2022年5月29日日曜日

インターネット上の投稿記事の証拠能力に関する判断の例

 知財高裁令和4511日判決
令和3(行ケ)10080号審決取消請求事件
 
1.概要
 本事例は、被告の特許権に対する無効審判での特許有効の審決に対する審決取消訴訟の知財高裁判決である。
 SNS上の投稿記事(甲63、65、66の1)に掲載の写真が周知技術の証拠として原告により提出された。被告は投稿日時が正確でないことなどから証拠価値はないと主張したが、知財高裁は「前記(2)イの各投稿がされた日付につき、これが不正確であることをうかがわせる証拠はなく、これらの投稿は、いずれも本件出願日前にされたものであると認められる。その他、甲6365及び661の信用性を減殺するような事情は認められない。」と判断した。
 
2.本件発明
「入射光をそのまま光源方向へ再帰反射する黒色の再帰反射材と、
 前記再帰反射材の表面に印刷により形成された図柄からなる透光性の印刷層と、
を備えることを特徴とする図柄表示媒体。」
 
 原告は、「黒色の再帰反射フィルムに文字、図柄等からなる印刷層を形成することは、本件出願日当時の周知技術であった」ことの証拠として、以下の三つを提出した。
 甲63(インターネット上の電子掲示板への投稿記事(2011215))
 甲65(フェイスブックへの投稿記事(201275日、同月6日及 び201557))
 甲661(ユーチューブへの投稿記事(201517))
 
3.裁判所の判断のポイント
「ア 被告は、甲6365及び661は撮影に関する条件の詳細が不明であり、再帰反射を意味する「retroreflective」の語が使用されておらず、投稿日時が正確でないから、これらの証拠に証拠価値はないと主張する。
 しかしながら、前記(2)イのとおり、これらの証拠からは、文字、図柄等が印刷された黒色反射材等を撮影した写真等が掲載されていることが明確に見て取れるのであり、これは、撮影に関する条件の詳細が不明であることにより左右されるものではない。また、確かに、これらの証拠においては、「retroreflective」ではなく「reflective」の語が用いられているが、前記(2)イの記載等の内容に加え、再帰反射材に係るカタログであることが明らかな甲4において「reflective」の語が用いられていることも併せ考慮すると、甲6365及び661にいう「reflective」は、再帰反射を意味するものと解するのが相当である。さらに、前記(2)イの各投稿がされた日付につき、これが不正確であることをうかがわせる証拠はなく、これらの投稿は、いずれも本件出願日前にされたものであると認められる。その他、甲6365及び661の信用性を減殺するような事情は認められない。

