2017年11月12日日曜日

装置クレームの明確性が争われた事例

知財高裁平成29年9月21日判決
平成28年(行ケ)第10236号 審決取消請求事件

1.概要
 被告が有する特許5306571号に対し、原告は、明確性要件違反等を理由として無効審判を請求した。特許庁は平成28年10月3日に、請求は成り立たない(特許有効)の審決をした。被告は、審決の取り消しを求めて知財高裁に出訴した。知財高裁は、本件特許は請求項の記載が明確でないと判断し、審決を取り消した。
 本件発明は下記の通り、「無洗米の製造装置」であるにもかかわらず、その請求項には、装置の構造が具体的に記載されておらず、主に、達成しようとする目的が記載されたものであった。請求項は一見して不明確に思われるが、特許庁は権利を付与し、無効審判においても、一旦は明確性要件違反無しと判断されており、興味深い。

2.本件発明1(請求項1)
「 外から順に,表皮(1),果皮(2),種皮(3),糊粉細胞層(4)と,澱粉を含まず食味上もよくない黄茶色の物質の層により表層部が構成され,該表層部の内側は,前記糊粉細胞層(4)に接して,一段深層に位置する薄黄色の一層の亜糊粉細胞層(5)と,該亜糊粉細胞層(5)の更に深層の,純白色の澱粉細胞層(6)により構成された玄米粒において,前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で,搗精により糊粉細胞層(4)までを除去し,該糊粉細胞層(4)と澱粉細胞層(6)の間に位置する亜糊粉細胞層(5)を外面に残して,該一層の,マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ,前記精白米には,全米粒の内,『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り,残された基底部である胚盤(9)』,または『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』が残った米粒の合計数が,全体の50%以上を占めるように搗精され,前記搗精により亜糊粉細胞層(5)を表面に露出させた白米を,該亜糊粉細胞層(5)が表面に現れた時の白度37前後に仕上げ,更に糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ,その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で白米の表面に付着する『肌ヌカ』を,無洗米機により分離除去する無洗米処理を行うことを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置であって,
 全精白行程の終末寄りから少なくとも3分の2以上の行程に摩擦式精米機を用い,前記摩擦式精米機の精白除糠網筒の内面をほぼ滑面状となし,且つ精白ロールの回転数を毎分900回以上の高速回転とすること,及び,無洗米機を備えたことを特徴とする旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置。」

3.審決の判断(明確性要件違反なし。特許有効)
「本件特許請求の範囲請求項1及び2の記載は,請求人が主張した記載によっては明確性要件を満たしていないとはいえない。
ア 請求項1及び2の「食味上もよくない黄茶色の物質の層」という記載は,「外から順に,表皮(1),果皮(2),種皮(3),糊粉細胞層(4)と」「構成された」「表層部」についての玄米一般に係る記載といえるから,当該記載により本件発明が不明確になるものではない。
イ 同「亜糊粉細胞層(5)を外面に残して,該一層の,マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ,」という記載は,記載内容自体が明確でないとはいえず,本件発明が不明確になるものではない。なお,仮に実現の可能性が低いとしても,発明が不明確であることにはならない。
ウ 同「前記精白米には,全米粒の内,『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り,残された基底部である胚盤(9)』,または『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』が残った米粒の合計数が,全体の50%以上を占めるように搗精され,」という記載は,1粒の米粒に係る記載ではなく,複数の米粒の半数以上のものについての記載と解されるのであって,その記載内容自体が明確でないとまではいえない。
エ 請求項1の「前記摩擦式精米機の精白除糠網筒の内面をほぼ滑面状となし,」という記載は,特に「ほぼ滑面状」という範囲を曖昧にし得る表現があるものの,例えば,本件明細書の「従来の摩擦式精米機では,能率を向上させるために,精白除糠網筒の内面にイボ状,または線状等の突起を設け,糠層を一度に分厚く剥離していたのをなくし,糠層を表面から少しずつ剥離させるために,同網筒の内面を滑面にする」(【0029】)との記載,「若干微細な凹凸があるものの,従来のものにくらべ,はるかに凸部が低くなっている」(【0031】)との記載,「精白除糠網の内面がほぼ滑面状となっているから,・・・それらの作用により精白時に,米粒を薄く表面より少しずつ薄皮を剥がす如く剥離させるから,従来の如く,一度に分厚く糠層が削ぎ落とされるために生じる,ムラ剥離されることはない」(【0033】)という記載,及び,本件出願時の技術常識を考慮すると,「従来のものにくらべ,はるかに凸部が低くなってい」て「精白時に,米粒を薄く表面より少しずつ薄皮を剥がす如く剥離させる」ことができる精白除糠網筒の内面であることが理解でき,本件発明1が不明確になるものではない。
オ 同「精白ロールの回転数を毎分900回以上の高速回転とする」という記載は,回転数の下限だけを示すような数値範囲限定であって範囲を曖昧にし得る表現があるものの,例えば,本件明細書の「更にこれも常識に逆行して非効率的ではあるが,同精米機の回転数を早めるのである」(【0029】)との記載及び本件出願時の技術常識を考慮すると,本件発明1においては回転数の上限値が問題となるのではなく,毎分900回転という下限値未満とならないようにすることに技術的意義を有することが理解でき,本件発明1が不明確になるものではない。
カ 請求項1及び2の「無洗米機を備えた」という記載は,記載内容自体が明確でないとはいえず,本件発明が不明確になるものではない。」

