2021年12月5日日曜日

特許法70条2項に従う明細書を参酌した特許発明の技術的範囲の解釈を、侵害訴訟ではなく存続期間延長登録出願の場面で適用した事例

知財高裁令和3年11月30日判決
令和3年(行ケ)第10016号 審決取消請求事件 
 
1.概要
  特許法67条第4項は、安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であってその目的、手続等からみて当該処分を的確に行うには相当の期間を要するものとして政令で定める処分(本件処分)を受けることが必要であるために特許発明の実施をすることかできない期間があったときは、5年を限度として、延長登録の出願により当該特許権の存続期間を延長することができると定める。
 存続期間を延長しようとする出願人は、本件処分の対象となった医薬品等が含まれる請求項を特定し、請求項の発明特定事項と、医薬品の承認書等に記載された事項とを対比して、本件処分の対象となった医薬品等が、当該請求項の発明特定事項の全てを備えていることを説明する必要がある。 本事例では、医薬品に関する特許権の存続期間延長登録出願の拒絶審決において、審判官合議体は、当該特許権の請求項に記載された発明特定事項の1つである「緩衝剤」という用語の意義を、特許法70条2項に従い明細書の記載を参酌して狭く解釈し、本件処分の対象となった医薬品は、前記発明特定事項「緩衝剤」を充足しないから、延長登録は認められないと判断した。
 これを不服とする出願人は審決取消訴訟を提訴したが、知財高裁は審決は適法であると判断し原告の請求を棄却した。

 2.原告(特許権者、存続期間延長登録出願の出願人)の主張 
「被告の主張する発明の「技術的範囲」の解釈は,特許権侵害訴訟の充足論において妥当するものであり,特許権延長登録出願における特許請求の範囲の記載の解釈においてではない。また,本件発明1の「緩衝剤」の「量」は,特許請求の範囲の記載から一義的に明確に確定できるから,実施例等の発明の詳細な説明の記載から特許請求の範囲に記載されていないことを取り込んで,本件各発明を限定的に解釈することは許されない。」

 3.裁判所の判断のポイント 
「特許請求の範囲に記載された用語の意義は,明細書の記載を考慮して解釈するものとされる(特許法70条2項)ので,本件明細書(甲1)の記載をみると,前記1(1)のとおり,「緩衝剤という用語」について,「オキサリプラチン溶液を安定化し,それにより望ましくない不純物,例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止するかまたは遅延させ得るあらゆる酸性または塩基性剤を意味する。」(【0022】)として,これを定義付ける記載があり,上記の「剤」の一般的意義に照らしても,「緩衝剤」について,「緩衝作用を有する薬」を意味するものと理解することは,本件明細書の記載にも整合する。 なお,原告は,本件において,本件明細書の記載を考慮すべきではない旨主張しているが,特許法70条2項は一般的に特許発明の技術的範囲を定める場面に適用され,特許侵害訴訟における充足性を検討する場面にのみ適用されるものではないから,原告の上記主張は採用できない。」