2022年5月22日日曜日

請求項補正の目的の「限定的減縮」の該当性が争われた事例

 知財高裁令和4428日判決言渡
令和3(行ケ)10097号 審決取消請求事件
 
1.概要
 本事例は、特許出願人である原告が、拒絶査定不服審判の請求時に提出した手続補正書が「限定的減縮」の目的要件を満たさないと判断した拒絶審決の取り消しを求めたが、知財高裁が請求を棄却した事例である。
 補正前の請求項10は、補正前の請求項1〜7に従属する請求項8又は9に記載のシステムの構成要件を内的に限定する4つの特徴を記載する請求項であった。
 原告が拒絶査定不服審判請求時に提出した手続補正書では、新たに請求項8を追加し、補正前の請求項10を補正後の請求項11とした。補正後の請求項8は、補正後の請求項1〜7のいずれか1項に記載のシステムの構成要件を内的に限定する、補正前の請求項10に記載の4つの特徴のうち3つを記載する請求項である。すなわち補正後の請求項8は、補正前の請求項1と請求項10の間の中間概念に相当する。
 知財高裁は、「補正が『特許請求の範囲の減縮』を目的とするものに該当するというためには、補正後の請求項が補正前の請求項の発明特定事項を限定した関係にあることが必要であり、その判断に当たっては、補正後の請求項が補正前のどの請求項と対応関係にあるかを特定し、その上で、補正後の請求項が補正前の当該請求項の発明特定事項を限定するものかどうかを判断すべきものと解される。また、補正により新しい請求項を追加する増項補正であっても、補正後の新しい請求項がそれと対応関係にある補正前の特定の請求項の発明特定事項を限定するものであれば、『特許請求の範囲の減縮』を目的とするものに該当するものと解される。」として、本件のような「増項補正」であっても「特許請求の範囲の減縮」に該当する場合があることを判示した。
 このため仮に補正後の請求項8が補正前の請求項1に対応する場合は、請求項8を追加する補正も「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正と判断される余地があることになる。
 しかしながら知財高裁は、本件の場合は、「本件補正後の請求項8は、本件補正後の請求項1のほか、請求項2ないし7の発明特定事項を引用するものであり、本件補正後の請求項1の従属項であるのみならず、請求項2ないし7の従属項でもあること、本件補正後の請求項1は、本件補正後の請求項2ないし7の発明特定事項を含むものではないことからすると、本件補正後の請求項8は、本件補正において、本件補正前の請求項1と一対一で対応する請求項に該当しないのはもとより、これに準ずるような対応関係に立つものと認めることはできない。」として、補正後の請求項8は、補正前の請求項1と対応するものではなく、補正前の請求項10と対応するものであると判断した。そのうえで、知財高裁は、補正後の請求項8は、補正前の請求項10を拡張するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」には該当せず、拒絶審決は適法であると結論づけた。
 もし仮に、補正後の請求項8が、請求項1のみに従属する請求項であった場合に、補正前の請求項1に対応するものと判断され、補正後の請求項8を追加する補正が、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするという結論になったのかが興味深いところである。
 
2.補正の前後の請求項
2.1.補正前の請求項1、10
【請求項1】
 スポーツ器具による物体の打撃を伴うプレーヤまたはユーザにより実行されるスポーツ動作のパフォーマンスに関する情報を少なくとも1個のセンサから自動的に収集するためのシステムであって、
 該システムは、少なくとも1個のタグと、身体装着型装置とを備え、 
 前記少なくとも1個のタグは、少なくとも1個のRFIDタグまたはNFCタグからなり、かつ、前記スポーツ器具に取り付けられるよう構成されており、
 前記身体装着型装置は、ストラップと、前記少なくとも1個のセンサと、タグ読取装置とを備え、
 前記少なくとも1個のセンサは、少なくとも1個のスイングセンサと、少なくとも1個の物体接触センサとを備え、該少なくとも1個の物体接触センサは、前記スポーツ器具による前記物体との接触を検知するように構成されており、
 該システムは、前記少なくとも1個のスイングセンサからの読み取り値に基づいて、あるいは、該読み取り値に応答して、前記少なくとも1個の物体接触センサを作動させるよう構成されており、および、
 前記タグ読取装置は、RFIDタグ読取装置またはNFCタグ読取装置からなり、かつ、前記ストラップの少なくとも一部またはすべてに沿ってまたはその周囲に延在するアンテナを備える、システム。
 
【請求項10】 
 前記ストラップは、前記ストラップの調整位置、周囲長さ、形状、または長さを変更するように調整可能であり、 
 該システムが、前記ストラップの前記調整位置、周囲長さ、形状、または長さ、あるいは、これらを示すデータを特定するように構成されたストラップセンサを備え、該システムが、特定された前記ストラップの調整位置、周囲長さ、形状、または長さ、あるいは、これらを示すデータに基づいて、前記アンテナの少なくとも1個の動作パラメータまたは前記アンテナのための補償を調整するように構成されており、
 該システムが、複数のアンテナ整合回路またはシステム、および/または、調整可能な整合回路またはシステムを備え、該システムが、特定された前記ストラップの調整位置、周囲長さ、形状、または長さ、あるいは、これらを示すデータに基づいて、前記整合回路またはシステムのうちの1個以上を選択および/または変更することによって、前記アンテナの少なくとも1個の動作パラメータまたは前記アンテナのための補償を調整するように構成されており、
 前記ストラップセンサが、前記ストラップの第1の部分に備えられた1個以上の第1接点と、前記ストラップの第2の部分に備えられた1個以上の第2接点とを備えるか、あるいは、第1接点および第2接点と通信可能であり、第1接点のうちの1個以上が、第2接点のうちの1個以上と選択的に接触可能であり、前記ストラップが閉じられるか固定されたときに、第1接点の1個以上および第2接点の1個以上の間の接触により測定回路を完成させるように構成されている導体によって、第1接点と第2接点とが結合されて、該システムが、前記ストラップセンサによって測定された前記測定回路の少なくとも1つの電気特性に基づいて、前記ストラップの前記調整位置、周囲長さ、形状、または長さを特定するように構成されている、請求項8または9に記載のシステム。
 