4.裁判所の判断(明確性要件違反、審決取消)
(1) 特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。この趣旨は,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るため,そのような不都合な結果を防止することにある。そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載のみならず,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願時における技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。
(2)ア 請求項1及び2の「外から順に,表皮(1),果皮(2),種皮(3),糊粉細胞層(4)と,澱粉を含まず食味上もよくない黄茶色の物質の層により表層部が構成され,該表層部の内側は,前記糊粉細胞層(4)に接して,一段深層に位置する薄黄色の一層の亜糊粉細胞層(5)と,該亜糊粉細胞層(5)の更に深層の,純白色の澱粉細胞層(6)により構成された玄米粒において,」の部分(以下「記載事項A」という。)について
 記載事項Aは,本件発明の無洗米の製造装置における処理対象である玄米粒の構成について,その表層部から深層部に至る各部分の名称を順に列挙するものであり,上記無洗米の製造装置の構造又は特性に直接関連するものではない。
イ 請求項1及び2の「前記玄米粒を構成する糊粉細胞層(4)と亜糊粉細胞層(5)と澱粉細胞層(6)の中で,搗精により糊粉細胞層(4)までを除去し,該糊粉細胞層(4)と澱粉細胞層(6)の間に位置する亜糊粉細胞層(5)を外面に残して,該一層の,マルトオリゴ糖に生化学変化させる酵素や食物繊維や蛋白質を含有する亜糊粉細胞層(5)を米粒の表面に露出させ,前記精白米には,全米粒の内,『舌触りの良くない胚芽(7)の表層部や突出部を削り取り,残された基底部である胚盤(9)』,または『胚芽(7)の表面部を削りとられた胚芽(8)』が残った米粒の合計数が,全体の50%以上を占めるように搗精され,前記搗精により亜糊粉細胞層(5)を表面に露出させた白米を,該亜糊粉細胞層(5)が表面に現れた時の白度37前後に仕上げ,」の部分(以下「記載事項B」という。)について
 記載事項Bは,本件発明の無洗米の製造装置を用いた精米方法又は上記無洗米の製造装置により得られる精白米の性状を表したものであり,上記無洗米の製造装置の構造又は特性を直接特定する記載ではない。
ウ 請求項1及び2の「更に糊粉細胞層(4)の細胞壁(4’)が破られ,その中の糊粉顆粒が米肌に粘り付けられた状態で白米の表面に付着する『肌ヌカ』を,無洗米機により分離除去する無洗米処理を行うことを特徴とする」の部分(以下「記載事項C」という。)について
 記載事項C は,白米の表面に付着する「肌ヌカ」を無洗米機により分離除去する無洗米化処理を行うことを記載したものであり,本件発明の無洗米の製造装置が無洗米機をその構成の一部としていることを表しているが,それ以上に,上記無洗米の製造装置の構造又は特定を直接特定する記載ではない。
エ 請求項1及び2の「旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置であって,」の部分(以下「記載事項D」という。)について
 記載事項Dの「無洗米の製造装置であって」という部分は,本件発明が無洗米の製造のための装置の発明であることを示す記載であり,発明のカテゴリーを示して,その技術的範囲を定めるものと解される。
 記載事項Dの「旨み成分と栄養成分を保持した」という部分は,本件発明の無洗米の製造装置で製造される無洗米の特性を示したものであり,前記無洗米の製造装置の構造又は特性を直接特定する記載ではない。
オ 請求項1の「全精白行程の終末寄りから少なくとも3分の2以上の行程に摩擦式精米機を用い,」の部分(以下「記載事項E」という。)について
 記載事項Eは,それのみでは,これが精米工程,すなわち,方法を表すものなのか,請求項1の無洗米の製造装置に少なくとも摩擦式精米機が含まれているという構造を示すものなのか,必ずしも判然としない。
