2012年11月12日月曜日

間接侵害の判断において「広く一般に流通しているもの」の該当性が争われた事例


大阪地裁平成24年11月1日判決

平成23年()第6980号 特許権侵害差止等請求事件

 

1.概要

 特許法101条は、2号に該当する「特許が物の発明についてされている場合において、その物の生産に用いる物(日本国内において広く一般に流通しているものを除く。)であつてその発明による課題の解決に不可欠なものにつき、その発明が特許発明であること及びその物がその発明の実施に用いられることを知りながら、業として、その生産、譲渡等若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」を特許権又は専用実施権を侵害する行為であるとみなす規定である。

 すなわち「日本国内において広く一般に流通しているもの」は間接侵害の対象外である。

 本判決では、位置検出器に装着される部品である、被告が製造するスタイラス(接触針)が「広く一般に流通しているもの」に該当しないと判断された。

 裁判所は理由として以下の二つを挙げている。

(1)スタイラスは用途が検出器に限られるため、ねじや釘のように幅広い用途を持つ製品とは異なり、「広く」流通するとは言えない。

(2)用途及び需要者が限定されるスタイラスは、取引の安全を理由に間接侵害の対象から除外する必要性に欠ける。

 

2.原告が有する本件特許発明

「電気的に絶縁された状態で所定の安定位置を保持する微小移動可能な接触体(5)と,当該接触体に接続された接触検出回路(3,4)とを備え,当該接触検出回路で接触体(5)と被加工物又は工具ないし工具取付軸との接触を電気的に検出する位置検出器において,接触体(5)の接触部がタングステンカーバイトにニッケルを結合材として混入してなる非磁性材で形成されていることを特徴とする,位置検出器。」

 

3.被告の実施品

 被告は、ハ号スタイラス(接触針。位置検出器の接触体として用いられる)を製造販売する。

 ハ号スタイラスは本件特許発明における「接触体(5)」の要件を満たす。

 被告は、ハ号スタイラスを接触体として装着したイ号検出器およびロ号検出器を製造する。イ号検出器およびロ号検出器は、本件特許発明の技術的範囲を満足する。

 

4.争点

 ハ号スタイラスが、本件特許発明に係る物の生産に用いる物であつてその発明による課題の解決に不可欠なものであり、なおかつ「日本国内において広く一般に流通しているもの」ではない(特許法101条2号)、に該当するか?

 

5.裁判所の判断のポイント

「ア・・・・ハ号スタイラスは,「物の発明」である本件特許につき,「その物の生産に用いる物」であり,かつ「その発明による課題の解決に不可欠なもの」(特許法101条2号)といえる。

そして,原告は,被告に対し,平成22年12月3日付の「催告書」と題する書面を送付し,被告はこれを遅くとも同月6日には受領したが,同書面には,本件特許の特許番号,登録日,本件特許発明の構成要件に加え,イ号検出器が本件特許権を侵害することなどが記載されていた(乙1,弁論の全趣旨)ところ,被告は同日以降,本件特許発明が「特許発明であること」及びハ号スタイラスが「その発明の実施に用いられること」を知っていた(特許法101条2号)といえる。

・・・

一方,被告は,ハ号スタイラスにつき,間接侵害(特許法101条2号)の除外要件である「日本国内において広く一般に流通しているもの」に当たる旨主張する。

 確かに,ハ号スタイラスの用途は,これを備え付けた場合に本件特許発明の技術的範囲に属することになるイ号検出器及びロ号検出器に限定されているわけではなく,本件特許発明の技術的範囲に属さない内部接点方式の位置検出器とも適合性を有するものではある(甲2~4)。しかし,結局のところその用途は,位置検出器にその接触体として装着することに限定されており,この点,ねじや釘などの幅広い用途を持つ製品とは大きく異なる。また,そのような用途の限定があるため,実際にハ号スタイラスを購入するのは,位置検出器を使用している者に限られると考えられる。

 このような事情を踏まえると,ハ号スタイラスは,市場で一般に入手可能な製品であるという意味では,「一般に流通している」物とはいえようが,「広く」流通しているとは言い難い。また,そもそもこのような除外要件が設けられている趣旨は,「広く一般に流通しているもの」の生産,譲渡等を間接侵害に当たるとすることが一般における取引の安全を害するためと解されるが,上記のように用途及び需要者が限定されるハ号スタイラスにつき,取引の安全を理由に間接侵害の対象から除外する必要性にも欠けるといえる。

 したがって,ハ号スタイラスは「日本国内において広く一般に流通しているもの」に当たらず,この点に関する被告の主張は採用できない。」