2024年4月15日月曜日

国内優先権主張の遡及効が争われた事例

 知財高裁令和6326日判決
令和5(行ケ)10057 審決取消請求事件
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/886/092886_hanrei.pdf
 
1.概要
 本事例は被告が有する特許権に対する原告による無効審判の審決(権利有効の判断)の取消を求めた審決取消訴訟の知財高裁判決である。
 特許権は2回の国内優先権主張を伴う。最初の基礎出願を優先権出願1とし、2回目の基礎出願を優先権出願2とする。優先権出願1と2との間に公知となった発明があるため、優先権出願1への遡及効が争点となった。
 本件発明は、害虫忌避組成物を噴射する噴射製品に関するものであり、害虫忌避成分として2つの物質(「EBAAP」及び「イカリジン」)のうち少なくとも1つを含むことが特定されている。優先権出願1にはEBAAPを用いた実験結果のみが記載されており、イカリジンを用いた実験結果は記載されていなかった。イカリジンを用いた実施例は、優先権出願2において追加された。
 知財高裁は、「優先権出願1の明細書等には、本件訂正発明1について、害虫忌避成分をイカリジンとする部分を含めて、その技術内容が、当該の技術分野における通常の知識を有する者(当業者)が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていると認められる」として、優先権出願1への遡及効を認める判断を示した。
 
2.訂正後の請求項1に係る発明(本件訂正発明1)
【請求項1
 害虫忌避成分を含む害虫忌避組成物が充填され、前記害虫忌避組成物を噴射する噴口が形成された噴射製品(ただし、噴射剤を含む場合を除く)であり、
 前記害虫忌避組成物は、20°Cでの蒸気圧が2.5kPa以下であり、かつ、噴射後の揮発を抑制するための揮発抑制成分(ただし揮発抑制成分がグリセリンである場合を除く)を、害虫忌避組成物中、10質量%以上含み、
 前記害虫忌避成分は、3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル、1-メチルプロピル 2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペ リジンカルボキシレートからなる群から選択される少なくとも1の成分であり、
 前記噴口から15cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r15と、前記噴口から30cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r30との粒子径比(r30/r15)が、0.6以上となるよう調整され、
 前記噴口から30cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r30が、50μm以上となるよう調整された、噴射製品。
 
略語について
EBAAP」=3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル
「イカリジン」=1-メチルプロピル 2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペリジンカルボキシレート
50%平均粒子径r15」=「前記噴口から 15cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r15
50%平均粒子径r30」=「前記噴口から30cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r30
「粒子径比(r30/r15)」=「前記噴口から15cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r15と、前記噴口から30cm離れた位置における噴射された前記害虫忌避組成物の50%平均粒子径r30との粒子径比(r30/r15)
 