 
2.2.補正後の請求項8、11
【請求項8】
 前記ストラップは、前記ストラップの調整位置、周囲長さ、形状、または長さを変更するように調整可能であり、
 該システムが、前記ストラップの前記調整位置、周囲長さ、形状、または長さ、あるいは、これらを示すデータを特定するように構成されたストラップセンサを備え、該システムが、特定された前記ストラップの前記調整位置、周囲長さ、形状、または長さ、あるいは、これらを示すデータに基づいて、前記アンテナの少なくとも1個の動作パラメータまたは前記アンテナのための補償を調整するように構成されており、
 該システムが、複数のアンテナ整合回路もしくはシステム、および/または、調整可能な整合回路もしくはシステムを備え、該システムが、特定された前記ストラップの前記調整位置、周囲長さ、形状、または長さ、あるいは、これらを示すデータに基づいて、前記複数のアンテナ整合回路もしくはシステム、および/または、調整可能な整合回路もしくはシステムのうちの1個以上を選択および/または変更することによって、前記アンテナの少なくとも1個の動作パラメータまたは前記アンテナのための補償を調整するように構成されている、請求項1~7のいずれかに記載のシステム。
 
【請求項11】(補正前の10に相当)
 前記ストラップは、前記ストラップの調整位置、周囲長さ、形状、または長さを変更するように調整可能であり、
 該システムが、前記ストラップの前記調整位置、周囲長さ、形状、または長さ、あるいは、これらを示すデータを特定するように構成されたストラップセンサを備え、該システムが、特定された前記ストラップの前記調整位置、周囲長さ、形状、または長さ、あるいは、これらを示すデータに基づいて、前記アンテナの少なくとも1個の動作パラメータまたは前記アンテナのための補償を調整するように構成されており、
 該システムが、複数のアンテナ整合回路もしくはシステム、および/または、調整可能な整合回路もしくはシステムを備え、該システムが、特定された前記ストラップの前記調整位置、周囲長さ、形状、または長さ、あるいは、これらを示すデータに基づいて、前記複数のアンテナ整合回路もしくはシステム、および/または、調整可能な整合回路もしくはシステムのうちの1個以上を選択および/または変更することによって、前記アンテナの少なくとも1個の動作パラメータまたは前記アンテナのための補償を調整するように構成されており、
 前記ストラップセンサが、前記ストラップの第1の部分に備えられた1個以上の第1接点と、前記ストラップの第2の部分に備えられた1個以上の第2接点とを備えるか、あるいは、第1接点および第2接点と通信可能であり、第1接点のうちの1個以上が、第2接点のうちの1個以上と選択的に接触可能であり、前記ストラップが閉じられるか固定されたときに、第1接点の1個以上および第2接点の1個以上の間の接触により測定回路を完成させるように構成されている導体によって、第1接点と第2接点とが結合されて、該システムが、前記ストラップセンサによって測定された前記測定回路の少なくとも1つの電気特性に基づいて、前記ストラップの前記調整位置、周囲長さ、形状、または長さを特定するように構成されている、請求項または10に記載のシステム。
 
