2011年3月21日月曜日

進歩性を否定する場合に引用発明を組合せることの示唆、動機付けが明らかにされる必要があると判断された事例

知財高裁平成23年3月8日判決
平成22年(行ケ)第10273号審決取消請求事件

1.概要
 引用発明1において引用発明2のインク(塗料)を適用することにより本願発明を完成させることは当業者が容易に想到できるとした拒絶審決が取り消された。
 組み合わされる構成要件が周知技術でない限り、組み合わすことの示唆、動機付け等が示される必要があると裁判所は判断した。

2.本願発明の要旨
 平成22年4月22日付けの手続補正書(甲5)により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る本願発明は,以下のとおりである。
【請求項1】
「少なくとも下記手段及び装置を具えた外観検査装置を用いて,アルミニウム箔製包装体を製造する際に用いるアルミニウム箔であって,該アルミニウム箔は,その本体表面に,文字や図柄などの表示が印刷されてなり,該表示は,樹脂ワニスに顔料を添加してなる印刷インキを用いて印刷することによって形成されたものであり,該顔料は,顔料本体表面が合成樹脂膜によって被覆されていることを特徴とする赤外線透過性に優れた表示を印刷してなる包装用アルミニウム箔。」

3.審決の理由の要点
(1) 本願発明は,引用例1(特開2003-215047号公報,甲1)に記載された発明(引用発明1)及び引用例2(特開平9-249821号公報,甲2)に記載された発明(引用発明2)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(2) 引用発明1及び2の内容,本願発明と引用発明1との一致点及び相違点並びに相違点についての判断は,次のとおりである。
【引用発明1】
「外観検査装置を設けたPTP包装機で製造されるPTPシートであって,PTPシートは,錠剤を収容する複数のポケット部が形成された包装用フィルム3とアルミニウム製のカバーフィルム4とを有し,カバーフィルム4には,赤外光に対し透過性を有するインクを用いて記号等からなる識別情報としての印刷部9が設けられており,外観検査装置は,赤外光を照射できる照明手段21,照明手段21から照射される赤外光の波長領域に感度を有する撮像手段22及び撮像手段22から出力される映像信号を処理する画像処理装置23を備え,PTPシートに赤外光を照射した際の反射光として撮像された画像に基づいて,カバーフィルム4及び印刷部9の明度よりも低く,かつ,異物の明度よりも高い閾値δ2を用い,カバーフィルム4上の異物を判定する,外観検査装置を設けたPTP包装機で製造されるPTPシート。」
【引用発明2】
「反応性水可溶樹脂で被覆した,分散性が良好な被覆顔料を樹脂ワニスに添加してなる油性塗料。」
【引用発明1と本願発明との一致点】
「少なくとも下記手段及び装置を具えた外観検査装置を用いて,アルミニウム箔製包装体を製造する際に用いるアルミニウム箔であって,該アルミニウム箔は,その本体表面に,文字や図柄などの表示が印刷されてなり,該表示は,印刷インキを用いて印刷することによって形成されたものであり,赤外線透過性に優れた表示を印刷してなる包装用アルミニウム箔。

(1)アルミニウム箔に対して赤外線を含む光を照射する照明手段
(2)赤外線に感度を有し,前記照明手段により照射された面を撮像する撮像手段
(3)撮像手段から出力される映像信号を処理する画像処理装置」
【本願発明と引用発明1との相違点】
 本願発明の印刷インキは,樹脂ワニスに顔料を添加してなり,該顔料は,顔料本体表面が合成樹脂膜によって被覆されているのに対して,引用発明1のインクはそのようなものでない点。
【相違点についての判断】
 引用発明1では,赤外光に対し透過性を有するインクを用いて印刷部9を設けることにより,印刷部9とカバーフィルム4自体との明度差を小さくしているが,赤外光に対し格別に優れた透過性を有するインクを用いなくても,閾値δ2を適当な値に設定すれば,カバーフィルム4上の異物を印刷部9と区別して判定することができることは明らかである。一方,引用発明2は,「塗料」であるが,そもそも「塗料」と「インク」は厳密に区別されるものではなく,例えば,金属板の上に盛るように付着させる場合は「塗料」と呼び,紙に染みこませる場合は「インク」と呼ぶとしても,材料自体に本質的な相違がない場合が多く,引用発明2の塗料はアルミニウム箔の表面に印刷するときにも使用できることは,容易に推察される。したがって,引用発明1のインクに代えて,引用発明2の塗料を用いること,すなわち上記相違点は,当業者が容易に想到し得たことである。