3.裁判所の判断のポイント
「原告は、本件訂正発明1の要旨となる技術的事項のうち害虫忌避成分を「イカリジン」とする部分に、優先権出願1を基礎とする優先権主張の効果は認められないと主張するため、以下検討する。
(1) 特許法411項の規定による優先権(国内優先権)の主張を伴う後の出願に係る発明のうち、その国内優先権の主張の基礎とされた先の出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲若しくは実用新案登録請求の範囲又は図面(以下、これらを合わせて「当初明細書等」という。)に記載された発明については、新規性(291)、進歩性(292)等の実体審査に係る規定の適用に当たり、当該後の出願が当該先の出願の時にされたものとみなされる(特許法412)
 そして、国内優先権主張の効果が認められるかどうかについては、後の出願の特 許請求の範囲の文言が、先の出願の当初明細書等に記載されたものといえる場合であっても、後の出願の明細書の発明の詳細な説明に、先の出願の当初明細書等に記載されていなかった技術的事項を記載することにより、後の出願の特許請求の範囲 に記載された発明の要旨となる技術的事項が、先の出願の当初明細書等に記載された技術的事項の範囲を超えることになる場合は、その超えた部分については優先権主張の効果は認められないと解するのが相当である。
・・・(略)・・・
(4) 本件訂正発明1(害虫忌避成分が「イカリジン」である場合を含む)の要旨となる技術的事項が、優先権出願1の明細書等に記載された技術的事項の範囲を超えるものであるか
ア 上記(2)イで認定したとおり、優先権出願1の明細書等には、ディートに代わる害虫忌避成分として、3-(N-n-ブチル-N-アセチル)アミノプロピオン酸エチルエステル(EBAAP)p-メンタン-38-ジオール、1-メチルプ ロピル 2-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペリジンカルボキシレート(イカリジン)に共通して、「使用者の鼻や喉等の粘膜を刺激しやすい害虫忌避成分が配合されているにもかかわらず、粘膜への刺激が低減された噴射製品および噴射方法を提供する」という課題を有し、前記(2)()に認定した1~3の特徴を有すること、すなわち、所定量の揮発抑制成分を添加するなどして、50%平均粒子径r30と粒子径比(r30/r15)がそれぞれ所定の値以上(粒子径比(r30/r15)0.6以上、50%平均粒子径r3050μm以上)となるよう調整することにより、上記課題を解決することが記載されている。
 また、前記1(2)~ウ及びオのとおり、本件訂正発明1に関する背景技術、課題、解決手段に加えて、発明の効果に関するメカニズムや各構成要件の技術的意義については、本件明細書の【0001】、【0002】、【0004~0007】、【0009】、【0012~0015】、【0023】及び【0024】等に記載されているが、ほぼ同一の記載が、前記(2)()~()及び()のとおり、優先権出願1の明細書の【0001】、【0002】、【0004~0008】、【00120015】、【0017】、【0018】、【0026】及び【0027】において記載されていたものといえる。
イ また、本件訂正発明1の発明特定事項は、いずれも優先権出願1の特許請求の範囲の請求項1又は2に記載されており、害虫忌避成分としてEBAAPと同様にイカリジンも明記されていたものといえる。
ウ 前記(2)()及び(3)()のとおり、優先権出願1の明細書等において、実施例として記載されているのは、害虫忌避成分としてEBAAPを含む噴射製品のみであり、害虫忌避成分としてイカリジンを含む噴射製品に係る実施例は、優先権出願2の明細書等(実施例5及び7)により追加されたものであるが、当該実施例は、本件訂正発明1の実施に係る具体例であるとともに、優先権出願1の特許請求の範囲の請求項1又は2に発明特定事項が記載されていた発明の実施に係る具体例を確認的に記載したものと理解できるから、優先権出願1の明細書等に記載された技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとはいえない。
エ したがって、本件訂正発明1の要旨となる技術的事項は、イカリジンを含む部分も含めて優先権出願1の明細書等において記載された技術的事項の範囲を超えるものではないから、本件訂正発明1は、害虫忌避成分をイカリジンとする部分についても、優先権出願1に基づく国内優先権主張の効果が認められる。
 
・・・(略)・・・
 
 そして、前記のとおり、優先権出願1の明細書等には、本件訂正発明1に関する背景技術、課題、解決手段に加えて、発明の効果に関するメカニズムや各構成要件の技術的意義が記載されており、これらはEBAAPp-メンタン-38-ジオール及びイカリジンに共通して適用されることも把握できるものといえる。すなわち、優先権出願1の明細書等には、本件訂正発明1について、害虫忌避成分をイカリジンとする部分を含めて、その技術内容が、当該の技術分野における通常の知識を有する者(当業者)が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていると認められる。
 これに対し、原告は、EBAAPとイカリジンとは物質として害虫忌避作用があるということのほかには類似性がないこと等により、イカリジンを害虫忌避成分とする場合にEBAAPと同様の結果となるかどうかは判断できず、優先権出願2の出願時にイカリジンに関する実施例を追加することで、初めて実験による技術上の裏付けがされ完成したものであることを主張する。
 この点、本件訂正発明1では、害虫忌避組成物の50%平均粒子径r30が、成分の揮発によって小さくなることを抑制するために、蒸気圧が小さい揮発抑制成分(2 0°Cでの蒸気圧が2.5kPa以下)を配合しているところ(本件明細書の【00 14)、一般に、物質の揮発しやすさ(揮発性、揮発度ともいう。)は、その成分の蒸気圧によって決定されるものであり(64)、蒸気圧が小さいものは揮発しにくく、蒸気圧が大きいものは揮発しやすいものであるといえる。そこで、20°CにおけるEBAAPやイカリジンの蒸気圧についてみると、EBAAP0.0001 5kPa(=0.15Pa、甲27)、イカリジンが0.000034kPa(=3. 4×10-4hPa、甲28)であるのに対し、揮発抑制成分の蒸気圧は、13-ブチレングリコールが0.008kPa(=0.08hPa、甲39)、プロピレン グリコールが0.0107kPa(=0.08mmHg、甲40)、水が2.3366kPa(312)であり、溶剤の蒸気圧は、無水エタノールが5.8kP a(65)であって、EBAAPとイカリジンの蒸気圧は、揮発抑制成分の蒸気圧や溶剤の蒸気圧に比べて極めて小さいものといえる。これらのことからすると、EBAAPとイカリジンはほとんど揮発しないという点では変わりがないから、両者の蒸気圧の違いは、粒子径比(r30/r15)50%平均粒子径r30に対して与える影響を無視できるものといえる。そうすると、当業者は、EBAAPとイカリジンの蒸気圧を考慮すると、害虫忌避成分としてEBAAPとイカリジンのいずれを使用しても、害虫忌避成分の揮発による粒子径や粒子径比(r30/r15)への影響は変わらないものと理解できる。
 したがって、本件訂正発明1のうち害虫忌避成分をイカリジンとする部分は、少 なくとも優先権出願2におけるイカリジンに関する実施例を追加することで、初めて実験による技術上の裏付けがなされ完成したものであるとする原告の主張は採用できない。

