2024年6月30日日曜日

パラメーター発明の特許権に対し先使用権の抗弁が成立する範囲について争われた事例

知財高裁令和6425日判決
令和3()10086特許権侵害差止等請求控訴事件
(原審・大阪地方裁判所平成29()1390)
 
1.概要
 本事例は、特許権侵害行為差止請求事件の控訴審の知財高裁判決である。
 本件特許権1〜7の特許権者である控訴人(一審原告)は、被控訴人(一審被告)が製造する複数の製品が本件特許権1等の技術的範囲に属するとして差し止めを請求した。被控訴人は、本件特許権の優先日よりも前から403W製品を実施しており、侵害被疑物品の実施は403W製品に基づく先使用権による通常実施権の及ぶ範囲であると抗弁した。知財高裁は、先使用権の成立を認め、控訴を棄却した。
 本件各発明1(本件特許1の請求項131416及び17の総称)は、光拡散部を有する長尺状の筐体と、前記筐体の長尺方向に沿って前記筐体内に配置された複数の発光素子とを備えたランプであって、前記複数の発光素子の各々の光が前記ランプの最外郭を透過したときに得られる輝度分布の半値幅をy(mm)とし、隣り合う前記発光素子の発光中心間隔をx(mm)とすると、y/x1.09の関係を満たすランプに関する、いわゆるパラメーター発明である。
 被控訴人が本件特許の優先日よりも前に実施していた403W製品ではy/x値は1.27~1.40であった。先使用権が成立するのは1.27~1.40に限られるのか否かが争点となった。知財高裁は、「先使用権制度の趣旨が、主として特許権者と先使用権者との公平を図ることにあり、特許出願の際(優先権主張日)に先使用権者が現に実施又は準備をしていた実施形式以外に変更することを一切認めないのは、先使用権者にとって酷であって相当ではなく、先使用権者が自己のものとして支配していた発明の範囲において先使用権を認めることが同条の文理にも沿う」、「被控訴人403W発明に具現された発明と同一性を失わない範囲は、1.1~1.7又は1.7を超える範囲と認定できるから、1.1~1.7又は1.7を超える範囲は、先使用権者である被控訴人が自己のものとして支配していた範囲と認められる。」として、先使用権の成立する範囲を広く認定した。
 
