段落【0021】),「ダイゼイン類」を含むイソフラボンを発酵原料とすることが想定されているということができる。

 そして,前記(ア)a,bのとおり,基礎出願A,Bに記載された実施例においては,「大豆胚軸」にアルギニンを添加してラクトコッカス20-92株で発酵処理することにより,「大豆胚軸」に含まれるダイジンが代謝されてエクオールが生成するとともに,同株によりアルギニンがオルニチンに変換されて,粉末状の発酵物が得られることが,具体的な実験結果と共に記載されている(基礎出願Aの段落【0103】~【0106】,基礎出願Bの段落【0074】~【0077】)。また,基礎出願には,「通常,大豆胚軸発酵物の乾燥重量当たり(大豆胚軸発酵物の乾燥重量を1gとした場合),エクオールが1~20mg,好ましくは2~12mg,更に好ましくは5~8mg含まれている。」「エクオール含有大豆胚軸発酵物に含まれるオルニチンの含有量として具体的には,エクオール含有大豆胚軸発酵物の乾燥重量1g当たりオルニチンが5~20mg,好ましくは8~15mg,更に好ましくは9~12mg 程度が例示される。」との記載があり(基礎出願Aの段落【0024】,【0032】,基礎出願Bの段落【0026】,【0034】,基礎出願Cの段落【0025】,【0033】),発酵物の乾燥重量1g当たり,1~20mgのエクオールが通常含まれている旨及び8~15mgのオルニチンが含まれることが好ましい旨の記載があり,これらの下限値が本件訂正発明において特定されているということができる。そして,基礎出願A及びBの発明により得られる発酵物が食品素材であることはそれぞれの請求項の記載から明らかである。

 ところで,証拠(乙B4(JOURNAL OF BIOSCIENCE AND BIOENGINEERING, Vol.102, No.3, 247-250. 2006),16(国際公開第2005/000042号))によると,本件優先日当時,ダイゼインからエクオールが産生されること,ラクトコッカス20-92株がダイゼイン配糖体(例えばダイジン),ダイゼイン,ジヒドロダイゼインを含むダイゼイン類を資化してエクオールを産生すること,ダイジンの場合は,資化されてダイゼインを遊離し,遊離したダイゼインが更に資化されてジヒドロダイゼインとなり,最終的にエクオールが産生されることは,技術常識となっていたと認められる。そうすると,当業者は,基礎出願において,実質的に代謝されるのが「大豆胚軸」中のダイジンなどの「ダイゼイン類」であることを認識していたと認められる。

 以上によると,基礎出願A,Bの上記記載に接した当業者は,上記本件優先日当時の技術常識とを考え併せ,「大豆胚軸」以外の「ダイゼイン類を含む原料」を発酵原料とした場合でも,ラクトコッカス20-92株のようなエクオール及びオルニチンの産生能力を有する微生物によって,発酵原料中の「ダイゼイン類」がアルギニンと共に代謝されるようにすることにより,発酵物の乾燥重量1g当たり,8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオールを含有する,食品素材として用いられる粉末状の発酵物を生成することが可能であると認識することができたというべきであるから,本件訂正発明を基礎出願A,Bから読み取ることができるものと認められる。

 したがって,本件訂正発明は,少なくとも基礎出願A,Bに記載されていたか,記載されていたに等しい発明であると認められ,本件訂正発明は,基礎出願A,Bに基づく優先権主張の効果を享受できるというべきである。