2024年10月20日日曜日

不服審判請求時減縮補正クレームの補正却下に手続違背は無いとされた事例

 知財高裁令和6年10月9日判決言渡
令和5年(行ケ)第10139号 審決取消請求事件

1.概要
本事例は、特許出願人である原告の特許出願に対する拒絶審決(新規性進歩性欠如)の取り消しを求めた審決取消訴訟の知財高裁判決(審決は適法、請求棄却)である。
拒絶査定では、引用文献(特許公開公報)(甲1)に記載の「引用発明2」に基づき新規性進歩性欠如の拒絶理由が示された。
特許出願人(原告)は、拒絶査定不服審判請求時に請求項発明を減縮する補正を行なった。
審決では、補正後の発明は、同じ甲1に記載の「引用発明1」により進歩性を欠くとして独立特許要件違反により補正を却下し、拒絶査定時の請求項は拒絶査定のとおり「引用文献2」に基づき新規性進歩性欠如と判断した。
原告は、補正却下処分の手続違背を争ったが、知財高裁は、処分は適法と判示した。

「引用発明1及び引用発明2は、同じ引用文献(甲1)に基づくものであって、その内容には共通の部分がある上、甲1は、拒絶査定に先立つ令和4年11月9日付け拒絶理由通知書(甲3)にも引用されていたから、原告には、甲1の記載内容を検討する機会が十分に与えられていたというべきであるから、引用発明1に基づく拒絶理由通知をすることなく、独立特許要件を欠く補正を却下したとしても、原告に対する不意打ちに当たるとはいえず、出願人の防御の機会を保障すべき違法があったということはできない。」

2.裁判所の判断のポイント

「原告は、本件審決に記載された引用発明1と引用発明2は、異なる発明であり、審査では、引用発明2の存在に基づく拒絶理由通知がされ、審決に至るまで引用発明1の存在に基づく拒絶理由通知はされず、引用発明1の存在に基づく拒絶理由に対しての防御機会は与えられなかったから、特許法159条2項、50条本文違反の手続違背があると主張する。確かに、特許庁における手続の経緯等によれば、本願発明についてされた令和4年11月9日付け拒絶理由通知(甲3)では、引用文献1に記載された引用発明2に基づく拒絶理由が通知され、同年12月26日付けで意見書及び手続補正書(甲4、5)を提出した後、令和5年3月16日付けで拒絶査定(甲6)がされ、他方、本件審判請求手続では、同年10月16日付けで、引用文献1に記載された引用発明1に基づき本件補正を却下するとともに、引用発明2に基づき本願発明を拒絶すべきものとして、本件審判請求不成立との本件審決をしたことが認められる。
 しかしながら、法文上、本件補正のように、拒絶査定不服審判請求と同時に特許請求の範囲を減縮することを目的とした補正がされた場合において、当該補正が特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反すること(独立特許要件違反)を理由に同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により補正を却下するときは、拒絶の理由を通知することは要求されていない(同法159条2項において読み替えて準用する同法50条ただし書。なお、同条本文によれば、拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合には、拒絶の理由を通知する必要があるが、本件において本願発明の拒絶の理由となったのは、拒絶査定の理由と同じ引用発明2であるから、改めて拒絶の理由を通知すべき場合には該当しない。)。同法159条2項において読み替えて準用する同法50条ただし書は、同法17条の2第1項1号、3号又は4号に掲げるいずれの場合であるかによって、拒絶の理由の通知義務の有無を区別しておらず、いずれの場合においても審査の遅延を防ぐ必要があることに変わりはない。拒絶査定不服審判の請求と同時にされた補正について独立特許要件違反があることを理由に却下しようとする場合にのみ、拒絶の理由を通知すべき義務があると解すべき条文上の根拠は見当たらない。したがって、独立特許要件違反を理由に本件補正を却下するに当たり、拒絶査定の際に提示しなかった引用発明1を根拠にし、その拒絶の理由の通知をしなかったとしても、原則として、特許法に違反するということはできないというべきである。仮に当事者の手続保障の観点から例外を認める場合でも、本件の具体的経過に照らすと、引用発明1及び引用発明2は、同じ引用文献(甲1)に基づくものであって、その内容には共通の部分がある上、甲1は、拒絶査定に先立つ令和4年11月9日付け拒絶理由通知書(甲3)にも引用されていたから、原告には、甲1の記載内容を検討する機会が十分に与えられていたというべきであるから、引用発明1に基づく拒絶理由通知をすることなく、独立特許要件を欠く補正を却下したとしても、原告に対する不意打ちに当たるとはいえず、出願人の防御の機会を保障すべき違法があったということはできない。」