2013年9月22日日曜日

トレーニング方法発明が産業上利用可能性を満たすと判断された事例


知財高裁平成25年8月28日判決

平成24年(行ケ)第10400号 審決取消請求事件

 

1.概要

 本事例は、特許無効審判における権利有効との審決に対する審決取消訴訟において、審決が維持された事例である。

 原告は、下記の「トレーニング方法」の特許権が治療方法に該当し産業上利用できる発明とはいえないと主張した。しかし裁判所はこの主張を認めず、原告の請求を棄却した。

 判断のポイントは、本件明細書中に請求項記載のトレーニング方法が医療方法として利用できるとは記載されていない、という点だと考えられる。

 

2.本件特許請求項1

「筋肉に締めつけ力を付与するための緊締具を筋肉の所定部位に巻付け,その緊締具の周の長さを減少させ,筋肉に負荷を与えることにより筋肉に疲労を生じさせ,もって筋肉を増大させる筋肉トレーニング方法であって,筋肉に疲労を生じさせるために筋肉に与える負荷が,筋肉に流れる血流を止めることなく阻害するものである筋力トレーニング方法。」

 

3.裁判所の判断のポイント

取消事由2(本件発明の,特許法1条及び29条1項柱書所定の「産業の発達に寄与する」,「産業上利用することができる」との要件充足性を肯定した判断の誤り)に対して

(1) 産業上利用可能性について

 本件発明は,特定的に増強しようとする目的の筋肉部位への血行を緊締具により適度に阻害してやることにより,疲労を効率的に発生させて,目的筋肉をより特定的に増強できるとともに関節や筋肉の損傷がより少なくて済み,さらにトレーニング期間を短縮できる筋力トレーニング方法を提供するというものであって,本件発明は,いわゆるフィットネス,スポーツジム等の筋力トレーニングに関連する産業において利用できる技術を開示しているといえる。そして,本件明細書中には,本件発明を医療方法として用いることができることについては何ら言及されていないことを考慮すれば,本件発明が,「産業上利用することができる発明」(特許法29条1項柱書)であることを否定する理由はない。

(2) 医療行為方法について

 原告は,被告が本件発明を背景にして医療行為を行っている等と縷々主張する。本件発明が,筋力の減退を伴う各種疾病の治療方法として用いられており(甲17,29等),被告やその関係者が本件発明を治療方法あるいは医業類似行為にも用いることが可能であることを積極的に喧伝していたこと(甲63,67,68等)が認められる。しかし,本件発明が治療方法あるいは医業類似行為に用いることが可能であったとしても,本件発明が「産業上利用することができる発明」(特許法29条1項柱書)であることを否定する根拠にはならない。

 この点に係る原告の主張は採用できない。」