2024年4月7日日曜日

プロダクトバイプロセスクレームの明確性が争われた事例

知財高裁令和6318日判
令和4(行ケ)10127(1事件)、第10128(2事件)、第1 0129(3事件)、第10130(4事件)、令和5(行ケ)100 27(5事件)審決取消請求事件
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/858/092858_hanrei.pdf
 
1.概要
 本事例は、被告である特許権者が有する特許に対し、原告が請求した無効審判の審決(特許有効の判断)の取消を求めた審決等取消訴訟の知財高裁判決である。
 争点の一つが、プロダクトバイプロセス(PBP)クレームの明確性要件の充足性である。
 本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(本件訂正発明1)は以下のとおり。
「【請求項1
 一つ以上の薬剤的に許容な賦形剤と密に混合させた10mg乃至1000 mgの量の微粒子セレコキシブを含み、一つ以上の個別な固体の経口運搬可能な投与量単位を含む製薬組成物であって、
 セレコキシブ粒子が、ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり、
 粒子の最大長において、セレコキシブ粒子のD9030μmである粒子サイズの分布を有し、
ラウリル硫酸ナトリウムを含有する加湿剤を含む
製薬組成物。」
 このうち「セレコキシブ粒子が、ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり、」という特徴の明確性が争われた。本件訂正後の特許請求の範囲の請求項2に係る発明(本件訂正発明2)もこの構成を含む。
 審決は、「本出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下「不可能・非実際的事情」という。)が認められる」として明確性要件(特許法36条6項2号)を充足すると判断した。
 知財高裁は、不可能・非実際的事情の存在の検討以前に、特許請求の範囲に記載された製造方法自体が明確性を欠くとして審決を取り消した。「PBPクレームは、・・・(略)・・・そのような特許請求の範囲が明確性要件を充足するためには、不可能・非実際的事情の存在が要求されるのであるが、本件においては、不可能・非実際的事情を検討する以前の問題として、・・(略)・・そもそも特許請求の範囲に記載された製造方法自体が明確性を欠くものである」
 