2.裁判所の判断のポイント
2.1.本件各発明1(本件特許1の請求項131416及び17)について
(2) ・・・本件各発明1は、次のようなものと認められる。
ア 技術分野
 本件各発明1は、発光ダイオード(LED)を用いた直管形のLEDランプ及びこれを備えた照明装置に関する(0001)
イ 発明が解決しようとする課題
 LEDランプでは、LEDモジュールが筐体内に収納され、当該LEDモジュールは、一定間隔で並べられた複数のLED(LED素子やベアチップ)を有するところ、従来、LEDの並び方向に沿って発光輝度の高い領域(LEDが実装された部分)と発光輝度の低い領域(LEDが実装されていない部分)とが繰り返して現れ、筐体を透過するLEDの光に輝度差が生じるので、ユーザに光の粒々感を与えるという問題があり、特に、直管形LEDランプでは、ユーザは一層粒々感を感じる傾向にある(0006】、【0007)
 この課題に対して、ランプの光拡散性を高めれば粒々感を解消することは自明であるが、その副作用として光束が低下してしまい、ランプ照度が低下してしまう。そのため、光束低下を最小限に抑えた上で粒々感を抑制することが重要となるが、従来、(1)粒々感の定義があいまいで数値化されておらず、ランプ設計にフィードバックすることが非常に困難であったこと、(2)粒々感に影響を与えるランプの構造として、光源素子の間隔や筐体(チューブ)の素材、あるいは光源素子から筐体までの距離等が多種多様であること、すなわち、粒々感に影響を及ぼし得るパラメータが非常に多い中で、光束低下を必要最小限に抑えて粒々感を抑制することが極めて困難であった(0023】、【0024)
ウ 課題を解決する手段(本件各発明1)
 本件各発明1は、光拡散部を有する長尺状の筐体と、前記筐体の長尺方向に沿って前記筐体内に配置された複数の発光素子とを備えたランプであって、前記複数の発光素子の各々の光が前記ランプの最外郭を透過したときに得られる輝度分布の半値幅をy(mm)とし、隣り合う前記発光素子の発光中心間隔をx(mm)とすると、yxが所定の関係を満たすものであり(0009)光束低下を最小限に抑えて効果的に粒々感を抑制することのできる画一的な領域を見いだすとともに、その領域を数値化することに成功したもの、すなわち、ランプ最外郭から発せられる光源一つの輝度分布をパラメータとして採用することで、輝度均斉度との関係で粒々感を定量化することができるという知見、具体的には、輝度均斉度を85%以上とすることにより、粒々感がほとんど感じられなくなること、実験結果(7A)から、LED1個の輝度分布における半値幅y(mm)(6A)と、隣り合うLEDの発光中心間隔x(mm)(6B)と、一列に並べられたLEDの輝度均斉度とには、相関関係があり、拡散部材の材料がガラス及びポリカーボネートのいずれであっても、y=αx(85%の輝度均斉度はy=1.09x90%の輝度均 斉度はy=1.21x95%の輝度均斉度はy=1.49x)として直線近似で きる(7B)こと、各直線における相関係数R2から輝度分布の半値幅yLEDの発光中心間隔xと輝度均斉度とには高い相関関係があること、という知見を得てできたもので(0025】【0082】【0083】【0086~0088】【0090)光拡散部を有する長尺状の筐体と、前記筐体の長尺方向に沿って前記筐体内に配置された複数の発光素子とを備えたランプであって、前記複数の発光素子の各々の光が前記ランプの最外郭を透過したときに得られる輝度分布の半値幅をy(mm)とし、隣り合う前記発光素子の発光中心間隔をx(mm)とすると、y≧1.09xの関係を満たすランプ(0009)である。
エ 本件各発明1の効果
 本件各発明1によると、ユーザが感じられないまでに粒々感を抑制することのできるランプ及び照明装置を実現することができる(0021)
(3) 本件各発明1に係るパラメータの技術的範囲
・・・・
イ 本件各発明1に係るパラメータの要旨
 本件各発明1は、「ランプ」又は「照明装置」に係る発明であって、「物」の発明である。そして、「物」の発明である本件各発明1において、近似式y=αxからなる本件に係るパラメータにおいて、αがとり得る値の範囲を特定するものである。
・・・
ウ 直線近似式の意義と輝度均斉度の精度
・・・・
 このように、本件パラメータは、その特定されるy/x値を満たす場合であっても、輝度均斉度の目標値に近い値を達成できる(目標値を下回ることもあれば、上回ることもある)ということを意味するにすぎない。より具体的には、本件明細書1(0087)から、
1.09≦y/x≦1.21の数値範囲において85%から90%程度の輝度均斉度が、
1.21≦y/x≦1.49の数値範囲において90%から95%程度の輝度均斉度が、
1.49≦y/xの数値範囲において95%程度の輝度均斉度がおおよそ得られることが期待できるものである。そもそも各輝度均斉度の目標値についても、この目標値の前後において、「粒々感」に係る光学的な効果が大きく変化するような臨界的な意義を持つものでもなく、本件パラメータによって、目標とする輝度均斉度がおおよそ得られることが期待できれば十分であると理解できる。」
 
