2014年10月26日日曜日

用途発明が「新しい用途を提供する」と判断され新規性が肯定された事例


知財高裁平成26年9月24日判決
平成25年(行ケ)第10255号 審決取消請求事件

1.概要
 本件は、拒絶審決(新規性欠如等)に対する審決取消訴訟において、審決が取り消された事例である。
 本願発明は、銅フタロシアニンを含有する組成物の有効量を芝草に施用して、芝草の密度,均一性及び緑度を改良する用途発明に関する。本願発明では銅フタロシアニンの施用により芝草の成長を促進させ、その結果、光合成色素を増加させる緑色を濃くする。
 一方、刊行物1には、銅フタロシアニンを含有する組成物の有効量を芝草に施用して、芝草を緑色に「着色」する技術が開示されている。
 審決(拒絶審決)では,「本願発明も刊1発明は,銅フタロシアニンを含む組成物の有効量を芝生に施用するという手段において区別できず,刊1発明においても芝生の均一性及び密度の改良という作用効果が得られていると解されるから,本願発明と刊1発明は実質的に同一である」旨判断した。
 これに対して裁判所は、「銅フタロシアニンを含む組成物の有効量を芝生に施用するという手段が同一であっても,この用途が,銅フタロシアニンの未知の属性を見出し,新たな用途を提供したといえるものであれば,本願発明が新規性を有する」と判断し、審決を取り消した。
 本判決は、知的財産高等裁判所平成18年11月29日判決平成18年(行ケ)第10227号審決取消請求事件「シワ形成抑制剤事件」(本ブログ2012年2月24日記事)と基本的に同じ判断基準で用途発明の新規を判断した事例といえる。
 
2.本願発明(請求項1)
「芝草の密度,均一性及び緑度を改良するためのフタロシアニンの使用方法であって,銅フタロシアニンを含有する組成物の有効量を芝草に施用することを含み,ただし,(i)該組成物は,亜リン酸もしくはその塩,または亜リン酸のモノアルキルエステルもしくはその塩の有効量を含まず,(ii)該組成物は,有効量の金属エチレンビスジチオカーバメート接触性殺菌剤を含まない,方法。」
 
3.刊行物1に記載の発明
「芝生を全体的に均一な緑色に着色するために顔料(銅フタロシアニン等)6.5重量部、分散剤2重量部、バインダー(共重合エマルジョン)70重量部、及び水21.5重量部のみを含む芝生用着色剤を芝生に散布する方法。」

4.裁判所の判断のポイント
「新しい用途を提供する点について
 さらに,本件審決は,本願発明も刊1発明は,銅フタロシアニンを含む組成物の有効量を芝生に施用するという手段において区別できず,刊1発明においても芝生の均一性及び密度の改良という作用効果が得られていると解されるから,本願発明と刊1発明は実質的に同一である旨判断した。
 しかしながら,本願発明は「芝草の密度,均一性及び緑度を改良するためのフタロシアニンの使用方法」であるから,「芝草の密度,均一性及び緑度を改良するための」は,本願発明の用途を限定するための発明特定事項と解すべきであって,銅フタロシアニンを含む組成物の有効量を芝生に施用するという手段が同一であっても,この用途が,銅フタロシアニンの未知の属性を見出し,新たな用途を提供したといえるものであれば,本願発明が新規性を有するものと解される。
 そこで,刊1発明における銅フタロシアニンの用途について検討すると,前記アで判示したとおり,刊1発明は,銅フタロシアニンを着色剤として用いて芝草を緑色にするという内容にとどまるものであって,刊行物1には,芝草に対して生理的に働きかけて,品質を良くするという意味での成長調整剤(成長調節剤)としての本願発明の用途を示唆する記載は一切ない。加えて,着色剤と成長調整剤とでは,生じる現象及び機序が全く異なるものであって,証拠(甲48,50,52~55,57)によれば,①植物成長調整剤は「農作物等の生理機能の増進又は抑制に用いられる成長促進剤,発芽抑制剤その他の薬剤」(農薬取締法1条の2第1項)に該当する「農薬」であるのに対して,着色剤はこれに該当しないこと(甲50),②文献上も両者は異なるものとして分類されていること(甲48),③商品としても,両者は区別されて販売されていること(甲52~54,57),④成長調整剤は芝草の生育期に使用されるのに対して,着色剤は芝休眠時に使用されるなど使用時期も異なること(甲53~55)などからすると,本願発明における芝草の「密度」,「均一性」及び「緑度」の内容は必ずしも一義的に明らかではないものの,本願発明は,刊1発明と同一であるということはできないものと認められる。」