3.裁判所の判断のポイント
「1 補正事項1の判断の誤りについて 
⑴ 本件補正後の請求項8と対応する補正前の請求項について
ア特許法17条の2第5項は、拒絶査定不服審判を請求する場合において、その審判の請求と同時に特許請求の範囲についてする補正(同条1項ただし書4号)は、同条5項1号から4号までのいずれかの事項を目的とするものに限ると規定し、同項2号は、「特許請求の範囲の減縮」(同法36条5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)と規定している。同法17条の2第5項の趣旨は、拒絶査定を受け、拒絶査定不服審判の請求と同時にする特許請求の範囲の補正について、既に行った先行技術文献調査の結果等を有効利用できる範囲内に制限することにより、迅速な審査を行うことができるようにしたことにあるものと解される。このような同項の趣旨及び同項2号の文言に照らすと、補正が「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するというためには、補正後の請求項が補正前の請求項の発明特定事項を限定した関係にあることが必要であり、その判断に当たっては、補正後の請求項が補正前のどの請求項と対応関係にあるかを特定し、その上で、補正後の請求項が補正前の当該請求項の発明特定事項を限定するものかどうかを判断すべきものと解される。
 また、補正により新しい請求項を追加する増項補正であっても、補正後の新しい請求項がそれと対応関係にある補正前の特定の請求項の発明特定事項を限定するものであれば、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するものと解される。
 以上を前提に、補正事項1が「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するかどうかについて判断する。 
イ前記第2の2(1)のとおり、本件補正前の特許請求の範囲は、請求項1ないし21からなり、請求項1ないし16に係る発明はシステムの発明、請求項17及び18に係る発明は携帯装置の発明、請求項19及び20に係る発明はタグの発明、請求項21に係る発明は方法の発明である。
 一方、前記第2の2(2)のとおり、本件補正後の特許請求の範囲は、請求項1ないし22からなり、請求項1ないし21に係る発明はシステムの発明、請求項22に係る発明は方法の発明である。
 本件補正前の請求項1ないし16と本件補正後の請求項1ないし17を対比すると、本件補正後の請求項1は、本件補正前の請求項1の文言の一部を補正したものであること、本件補正後の請求項2ないし7は、それぞれ本件補正前の請求項2ないし7と同一の記載であること、本件補正後の請求項9は、本件補正前の請求項8と同一の記載であること、本件補正後の請求項10ないし15は、それぞれ本件補正前の請求項9ないし14の文言の一部を補正したものであること、本件補正後の請求項16及び17は、それぞれ本件補正前の請求項15及び16と同一の記載であることが認められるから、本件補正前の請求項1ないし16は、それぞれ本件補正後の請求項1ないし7、9ないし17と対応関係にあることが認められる。
 そうすると、本件補正後の請求項8は、本件補正により、新たに追加された請求項であることが認められる。 
ウ 次に、本件補正後の請求項8の記載は、 
「前記ストラップは、前記ストラップの調整位置、周囲長さ、形状、または長さを変更するように調整可能であり、
 該システムが、前記ストラップの前記調整位置、周囲長さ、形状、または長さ、あるいは、これらを示すデータを特定するように構成されたストラップセンサを備え、該システムが、特定された前記ストラップの前記調整位置、周囲長さ、形状、または長さ、あるいは、これらを示すデータに基づいて、前記アンテナの少なくとも1個の動作パラメータまたは前記アンテナのための補償を調整するように構成されており、
 該システムが、複数のアンテナ整合回路もしくはシステム、および/または、調整可能な整合回路もしくはシステムを備え、該システムが、特定された前記ストラップの前記調整位置、周囲長さ、形状、または長さ、あるいは、これらを示すデータに基づいて、前記複数のアンテナ整合回路もしくはシステム、および/または、調整可能な整合回路もしくはシステムのうちの1個以上を選択および/または変更することによって、前記アンテナの少なくとも1個の動作パラメータまたは前記アンテナのための補償を調整するように構成されている、
請求項1~7のいずれかに記載のシステム。」であるのに対し、 
 本件補正前の請求項10の記載は、 
「前記ストラップは、前記ストラップの調整位置、周囲長さ、形状、または長さを変更するように調整可能であり、 