4.裁判所の判断
「取消事由1(引用発明2を引用発明1に適用した誤り)について
(1) ・・・・・審決の上記判断には,以下に説示するとおり,引用発明1に対して,引用発明2の構成,すなわち,「反応性水可溶樹脂で被覆した,分散性が良好な被覆顔料を樹脂ワニスに添加してなる油性塗料」を適用し得るための動機付けが示されておらず,当業者が,引用発明2を引用発明1に適用し得るとすることは,誤りといわなければならない。
(2) まず,引用発明1は,前記第2の3(2)の【引用発明1】,【引用発明1と本願発明との一致点】及び引用例(甲1)の記載によれば,以下のとおりと認められる。
 すなわち,引用発明1は,PTPシートの製造に際して,赤外光を照射することにより,アルミニウム製のカバーフィルムの印刷部上にある異物をも判別できることを技術課題の1つとして,赤外光に対し透過性を有するインクを用いて記号等からなる識別情報としての印刷部を設け,赤外光を照射した際の反射光において,印刷部とカバーフィルム自体との明度差を極めて小さくし,さらに,第2の閾値δ2をカバーフィルムの明度より若干低い値に設定するという構成を採用することにより,印刷部の存在の有無に関係なく,印刷部のみが無視されてカバーフィルム上の異物が判定できるという作用効果を達成したものと認められる。
 これに対し,審決は,上記のとおり,「赤外光に対し格別に優れた透過性を有するインクを用いなくても,閾値δ2を適当な値に設定すれば,カバーフィルム4上の異物を印刷部9と区別して判定することができることは明らかである。」と述べるところ,赤外光に対し透過性を有するインクを用いない場合には,印刷部の明度が一定程度低下し,印刷部上に印刷部と同程度の明度を有する異物が存するときには,当該異物が判定できないこととなる(異物の明度が既に判明している場合には,その明度より高く,かつ,印刷部の明度より低く閾値δ2を設定すれば異物が判定できるが,そのような場合が一般的であると解することはできない。)。したがって,審決の上記説示は,引用発明1の技術課題が解決できない従来技術を示したものにすぎず,引用発明1に対して引用発明2の構成を適用することについての動機付け等を明らかにするものではない。
(3) また,審決は,上記のとおり,「引用発明2は,「塗料」であるが,そもそも「塗料」と「インク」は厳密に区別されるものではなく,例えば,金属板の上に盛るように付着させる場合は「塗料」と呼び,紙に染みこませる場合は「インク」と呼ぶとしても,材料自体に本質的な相違がない場合が多く,引用発明2の塗料はアルミニウム箔の表面に印刷するときにも使用できることは,容易に推察される。」と述べるところ,この説示は,「塗料」と「インク」とが厳密に区別されるものではなく,本質的な相違がない旨を述べるだけであり,仮に,「塗料」と「インク」が区別されず,また,引用発明2の塗料がアルミニウム箔の表面の印刷に使用できるとしても,それはただ単に,引用例2がアルミニウム箔に使用できる可能性のあるインクを開示しているにすぎない。引用例2には,当該塗料が赤外光に対する透過性に優れることは記載されておらず,引用発明2の「塗料」を引用発明1の「インク」として使用することが示唆されているということにはならない。
 そもそも,「塗料」又は「インク」に関する公知技術は,世上数限りなく存在するのであり,その中から特定の技術思想を発明として選択し,他の発明と組み合わせて進歩性を否定するには,その組合せについての示唆ないし動機付けが明らかとされなければならないところ,審決では,当業者が,引用発明1に対してどのような技術的観点から被覆顔料を使用する引用発明2の構成が適用できるのか,その動機付けが示されていない(当該技術が,当業者にとっての慣用技術等にすぎないような場合は,必ずしも動機付け等が示されることは要しないが,引用発明2の構成を慣用技術と認めることはできないし,被告もその主張をしていない。)。
(4) この点について,被告は,引用例2の段落【0006】の記載を根拠に,色相,着色力及び分散性に優れているのが好ましいことは,インキや塗料の顔料について一般的にいえることであり,引用発明1のインクについてもあてはまることであるから,引用発明1のインクとして引用発明2の油性塗料を適用してみようという程度のことは,当業者が容易に考えつくことであると主張する。
 確かに,インクや塗料において,色相,着色力及び分散性に優れているのが一般的に好ましいと解されるところ,それに応じて,色相,着色力,分散性などのいずれかに優れていることをその特性として開示するインクや塗料も,多数存在すると認められるのであり,その中から,上記の一般論のみを根拠として引用発明2を選択することは,当業者が容易に想到できるものではない。