 しかしながら,本件明細書には,実施例として,第1精米機,第2精米機,第3精米機を構成に含み,これらはいずれも噴風摩擦式精米機であるが,第1精米機のみは研削式にする場合もあるという無洗米の製造装置が記載されており(【0030】),玄米は,第1精米機において中途精白米に仕上げられ,第2精米機において,更に精白度を高めた中途精白米に仕上げられ,第3精米機において,最適の白度に仕上げられる(【0032】)のであって,本件発明の精米装置では,「全行程,もしくは終末寄りの工程が噴風摩擦式精米機によって構成され,それが少なくとも全精米工程の少なくとも3分の2以上を占めている。」(【0037】)旨が記載されている。
 これらの記載を斟酌すると,記載事項Eは,本件発明1に係る無洗米の製造装置の構成につき,摩擦式精米機が全精白工程の少なくとも3分の2以上の工程を占めるように構成されたとの特定をしていると解することができるから,上記無洗米の製造装置の構造を示すものということができる。
カ 請求項1の「前記摩擦式精米機の精白除糠網筒の内面をほぼ滑面状となし,」の部分(以下「記載事項F」という。)について
 記載事項Fには,「精白除糠網筒の内面」を「ほぼ滑面状とな」すという動詞を用いた記載が含まれているが,「ほぼ滑面状」とされるのは「精白除糠網筒の内面」であり,本件明細書には,本件発明1の無洗米の製造装置が完成した状態において,「精白除糠網筒の内面」が「滑面」(【0029】),「ほとんど,滑面状」(【0033】),又は「ほぼ滑面状」(【0037】)である旨が記載されており,従来の摩擦式精米機の「精白除糠網筒の内面」には「突起」が設けられていたが,本件発明1の無洗米の製造装置では,これを「滑面」にする旨(【0029】)の記載がある一方,精白除糠網筒の製造方法の記載はないから,記載事項F は,「精白除糠網筒の内面」が「ほぼ滑面状」である「精白除糠網筒」をその構成に含むことを,精白除糠網筒の内面の状態を示すことにより,特定したものと解される。したがって,上記無洗米の製造装置の構造を示すものということができる。
キ 請求項1の「且つ精白ロールの回転数を毎分900回以上の高速回転とすること,」の部分(以下「記載事項G」という。)について
 記載事項Gは,本件発明1に係る無洗米の製造装置を構成する精米機が,「精白ロール」を有するという,前記装置の構成を特定する記載と,その運転条件である回転数に関する記載を含むものであり,後者は,本件明細書の「それらの噴風摩擦式精米機の回転数も毎分900回転以上の高速回転で運転される」(【0031】),「本装置は毎分900回の高速回転をさせている」(【0033】)との記載に照らすと,本件発明1に係る無洗米の製造装置の構成につき,上記回転数以上で運転するものと特定していると解することができるから,上記無洗米の製造装置の構造又は特性を特定するものということができる。
ク 請求項1及び2の「及び,無洗米機を備えたことを特徴とする」の部分(以下「記載事項H」という。)について
 記載事項Hは,本件発明に係る無洗米の製造装置の構成には,無洗米機が含まれることを特定している。
 本件明細書には,実施例の説明として,無洗米機は,公知の無洗米機(【0031】,【0036】)と記載されているのみであって,当該無洗米機の構造又は特性についての記載は見当たらないが,「公知の無洗米機」であるという意味では特定されているということができる。
ケ 請求項1及び2の「旨み成分と栄養成分を保持した無洗米の製造装置。」の部分(以下「記載事項I」という。)について
 記載事項Iは,記載事項Dと同内容であり,前記エのとおりである。
(3) 以上の記載事項A~Iについての検討を総合すると,本件発明1の無洗米の製造装置は,少なくとも,摩擦式精米機(記載事項F)と無洗米機(記載事項C)をその構成の一部とするものであり,その摩擦式精米機は,全精白構成の終末寄りから少なくとも3分の2以上の工程に用いられているものである(記載事項E)上,精白除糠網筒(記載事項F)と精白ロール(記載事項G)をその構成の一部とするものであり,その精白除糠網筒の内面は,ほぼ滑面状であって(記載事項F),精白ロールの回転数は毎分900回以上の高速回転とするものである(記載事項G)と認められる。
 したがって,上記の無洗米の製造装置の構造又は特性は,記載事項A~Iから理解することができる
 しかしながら,請求項1の無洗米の製造装置の特定は,上記の装置の構造又は特性にとどまるものではなく,精米機により,亜糊粉細胞層を米粒表面に露出させ,米粒の50%以上について胚盤又は表面部を削り取られた胚芽を残し,白度37前後に仕上がるように搗精し(記載事項B),白米の表面に付着する肌ヌカを無洗米機により分離除去する無洗米処理を行う(記載事項C)ものであり,旨味成分と栄養成分を保持した無洗米を製造するもの(記載事項D,I)である。
