2021年10月17日日曜日

進歩性判断での主引用発明と副引用発明または周知技術とを組み合わせることが容易であるか否かの判断手法を示した裁判例

知財高裁令和3年10月6日判決

令和2年(行ケ)第10103号 審決取消請求事件

 

1.概要

 本事例は、原告が有する特許権を無効と判断した無効審判審決の取り消しを求めた審決取消訴訟において、審決が取り消された知財高裁判決である。

 審決では、本件審決は,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付けがあり,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用して本件発明1を容易に想到することができたと判断した。

 知財高裁は、「甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付けがあるとは認められない」と判断し審決を取り消した。この判決では、引用発明と副引用発明または周知技術とを組み合わせることが容易であると言えるために満たされるべき条件について判示しており大変興味深い。

 

2.裁判所の判断のポイント

「⑵ 技術分野相互の関係と採用の動機付け

 甲1の1頁の上から2番目の写真は,筒全体が17色の各色で発光しているペンライトの写真であり,その写真の上下には,「カラフルプロ1本で,」,「全17色もの色を持ち歩くことができます。」という記載があり,5頁の上から5番目の写真の下には「カラプロのLEDはRGBの三原色に加えて White が搭載されています。計4LEDです。」と記載されており,甲1の7頁の一番上の写真の上には「分解及び改造行為を行ったペンライトは安全性が保証できないためライブ会場に持ち込まないでください。」という記載があることから,甲1発明は,ライブ(コンサート)会場に持ち込むフルカラーペンライトに係るもので,光源として,赤,緑,青(RGB)の三原色に加えて白色の4LEDが搭載されたものであり,筒全体が様々な色で発光する技術に関するものであることが認められる。他方,甲2に記載された技術事項は,前記⑴のとおりであり,物に光を照射してその物が見えるようにするための照明にかかわるものであり,複数のLEDが実装されたカード型LED照明光源を用いるLED照明装置と,このLED照明装置に好適に用いられるカード型LED照明光源とに係るもので,白色光又は可変色光を提供する技術に関するものである。

 ところで,進歩性の判断においては,請求項に係る発明と主引用発明との間の相違点に対応する副引用発明又は周知の技術事項があり,かつ,主引用発明に副引用発明又は周知の技術事項を適用する動機付けないし示唆の存在が必要であり,そのためには,まず主引用発明と副引用発明又は周知の技術事項との間に技術分野の関連性があることを要するところ,主引用発明と副引用発明又は周知の技術事項の技術分野が完全に一致しておらず,近接しているにとどまる場合には,技術分野の関連性が薄いから,主引用発明に副引用発明又は周知の技術事項を採用することは直ちに容易であるとはいえず,それが容易であるというためには,主引用発明に副引用発明又は周知の技術事項を採用することについて,相応の動機付けが必要であるというべきである。この点,甲1発明と甲2に記載された技術事項は,いずれもLEDを光源として光を放つ器具に関するものである点で共通するものの,甲1発明は筒全体が様々な色で発光するペンライトに係るものであるのに対して,甲2に記載された技術事項は,白色光又は可変色光を提供する照明装置に係るものである点で相違するから,近接した技術であるとはいえるとしても,技術分野が完全に一致しているとまではいえない。そのため,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用して新たな発明を想到することが容易であるというためには,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用することについて,相応の動機付けが必要である。

「前記⑵のとおり,甲1発明と甲2に記載された技術事項は,技術分野が完全に一致しているとまではいえず,近接しているにとどまるから,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用して本件発明1を想到することが容易であるというためには,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用するについて,相応の動機付けが必要であるというべきである。

 本件審決は,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付けがあり,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用して本件発明1を容易に想到することができたと判断する前提として,甲1発明に,「イエロー」とされる黄色の発色自体に問題が内在しているという課題があり(前記⑶ ア()),甲1発明に,演色性を向上させるという,甲2と共通の課題があると認定した(前記⑶ア()())。しかし,前記ア()のとおり,甲1発明に,「イエロー」とされる黄色の発色自体に問題が内在しているという課題があるとする本件審決の認定は誤りであるし,また,本件審決が甲1発明の課題に関して認定する「演色性」(本件審決が第6,2,2-1⑵(2-1)ア()〔本件審決48頁〕で,甲10に記載されているように周知の課題といえると認定する事項を含む。)は,甲2に記載された技術事項として認定された「演色性」,すなわち,照明された物体の色が自然光で見た場合に近いか否かという,一般的な意味での「演色性」とは異なる(前記ア()

 そうすると,本件審決は,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機を基礎づける甲1発明の課題の認定を誤っているものであり,また,甲2に記載された技術事項の内容(前記⑴),甲1発明と甲2に記載された技術事項の技術分野相互の関係(前記⑵)を考慮すると,甲1発明には,甲2に記載された技術事項と共通する課題があるとは認められず,そのため,甲1発明に甲2に記載された技術事項を採用する動機付けがあるとは認められない。

 したがって,甲1発明に甲2に記載された技術事項及び周知の課題(甲10)を採用して,黄色発光ダイオードを設けることを容易に想到することができたとは認められず,これを容易に想到することができたとする本件審決の判断(前記⑶ウ())は誤りである。」