 該システムが、前記ストラップの前記調整位置、周囲長さ、形状、または長さ、あるいは、これらを示すデータを特定するように構成されたストラップセンサを備え、該システムが、特定された前記ストラップの調整位置、周囲長さ、形状、または長さ、あるいは、これらを示すデータに基づいて、前記アンテナの少なくとも1個の動作パラメータまたは前記アンテナのための補償を調整するように構成されており、
 該システムが、複数のアンテナ整合回路またはシステム、および/または、調整可能な整合回路またはシステムを備え、該システムが、特定された前記ストラップの調整位置、周囲長さ、形状、または長さ、あるいは、これらを示すデータに基づいて、前記整合回路またはシステムのうちの1個以上を選択および/または変更することによって、前記アンテナの少なくとも1個の動作パラメータまたは前記アンテナのための補償を調整するように構成されており、
 前記ストラップセンサが、前記ストラップの第1の部分に備えられた1個以上の第1接点と、前記ストラップの第2の部分に備えられた1個以上の第2接点とを備えるか、あるいは、第1接点および第2接点と通信可能であり、第1接点のうちの1個以上が、第2接点のうちの1個以上と選択的に接触可能であり、前記ストラップが閉じられるか固定されたときに、第1接点の1個以上および第2接点の1個以上の間の接触により測定回路を完成させるように構成されている導体によって、第1接点と第2接点とが結合されて、該システムが、前記ストラップセンサによって測定された前記測定回路の少なくとも1つの電気特性に基づいて、前記ストラップの前記調整位置、周囲長さ、形状、または長さを特定するように構成されている、
請求項8または9に記載のシステム。」 
であること、本件補正前の請求項10が引用する請求項8は、本件補正前の「請求項1~7」を、本件補正前の請求項9は「請求項4に従属する請求項8」を引用しているから、本件補正前の請求項10は、本件補正前の請求項1ないし7の従属項であることからすると、本件補正後の請求項8は、本件補正前の請求項10の発明特定事項から、「前記ストラップセンサが、前記ストラップの第1の部分に備えられた1個以上の第1接点と、前記ストラップの第2の部分に備えられた1個以上の第2接点とを備えるか、あるいは、第1接点および第2接点と通信可能であり、第1接点のうちの1個以上が、第2接点のうちの1個以上と選択的に接触可能であり、前記ストラップが閉じられるか固定されたときに、第1接点の1個以上および第2接点の1個以上の間の接触により測定回路を完成させるように構成されている導体によって、第1接点と第2接点とが結合されて、該システムが、前記ストラップセンサによって測定された前記測定回路の少なくとも1つの電気特性に基づいて、前記ストラップの前記調整位置、周囲長さ、形状、または長さを特定するように構成されている」との構成を削除した請求項であり、本件補正前の請求項10と対応関係にあることが認められる。
 そして、前記⑴イのとおり、本件補正後の請求項11は、本件補正前の請求項10と対応関係にあるから、本件補正前の請求項10は、本件補正後の請求項8及び11の両請求項と対応関係にあることが認められる。
 以上によれば、補正事項1は、新たに本件補正後の請求項8を追加する増項補正に当たり、また、本件補正後の請求項8は、本件補正前の請求項10と対応関係にあることが認められる。
エ これに対し原告は、本件補正後の請求項8は、本件補正後の請求項1ないし7に従属し、本件補正前の請求項1に内的付加に相当する追加的要件(a) ストラップは、該ストラップの調整位置、周囲長さ、形状、または長さを変更するように調整可能である点、(b) システムが、ストラップの調整位置、周囲長さ、形状、または長さ、あるいは、これらを示すデータを特定するように構成されたストラップセンサを備える点、(c) システムが、ストラップの調整位置、周囲長さ、形状、または長さ、あるいは、これらを示すデータに基づいて、アンテナの少なくとも1個の動作パラメータまたは前記アンテナのための補償を調整するように構成されている点、(d) システムが、複数のアンテナ整合回路もしくはシステム、および/または、調整可能な整合回路もしくはシステムを備える点、(e) システムが、特定されたストラップの調整位置、周囲長さ、形状、または長さ、あるいは、これらを示すデータに基づいて、複数のアンテナ整合回路もしくはシステム、および/または、調整可能な整合回路もしくはシステムのうちの1個以上を選択および/または変更することによって、前記アンテナの少なくとも1個の動作パラメータまたは前記アンテナのための補償を調整するように構成されている点)を規定したものであり、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであるから、本件補正前の請求項1と一対一で対応する請求項ではないとしても、これに準ずるような対応関係に立つ旨主張する。
