2013年10月20日日曜日

併用投与に特徴のある医薬発明のクレーム形式に関する考察


知財高裁平成25年10月10日判決

平成25年(行ケ)第10014号 審決取消請求事件


1.概要

 本事例は拒絶審決を不服とする審決取消訴訟の高裁判決である。

 本願発明は

「放射線照射によりガン局所に炎症を生起させた状態でeMIPを投与することを特徴とするeMIPを有効成分とするガン治療剤。」

である。

 本願発明は、放射線照射と、eMIPという成分の投与とを併用することにより、放射線照射による腫瘍抑制作用を増強させガンを治療するという発明を、「剤」形式クレームで表現したものである。

 審決及び判決では、放射線照射とeMIPと類似する成分の投与との併用について開示する文献と、eMIP自体がガン治療用途に公知であることを示す文献との組み合わせにより本願発明は進歩性を有さないと判断された。また判決では、放射線照射とeMIP投与との併用による効果が格別顕著な効果でない、という点も進歩性を否定する事情として考慮された。


2.考察(複数成分併用医薬への応用)

 この事例では、「放射線照射によりガン局所に炎症を生起させた状態でeMIPを投与することを特徴とするeMIPを有効成分とするガン治療剤。」という表現により、放射線照射とeMIP投与とを「併用」することが発明の特徴点として考慮され、進歩性の有無が判断された。結果的には進歩性が否定されたが、少なくとも、eMIP自体がガン治療用途に公知であることを示す文献に対して本願発明が新規性を有することは審決及び判決で認められており、「併用」による効果が顕著であれば進歩性が肯定される可能性もあったわけである。

 医薬発明の審査基準によれば、「用法又は用量が特定された特定の疾患への適用」に特徴を有する発明は、有効成分と対象疾患が公知であっても、用法又は用量の特徴が新規であれば新規性が肯定される場合があるとされている。審決及び判決の判断はこの基準に沿った判断だと考えられる。

 審査基準が「用法又は用量」の特徴として典型的に想定しているのは、1つの有効成分の用法や用量に特徴を持たせる形態であるが、本事例からみて、eMIP投与を放射線照射と「併用」することを「用法又は用量」の特徴として権利請求することも可能なようである。


 この事例と同じ発想でゆけば、ガン治療薬として公知の成分Aと成分Bとを併用して投与したとき顕著な相乗効果を奏するような場合に、「成分Bと組み合わせて投与すること」が、「成分Aを含有するガン治療剤」の「用法」の特徴として認められてよいことになる。

 具体的には以下のようなクレーム形式で新規性が認められ、「併用」の効果が顕著で予想外であれば進歩性も認められる可能性がある:

 「成分Bが投与されている状態の患者に成分Aを投与することを特徴とする、成分Aを含有するガン治療剤」


 医薬発明の審査基準によれば、二種の成分を併用する医薬の場合は、「~治療用配合剤」、「組み合わせたことを特徴とする~治療薬」などのクレーム形式で記載することが想定されている。この基準に従えば、「成分Aと成分Bとを組み合わせたことを特徴とするガン治療薬」というクレーム形式になる。

 しかしながら、「ピオグリタゾン事件」(大阪地裁平成23年(ワ)第7576号,同第7578号/東京地裁平成23年(ワ)第19435号,同第19436号)の判決によれば、「成分Aと成分Bとを組み合わせたことを特徴とするガン治療薬」というクレーム形式の特許権の場合、成分Aと成分Bとを組み合わせたものを製造販売する行為を業として行っている者に対してのみ権利行使ができる。成分Bと併用することを念頭に置いた販売活動を行っているとしても、「成分Aを含有するガン治療剤」しか実施していない者に対しては権利行使ができないのである。

 ところが上記のように、「成分Bが投与されている状態の患者に成分Aを投与することを特徴とする、成分Aを含有するガン治療剤」等のクレーム形式であれば、成分Bと併用することを念頭に置いて「成分Aを含有するガン治療剤」を業として実施している者に対しても権利行使ができる可能性がある。(ただし私自信試したことがないので、チャレンジした方には結果をお教えいただけるとありがたいです)