2.2.先使用権について
(3) 先使用権の範囲
ア 特許出願に係る発明の内容を知らないで自らその発明をし、又は特許出願に係る発明の内容を知らないでその発明をした者から知得して、特許出願の際現に日本国内においてその発明の実施である事業をしている者又はその事業の準備をしている者は、その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において、その特許出願に係る特許権について通常実施権を有する(特許法79)
 上記のとおり、先使用権者は、「その実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内において」特許権につき通常実施権を有するものとされるが、ここにいう「実施又は準備をしている発明及び事業の目的の範囲内」とは、特許発明の特許出願の際(優先権主張日)に先使用権者が現に日本国内において実施又は準備していた実施形式だけでなく、これに具現されている技術的思想、すなわち発明の範囲をいうものであり、したがって、先使用権の効力は、特許出願の際(優先権主張日)に先使用権者が現に実施又は準備をしていた実施形式だけでなく、これに具現された発明と同一性を失わない範囲内において変更した実施形式にも及ぶものと解するのが相当である(最高裁昭和61()454号同年103日第二小法廷判決・民集4061068頁参照)
 そして、先使用権制度の趣旨が、主として特許権者と先使用権者との公平を図る ことにあり、特許出願の際(優先権主張日)に先使用権者が現に実施又は準備をしていた実施形式以外に変更することを一切認めないのは、先使用権者にとって酷であって相当ではなく、先使用権者が自己のものとして支配していた発明の範囲において先使用権を認めることが同条の文理にも沿うと考えられること(前記最高裁判決参照)からすると、実施形式において具現された発明を認定するに当たっては、当該発明の具体的な技術内容だけでなく、当該発明に至った具体的な経過等を踏まえつつ、当該技術分野における本件特許発明の特許出願当時(優先権主張日当時)の技術水準や技術常識を踏まえて、判断するのが相当である。
イ 被控訴人403W製品に具現されている発明
(証拠(388)によると、被控訴人403W製品は、試料No.1No.2について、LED99個のうち左から18~35番目、及び、38~50番目までのLED31個についてy/x値を計測したところ、試料No.1については、最小値1.272、最大値1.363、平均値1.2711.370であり、試料No.2については、最小値1.326、最大値1.381、平均値1.3041.387であったことが認められる。また、被控訴人403W製品全24本について、左から25番目と50番目のLED2個についてy/x値を計測したところ、左から25番目のLEDについては、最小値1.303、最大値1.388、平均値1.2811.397であり、左から50番目のLEDについては、最小値1.297、最大値1.381、平均値1.2721.403であったことが認められる。
 ここで、工業製品にあっては、同一生産工程で生産されても、その品質はさまざまな原因によってばらつきが存在するものであり、照明器具においても同様のことがいえると解されるところ、上記のとおり、被控訴人403W製品においても、それぞれ数値範囲にばらつきが生じているものと理解できる。また、品質管理の手法としては、製品の検査結果を要求される品質標準と比較して、この差(製造誤差)を標準偏差の3(3σ)の範囲に収めることが一般的に採用される手法の一つであると理解できる(388、弁論の全趣旨)。これらを踏まえると、被控訴人403W製品のy/x値は、実測値で1.27~1.38程度、一般的な製造誤差を考慮した場合であるは、403W製品に要求される品質標準は不明であるものの、一般的な管理手法に照らせば、実測された平均値がそれに該当するといえ、被控訴人403W製品のy/x値は、おおむね1.27~1.40程度であったと認めることができる。
(また、先使用権に係る実施品である403W製品は、本件優先日1前において公然実施されていた402W製品とシリーズ品を構成する(35)から、被控訴人402W製品と極めて関連性が高い公然実施品である。
 そして、403W製品は、402W製品と共通のカバー部材を採用しつつ(315)402W製品と比べると、LEDの個数を減らしつつも「粒々感の解消」を図った超エコノミータイプとの位置づけであった(297)。すなわち、403W製品は、402W製品との比較でいえば、y(半値幅)を固定して、x(LEDチップの配列ピッチ)を工夫しつつ、本件各発明1と同様の課題である粒々感を抑えている(所定の輝度均斉度を得ている)ものと理解できる(35)
 ここで、証拠(317)によると、・・・402W製品のy/x値は1.7程度であり、その余の402W製品のy/x値は更に大きいこと(77では1.89)が認められる。
・・・
 以上のことを踏まえると、403W製品に具現化された発明であるy/x値が1.4を超える部分から1.7又は1.7を超える範囲は、被控訴人においてx値を適宜調整することで実現していた範囲であって自己のものとして支配していた範囲であるといえる。
(さらに、本件各発明1の課題であるLED照明の粒々感を抑えることは、LED照明の当業者において本件優先権主張日前から知られた課題であり、当業者はこのような課題につき、本件パラメータを用いずに、試行錯誤を通じて、粒々感のない照明器具を製造していたものといえる。そのような技術状況からすると、「物」の発明の特定事項として数式が用いられている場合には、出願(優先権主張日)前において実施していた製品又は実施の準備をしている製品が、後に出願され権利化された発明の特定する数式によって画定される技術的範囲内に包含されることがあり得るところであり、被控訴人が本件パラメータを認識していなかったことをもって、先使用権の成立を否定すべきではない。
 そこで、本件優先日1当時の技術水準や技術常識等についてみると、前記認定のとおり、輝度均斉度が85%程度を上回ることで粒々感に対処できることが周知技術(402、甲31)であったこと、y/x値が1.208~1.278程度の・・・製品2が、本件優先日1前に公然実施されていたこと、403W製品は、402W製品と比較して、LEDの個数を減らす設計によるものであって、本件各発明1と同様の課題である粒々感を抑えることができる範囲内でx値を402W製品より大きくし、y/x値を輝度均斉度が85%程度となる1.1程度まで小さくすることは、402W製品を起点とした403W製品の設計に至る間の延長線上にあるといえる。以上のことからすると、y/x値が1.27~1.1を満たす製品を設計することは、403W製品によって具現された発明と同一性を失わない範囲内において変更した実施形式というべきである。
(まとめ
 以上のとおり、被控訴人403W製品に具現されたy/x値との同一の範囲は、1.27~1.40と認定でき、また、被控訴人403W発明に具現された発明と同一性を失わない範囲は、1.1~1.7又は1.7を超える範囲と認定できるから、1.1~1.7又は1.7を超える範囲は、先使用権者である被控訴人が自己のものとして支配していた範囲と認められる。

