2012年10月16日火曜日

刊行物に記載された発明といえるか否かが争われた事例


知財高裁平成24年9月27日判決

平成23年(行ケ)第10201号 審決取消請求事件

 

1.概要

 本事例では、無効審判審決における、本件発明1と対比すべき構成が甲1文献に記載されていないとの判断に誤りがあると判断され、審決が取り消された。

 裁判所は、刊行物に記載された発明というためには、技術常識を前提として当業者が理解できる発明であればよい、と判断した。

 

2.裁判所の判断のポイント

特許法29条1項3号は,「特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明」は特許を受けることができないと規定する。ところで,同号所定の「刊行物に記載された発明」というためには,刊行物記載の技術事項が,特許出願当時の技術水準を前提にして,当業者に認識,理解され,特許発明と対比するに十分な程度に開示されていることを要するが,「刊行物に記載された発明」が,特許法所定の特許適格性を有することまでを要するものではない。

「・・・以上によると,本件特許の優先日当時,当業者は,多重モード・ファイバー増幅器では,入射条件やコアの活性領域を限定することによって,入射されるモードの数を限定することができ,ファイバーの品質改善により,基本モードは,高次モードと著しく結合することなく,多重モード・ファイバーを伝搬することができるとの認識を有していたと認められる。したがって,本件特許の優先日当時において,基本モードの信号エネルギーを,モード結合を抑制して,多重モード・ファイバー増幅器を伝搬させるための構成は,十分に明確なものとして理解できたものということができ,当業者は,甲1文献に記載された「基本モードの信号エネルギーを多重モード・ファイバー増幅器の出力ポートまで保存すること」の具体的方法を理解することができたといえる。

以上のとおり,甲1文献には,単一モード・ファイバーに多重モード・ファイバー増幅器を適用する光学増幅器において,単一モード・ファイバーと多重モード・ファイバー増幅器との間に,ファイバーモードを整合するためのインターフェース光学部品が設置され,多重モード・ファイバー増幅器に,入力信号を入力する入力信号源とポンプ光を入力するポンプ源が接続されていること,高品質の導波路及び適切なモード整合光学部品を使用して,多重モード・ファイバー増幅器の入力ポートにその基本モードの信号を入力し,多重モード・ファイバー増幅器によって増幅されたこの基本モードの信号エネルギーを,当該多重モード・ファイバー増幅器の全体を通して,その出力ポートまで保存することが開示されており,本件特許の優先日当時の当業者の技術水準によれば,その当時,インターフェース光学部品の構成や,基本モードの入射・保存のための方法などを含め,上記光学増幅器の構成は,当業者が理解可能な程度に明らかになっていたといえる。したがって,甲1文献には,本件発明と対比可能な程度に技術事項が開示されており,甲1文献に記載された発明は,特許法29条1項3号に規定する「刊行物に記載された発明」に該当するというべきである。