 このうち,亜糊粉細胞層を米粒表面に露出させ,米粒の50%以上について胚盤又は表面部を削り取られた胚芽を残し,白度37前後に仕上がるように搗精する(記載事項B)ことについては,本件明細書の発明の詳細な説明において,本件発明に係る無洗米の製造装置のミニチュア機で,白度37前後の各白度に搗精した精米を,洗米するか,公知の無洗米機によって通常の無洗化処理を行い,炊飯器によって炊飯し,その黄色度を黄色度計で計り,黄色度11~18の内の好みの供試米の白度に合わせて搗精を終わらせる時を調整して,本格搗精をすることにより行うこと(【0035】),このようにして仕上がった精白米は,亜糊粉細胞層が米粒表面をほとんど覆っていて,かつ,全米粒のうち,表面が除去された胚芽と胚盤が残った米粒の合計数が,少なくとも50%以上を占めていること(【0036】)が記載されており,結局のところ,ミニチュア機で実際に搗精を行うことにより,本格搗精を終わらせる時を調整することにより実現されるものであることが記載されている。
 したがって,本件明細書には,本件発明1の無洗米の製造装置につき,その特定の構造又は特性のみによって,玄米を前記のような精白米に精米することができることは記載されておらず,その運転条件を調整することにより,そのような精米ができるものとされている。そして,その運転条件は,本件明細書において,毎分900回以上の高速回転で精白ロールを回転させること以外の特定はなく,実際に上記のような精米ができる精白ロールの回転数や,精米機に供給される玄米の供給速度,精米機の運転時間などの運転条件の特定はなく,本件出願時の技術常識からして,これが明らかであると認めることもできない。
 ところで,本件明細書の発明の詳細な説明において,亜糊粉細胞層(5)については,「糊粉細胞層4に接して,糊粉細胞層4より一段深層に位置して僅かに薄黄色をした」,「厚みも薄く1層しかない」ものであり(【0015】),「亜糊粉細胞5は・・・整然と目立って並んでいる個所は少なく,ほとんどは顕微鏡でも確認しにくいほど糊粉細胞層4に複雑に貼り付いた微細な細胞であり,それも平均厚さが約5ミクロン程度の極薄のものである」(【0018】)と記載され,胚芽(8)及び胚盤(9)については,「胚芽7の表面部を除去された」ものが胚芽(8)であり,それを更に削り取ると胚盤(9)になる(【0023】)と記載されている。しかるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,米粒に亜糊粉細胞層(5)と胚芽(8)及び胚盤(9)を残し,それより外側の部分を除去することをもって,米粒に「旨み成分と栄養成分を保持」させることができる旨が記載されており(【0017】~【0023】),玄米をこのような精白米に精米する方法については,「従来から,飯米用の精米手段は摩擦式精米機にて行うことが常識とされている」が,その搗精方法では,必然的に,米粒から亜糊粉細胞層(5)や胚芽(8)及び胚盤(9)も除去されてしまうこと(【0024】,【0025】)が記載されている。また,本件明細書の発明の詳細な説明には,「摩擦式精米機では米粒に高圧がかかり,胚芽は根こそぎ脱落する」から,胚芽を残存させるには,研削式精米機による精米が不可欠とされていた(【0029】)ところ,研削式精米機により精米すると,むらが生じ,高白度になると,亜糊粉細胞層(5)の内側の澱粉細胞層(6)も削ぎ落とされている個所もあれば,糊粉細胞層(4)だけでなく,それより表層の糠層が残ったままの部分もあるという状態になること(【0027】)が記載されている。
 そうすると,精米機により,亜糊粉細胞層を米粒表面に露出させ,米粒の50%以上において胚盤又は表面を削り取られた胚芽を残し,白度37前後に仕上がるように搗精することは,従来の技術では容易ではなかったことがうかがわれ,上記のとおり,本件明細書に具体的な記載がない場合に,これを実現することが当業者にとって明らかであると認めることはできない。

 本件発明1は,無洗米の製造装置の発明であるが,このような物の発明にあっては,特許請求の範囲において,当該物の構造又は特性を明記して,直接物を特定することが原則であるところ(最高裁判所平成27年6月5日第二小法廷判決・民集69巻4号904頁参照),上記のとおり,本件発明1は,物の構造又は特性から当該物を特定することができず,本件明細書の記載や技術常識を考慮しても,当該物を特定することができないから,特許を受けようとする発明が明確であるということはできない。」