2024年6月23日日曜日

先行技術と一部が重複する数値範囲の新規性進歩性が争点となった事例

知財高裁令和6514日判決言渡

令和5(行ケ)10098 審決取消請求事件

 

1.概要

 本件は、原告が請求した被告が有する特許権に対する無効審判の審決(新規性、進歩性、サポート要件を肯定)の取消を求めて原告が請求した審決取消訴訟の知財高裁判決である。

 本件発明1は、衣料用洗浄剤組成物に関する発明であり、「(C)成分:下記式(c1)で表される化合物を含むアミノカルボン酸型キレート剤0.02~1.5質量%」を含むことを特徴とする。

 先行技術文献である甲第1号証に記載の衣料用洗浄剤組成物に関する発明(甲1発明)では、当該(C)成分に相当する「MGDA(Trilon(R) M)」を「0.1~5wt%」の量で含むものであった(相違点1)。

 要するに、本件発明1「0.02  ~  1.5質量%

      甲1発明     「0.1    ~    5wt%

であり、甲1発明の数値範囲に含まれる下限値を含む「0.1-1.5wt%」の部分が本件発明1と重複する。

 原告(無効審判請求人)は、本件発明1は1発明に対して「新規性なし」、「進歩性なし」と主張した。

 無効審判審決では、本件発明1は甲1発明に対して「新規性あり」且つ「進歩性あり」と判断し、無効理由は存在しないと判断した。

 知財高裁は、「新規性あり」だが「進歩性なし」と判断し、進歩性に関して審決を取り消した。

 

2.本件発明1(訂正後の請求項1に記載の発明)

(A)成分:アニオン界面活性剤(但し、炭素数10~20の脂肪酸塩を除く)と、

(B)成分:44’-ジクロロ-2-ヒドロキシジフェニルエーテルを含むフェノール型抗菌剤と、

(C)成分:下記式(c1)で表される化合物を含むアミノカルボン酸型キレート剤0.02~1.5質量%と、

(G)成分としてノニオン界面活性剤を含み、

(G)成分の含有量が、衣料用洗浄剤組成物の総質量に対し、20~40質量であり、

(G)成分が、下記一般式(I)又は(II)で表される少なくとも1種であり、

R2-C(=O)O-[(EO)s/(PO)t]-(EO)u-R3 ・・・(I)