2.裁判所の判断のポイント
「取消事由3(明確性要件に関する判断の誤り)について
(1)特許法3662号は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、権利者がどの範囲において独占権を有するのかについて予測可能性を奪うなど第三者の利益が不当に害されることがあり得ることから、特許を受けようとする発明が明確であることを求めるものである。その充足性の判断は、特許請求の範囲の記載だけではなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から行うのが相当である。
(2)本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び2は、「セレコキシブ粒子が、ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕されたものであり、」との発明特定事項(以下「本件ピンミル構成」ということがある。)を含む(・・・(略)・・・)ところ、本件ピンミル構成を巡っては、そのクレーム解釈(PBPクレームといえるか否か、「ピンミルのような」は衝撃式ミルの単なる例示か、衝撃式ミルの一部に限定する構成かなど)と、当該クレーム解釈を前提とした明確性要件の適合性の議論が重層的に争われているので、以下、順次検討していく。
(3)まず、本件ピンミル構成がPBPクレームに当たるかについて検討するに、本件ピンミル構成に関する本件明細書の【0024】、【0190】の記載が、セレコキシブ粒子を粉砕する製造工程、製造方法を開示していることは明らかであり、したがって、本件訂正によって特許請求の範囲の発明特定事項とされるに至った本件ピンミル構成についても、「ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕」するという製造方法をもって物の構造又は特性を特定しようとするもの(その意図が成功しているかどうかはともかく)と理解される。この限度では、被告が主張し、本件審決が判断を示しているとおりである。
・・・(略)・・・
(4)次に、本件ピンミル構成の意味するところ(例示か限定か)を検討するに、「ピンミルのような衝撃式ミル」との特許請求の範囲の文言自体に着目して考えた場合、1ピンミルは単なる例示であって衝撃式ミル全般を意味するという理解、2衝撃式ミルに含まれるミルのうち、ピンミルと類似又は同等の特性を有する衝撃式ミルを意味するという理解のいずれにも解する余地があり、特許請求の範囲の記載のみから一義的に確定することはできない。そこで、本件明細書の記載を参照するに、本件明細書の【0024】には、・・・(略)・・・との記載が、【0135】には、・・・(略)・・・との記載がある。
 以上の記載に上記(3)の解釈を併せて考えると、本件ピンミル構成は、被告が主張(33(6))するように、本件訂正発明に係る薬剤組成物の含むセレコキシブ粒子が、ピンミルで粉砕されたセレコキシブ粒子に見られるのと同様の、長い針状からより均一な結晶形へと変質されて、凝集力が低下し、ブレンド均一性が向上した構造、特性を有するものであることを特定する構成であって、したがって、「ピンミルのような衝撃式ミル」とは、ピンミルに限定されるものではなく、上記のような構造、特性を有するセレコキシブ粒子が得られる衝撃式ミルがこれに含まれ得るものと理解するのが相当である。
(5)以上を前提に、本件ピンミル構成を含む本件訂正発明の特許請求の範囲の記載が明確性要件を満たすかどうかを検討する。
ア衝撃式粉砕機に分類される粉砕機としては、本件審決も認定しているとおり、多種多様なものがある(ハンマーミル、ケージミル、ピンミル、ディスインテグレータ、スクリーンミル等が知られており、ハンマーの形状によっても、ナイフ型、アブミ型、ブレード型、ピン型等がある。甲イ111112136)ところ、上記(4)で示したクレーム解釈によると、衝撃式粉砕機によって粉砕されたセレコキシブ粒子を含む薬剤組成物であっても、本件特許の技術的範囲に属するものと属しないものがあることになるが、本件明細書に接した当業者において、「ピンミルで粉砕されたセレコキシブ粒子に見られるのと同様の、長い針状からより均一な結晶形へと変質されて、凝集力が低下し、ブレンド均一性が向上した構造、特性を有するセレコキシブ粒子」を製造できる衝撃式粉砕機がいかなるものかを理解できるとは到底認められない。すなわち、一般に、明細書に製造方法の逐一が記載されていなくても、当業者であれば、明細書の開示に技術常識を参照して当該製造方法の意味するところを認識できる場合も少なくないと解されるが、本件の場合、本件明細書には、「ピンミルで粉砕されたセレコキシブ粒子」の凝集力の小ささ、改善されたというブレンド均一性が、ピンミルのいかなる作用によって実現されるものかの記載がないため、衝撃式ミル一般によって実現されるものなのか、衝撃式ミルのうち、ピンミルと何らかの特性を共通にするものについてのみ達成されるものなのかも明らかとなっていない。そのため、技術常識を適用しようとしても、いかなる特性に着目して、ある衝撃式ミルが本件ピンミル構成にいう「ピンミルのような衝撃式ミル」に当たるか否かを判断すればよいのかといった手掛かりさえない状況といわざるを得ない。
そうすると、本件明細書等に加え本件出願日(明確性要件の判断の基準時)当時の技術常識を考慮しても、「ピンミルのような衝撃式ミル」の範囲が明らかでなく、「ピンミルのような衝撃式ミルで粉砕」するというセレコキシブ粒子の製造方法は、当業者が理解できるように本件明細書等に記載されているとはいえないから、本件訂正発明は明確であるとはいえない。
ところで、PBPクレームは、物自体の構造又は特性を直接特定することに代えて、物の製造方法を記載するものであり、そのような特許請求の範囲が明確性要件を充足するためには、不可能・非実際的事情の存在が要求されるのであるが、本件においては、不可能・非実際的事情を検討する以前の問題として、前記ア、イに示したようにそもそも特許請求の範囲に記載された製造方法自体が明確性を欠くものである。
(6)本件審決は、「ピンミルのような衝撃式ミルは、いわゆる衝撃式粉砕機であり、粉砕された粉体は、ジェットミルのような流体式(気流式)粉砕機とは異なる粒度分布の粉体を作製する装置であることが理解できるから明確である」としており、これは、「ピンミルのような」について、「いわゆる衝撃式粉砕機」のなかでも、さらに、「粉砕された粉体は、ジェットミルのような流体式(気流式)粉砕機とは異なる粒度分布の粉体を作製する」ことのできる装置であるとの意味づけを与えた認定であると解される。
 ・・・(略)・・・しかし、本件明細書には、凝集力の違いが、粉砕装置の違いに基づく粒子の粒度分布の違いに起因するものであるとの記載も示唆もない。粉砕装置の違いが、粒度分布の違い以外の粒子特性を導くことも当然考えられるところである(これを否定する技術常識があるとは認められない。)。そうすると、「ピンミルのような」が、「衝撃式ミル」に対して、さらに「粉砕された粉体は、ジェットミルのような流体式(気流式)粉砕機とは異なる粒度分布の粉体を作製する装置」であるとの意味づけを与えた本件審決の解釈は、本件明細書等の記載及び技術常識を考慮しても、無理があるものといわざるを得ない。
(7)以上より、不可能・非実際的事情の検討をするまでもなく、本件訂正後の請求項12457~131517~19の記載は明確性要件に違反するものであり、取消事由3は理由がある。」