 しかしながら、本件補正後の請求項8は、本件補正後の請求項1のほか、請求項2ないし7の発明特定事項を引用するものであり、本件補正後の請求項1の従属項であるのみならず、請求項2ないし7の従属項でもあること、本件補正後の請求項1は、本件補正後の請求項2ないし7の発明特定事項を含むものではないことからすると、本件補正後の請求項8は、本件補正において、本件補正前の請求項1と一対一で対応する請求項に該当しないのはもとより、これに準ずるような対応関係に立つものと認めることはできない。
 したがって、原告の上記主張は、採用することができない。 
(2) 補正事項1の「特許請求の範囲の減縮」の目的該当性について 
ア 前記(1)ウ認定のとおり、本件補正後の請求項8は、本件補正前の請求項10と対応関係にあることが認められる。
 しかるところ、前記(1)ウ認定のとおり、本件補正後の請求項8は、本件補正前の請求項10の発明特定事項から、「前記ストラップセンサが、前記ストラップの第1の部分に備えられた1個以上の第1接点と、前記ストラップの第2の部分に備えられた1個以上の第2接点とを備えるか、あるいは、第1接点および第2接点と通信可能であり、第1接点のうちの1個以上が、第2接点のうちの1個以上と選択的に接触可能であり、前記ストラップが閉じられるか固定されたときに、第1接点の1個以上および第2接点の1個以上の間の接触により測定回路を完成させるように構成されている導体によって、第1接点と第2接点とが結合されて、該システムが、前記ストラップセンサによって測定された前記測定回路の少なくとも1つの電気特性に基づいて、前記ストラップの前記調整位置、周囲長さ、形状、または長さを特定するように構成されている」との構成を削除した請求項であるところ、この削除によって、本件補正前の請求項10の発明特定事項を限定したものと認めることはできず、かえって、本件補正前の請求項10に係る発明を上位概念化したものといえるから、補正事項1は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものと認められない。
イ これに対し原告は、本件補正後の請求項8は、本件補正後の請求項1ないし7に従属し、本件補正前の請求項1に内的付加に相当する追加的要件を規定したものであるから、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものである、本件拒絶理由通知では、本件補正前の請求項1について新規性及び進歩性などの実体的要件に関する拒絶理由の指摘はなく、本件補正前の請求項1に特許性が認められていることからすると、本件補正後の請求項8は、本件補正前の請求項1に対する従前の審査内容に沿って特許性を具備するものといえるから、本件補正前の請求項1についての審査を十分に有効活用して、補正された発明の審査を行うことが可能であり、新たな先行技術調査等を要求することで審査遅延などの事態を生じさせないことも明らかである、③厳密には、本件補正後の請求項8は、本件補正前の請求項1と一対一で対応する請求項ではないとしても、これに準ずるような対応関係に立つものであり、補正事項1は、既にされた審査結果を有効に活用できる範囲内で補正を認めることとした特許法17条の2第5項の制度趣旨に反するものではなく、同項2号が許容する増項補正に相当するから、本件補正前の請求項1との関係で「特許請求の範囲の減縮」(同号)を目的とするものに該当する旨主張する。しかしながら、前記(1)エで説示したとおり、本件補正後の請求項8は、本件補正前の請求項1と一対一で対応する請求項に該当しないのはもとより、これに準ずるような対応関係に立つものと認めることはできないから、この点において、原告の上記主張は、その前提を欠くものである。
 また、前記アで説示したとおり、本件補正後の請求項8は、本件補正前の請求項10の発明特定事項の構成の一部を削除した請求項であるが、本件においては、本件補正前の請求項10の発明特定事項から上記構成を削除した請求項について、サポート要件等の記載要件の審査が行われた形跡はうかがわれず、かかる審査が新たに必要となるものと考えられるから、本件補正後の請求項8は、本件補正前の請求項1に対する従前の審査内容に沿って特許性を具備するものと直ちにいえるものではなく、この点においても、原告の上記主張は、その前提を欠くものである。
 したがって、補正事項1は「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものと認められないから、原告の上記主張は、採用することができない。」