2024年1月13日土曜日

図面のみに基づく訂正の適法性が争われた事例

知財高裁令和51221日判決
令和5(行ケ)10016号 審決取消請求事件
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/607/092607_hanrei.pdf
 
1.概要
 本事例は、被告が有する特許権に対し、原告が請求した無効審判審決(請求棄却、特許維持)に対し、原告が求めた審決取消訴訟の知財高裁判決(請求棄却)である。
 無効審判において、被告は請求項12を以下のように訂正した。この訂正で追加された「前記凹槽の下表面は、前記底板本体の下表面よりも下方に突出しており、」という特徴は、発明の詳細な説明には記載がなく、図5を根拠とするものである。
 原告は「特許出願の願書に添付された図面は正確とは限らないから、図面に基づく訂正を認めるべきではない、本件図5は不明瞭であるから、これに基づく本件訂正の結果も不明瞭である」から、訂正要件を満たさないと主張した。
 これに対し裁判所は「本件図5は、「底板本体の下表面」と「凹槽の下表面」の位置関係を理解するために必要な程度の正確さを備え、本件訂正の根拠として十分な内容が図示されている」と判断し、訂正は適法であると結論した。
 
2.訂正の内容
 
【請求項12(本件審決による訂正前のもの)
 前記底板本体の下表面と前記凹槽の下表面間に高低差があることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載のワイヤレススカッフプレート。
 
【請求項12(本件訂正後のもの。下線部は訂正箇所を示す。)
 前記凹槽の下表面は、前記底板本体の下表面よりも下方に突出しており、前記底板本体の下表面と前記凹槽の下表面間に高低差があることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載のワイヤレススカッフプレート。
 
3.裁判所の判断のポイント
「取消事由1(本件訂正を認めた判断の誤り)について
(1)本件訂正は、訂正前の請求項12の「前記底板本体の下表面と前記凹槽の下表面間に高低差があることを特徴とする」との事項に「前記凹槽の下表面は、前記底板本体の下表面よりも下方に突出しており」との事項を追加して特定することにより、「底板本体の下表面」と「凹槽の下表面」の位置(上下)関係を明瞭にするものである。
 そして、本件図5(別紙2「本件明細書等の記載事項(抜粋)」参照)から、凹槽211の下表面2111は底板2の本体の下表面22よりも下方に突出していることが見て取れるから、上記訂正は、本件図5に記載した事項の範囲内においてしたものである。
 したがって、本件訂正は、明瞭でない記載の釈明(特許法134条の213)を目的とするものであり、同条9項、同法1265項及び6項の規定に適合するものであって、審決の判断に誤りはない。
(2)これに対し、原告は、特許出願の願書に添付された図面は正確とは限らないから、図面に基づく訂正を認めるべきではない、本件図5は不明瞭であるから、これに基づく本件訂正の結果も不明瞭である旨主張する。
アしかし、まず、特許請求の範囲の訂正は、願書に添付した図面の範囲内においてすることが明文上認められている(特許法134条の21項、9項、1265)そして、本件図5は、「底板本体の下表面」と「凹槽の下表面」の位置関係を理解するために必要な程度の正確さを備え、本件訂正の根拠として十分な内容が図示されているものである
イ「底部」(0022)がどの部分を指すのか不明との点に関しては、訂正後の請求項12の「前記底板本体の下表面」と「前記凹槽の下表面」について、本件明細書【0017】の記載から、それぞれ本件図5の「底52の本体の下表面22」と「凹槽211の下表面2111」を指していることが明らかである。【符号の説明】【0022】では「2111」を「底部の下表面」と記載されているが、「底部」が「凹槽211」の底部を指すことは、本件図5から明らかである。