R4-O-[(EO)v/(PO)w]-(EO)x-H ・・・(II) 

((I)中、R2は炭素数7~22の炭化水素基であり、R3は炭素数1~6のアルキル基であり、sEOの平均繰り返し数を表し、6~20の数であり、tPOの平均繰り返し数を表し、0~6の数であり、uEOの平均繰り返し数を表し、0~20の数であり、EOはオキシエチレン基を表し、POはオキシプロピレン基を表す。

(II)中、R4は炭素数12及び14の天然アルコール由来の炭化水素であり、vxは、それぞれ独立にEOの平均繰り返し数を表す数で、v+x3 ~20であり、POはオキシプロピレン基を表し、wPOの平均繰り返し数を表し、w0~6である。)

(A)成分/(C)成分で表される質量比(A/C)10~100である衣料用洗浄剤組成物(但し、クエン酸二水素銀を含有する組成物を除く)

式(c1)・・・(省略)・・・」

 

3.本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点

〔一致点〕

(A)成分:アニオン界面活性剤(但し、炭素数10~20の脂肪酸塩を除く)と、

(B)成分:44’-ジクロロ-2-ヒドロキシジフェニルエーテルを含むフェノール型抗菌剤と、

(C)成分:下記式(c1)で表される化合物を含むアミノカルボン酸型キレート剤と、

ノニオン界面活性剤を含む、

衣料用洗浄剤組成物(但し、クエン酸二水素銀を含有する組成物を除く)

式(c1)・・・(省略)・・・。」

 

〔相違点1

 本件発明1では、「(C)成分:下記式(c1)で表される化合物を含むアミノカルボン酸型キレート剤」の含有量が「0.02~1.5質量%」であるのに対し、

 甲1発明では、当該成分に相当する「MGDA(Trilon(R) M)」の含有量が「0.1~5wt%」である点。

 

4.相違点1についての無効審判審決の判断(新規性肯定、進歩性肯定)

「相違点1について

 本件発明1における「(C)成分:下記式(c1)で表される化合物を含むアミノカルボン酸型キレート剤」の含有量(0.02~1.5質量%)と、甲1発明における「MGDA(Trilon(R) M)」の含有量(0.1~5wt%)は、少なくとも0.1~1.5質量%の範囲で一部重複するが、後者の数値範囲は、前者の数値範囲に完全に包含されるものではなく、前者の含有量を必ず充足するとはいえないため、当該含有量は、実質的な相違点である。

 そして、「(C)成分下記式(c1)で表される化合物を含むアミノカルボン酸型キレート剤」の含有量が「0.02~1.5質量%」であることは、甲1に記載がなく、甲2ないし6にも記載されていない。

 したがって、本件発明1の「(C)成分」に相当する「MGDA(Trilon(R) M)」の含有量が「0.1~5wt%」である甲1発明において、その含有量を「0.02~1.5質量%」に変更することは、当業者が容易になし得ることではない。」

 

5.裁判所の判断のポイント

相違点1が実質的な相違点か(新規性あるか)?=実質的な相違点でありこの点で新規性あり、審決に誤りはない


「甲1発明におけるMGDA(Trilon M)の含有量「0.1~5 wt%」は、本件発明1における(C)成分の含有量「0.02~1.5質量%」と一部重複するものの、1発明における含有量の割合の範囲は、本件発明1における含有量の割合の範囲に該当しないものを含んでいる。

 したがって、本件発明1と甲1発明との相違点1は実質的な相違点であるというべきであり、これが形式的な相違点であるとは認められない。

 

相違点1に係る特徴が容易に想到しうるか(進歩性あるか)?=容易に想到し得るのでこの点で進歩性なし、審決は誤り

 

「甲1発明の(C)成分に相当するMG DA(Trilon M)の含有量についても、特定された範囲内で含有量を規定することは、当業者の設計事項であるから、その含有量を、甲1発明 における含有量「0.1~5wt%」の範囲内で検討し、「0.1~1.5質量%」にすること(相違点1に係る構成を導くこと)は、当業者が容易に想到することができたものといえる。」