2011年3月13日日曜日

サポート要件違反と判断した審決が取り消された事例

知財高裁平成23年2月28日判決
平成22年(行ケ)第10109号 審決取消請求事件

 今回紹介する裁判例はサポート要件に関して知財高裁が判断を下した最近の事例である。

1.本願発明1(請求項1)
「(i)ケラチン繊維に対して還元用組成物を適用する作業;及び,(ii)ケラチン繊維を酸化する作業を少なくとも含み,更に作業(i)の前に,当該ケラチン繊維に対して,化粧品的に許容される媒体中に数平均1次粒子径が3乃至70nmの範囲の粒子を含むアミノシリコーンミクロエマルジョンを含む前処理用化粧料組成物(但し,非イオン性両親媒性脂質を含まない)を適用することを特徴とする,ケラチン繊維のパーマネント再整形方法。」

2.審決の理由(「第5 当裁判所の判断」から抜粋)
(1) 審決は,本願発明1ないし9は,36条6項1号に違反するとした。その理由を要約すると,以下のとおりである。すなわち,
ア 本願発明1ないし9は,ケラチン繊維のパーマネント再整形方法において,
①ケラチン繊維に対して還元用組成物を適用する作業の前に,②当該ケラチン繊維に対して,化粧品的に許容される媒体中に数平均1次粒子径が3乃至70nmの範囲の粒子を含むアミノシリコーンミクロエマルジョンを含む前処理用化粧料組成物(但し,非イオン性両親媒性脂質を含まない)を適用することにより,毛髪の劣化を緩和する等の課題解決を目的とする発明である。
イ 本願明細書には,本願発明の課題解決に関して,「還元剤の中にアミノシリコーンミクロエマルジョンを含有させた還元用組成物を毛髪に適用した場合」(従来技術)と,「還元剤処理の前に前処理剤としてアミノシリコーンミクロエマルジョンを含む前処理用化粧料組成物(但し,非イオン性両親媒性脂質を含まない)を適用する場合」との,両者に差が生じた旨の記載はある。しかし,同記載は,具体的な比較実験データ及び前処理の有無による技術的傾向が示されているわけではない。
ウ 実施例に関して,実施例1は,「本件発明方法」と「先行技術による方法」との比較が示されているが,同実施例の「先行技術による方法」は,前処理用組成物で処理しなかったもので,還元剤の中にアミノシリコーンミクロエマルジョンを含有させた還元用組成物を毛髪に適用したものではないから,アミノシリコーンミクロエマルジョンを含む前処理剤による処理の有無に係る比較実験データとしては適切なものではない。また,実施例2,3についても,従来技術である「還元剤の中にアミノシリコーンミクロエマルジョンを含有させた還元用組成物を毛髪に適用した場合」と,「還元剤処理の前に前処理剤としてアミノシリコーンミクロエマルジョンを含む前処理用化粧料組成物(但し,非イオン性両親媒性脂質を含まない)を適用する場合」との具体的な比較実験データが示されていない。
 したがって,本願発明1~9は,本願発明の詳細な説明に記載されたものでなく,36条6項1号の規定を充足しないものである。
(2) 審決の理由の不備について
 要するに,審決は,特許請求の範囲の請求項1(請求項2ないし9も同様である,以下同じ。)の「還元用組成物を適用する作業」における「還元用組成物」の意義について,「アミノシリコーンを含有しない還元用組成物」と限定的な解釈を施した上で,発明の詳細な説明中には,アミノシリコーンミクロエマルジョンを含有する前処理剤により前処理した実施例は記載されているものの,前処理をせず「アミノシリコーンを含有する還元用組成物」により還元処理をした従来技術に係る比較例は記載されておらず,そのような従来技術との比較実験データは記載されていないから,特許請求の範囲に記載された発明は,発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるということができない,と判断したものである。

3.裁判所の判断のポイント
36条6項1号は,「特許請求の範囲」の記載は,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」を要するとしている。同条同号は,同条4項が「発明の詳細な説明」に関する記載要件を定めたものであるのに対し,「特許請求の範囲」に関する記載要件を定めたものである点において,その対象を異にする。特許権者は,業として特許発明の実施をする権利を専有すると規定され,特許発明の技術的範囲は,願書に添付した「特許請求の範囲」の記載に基づいて定められる旨規定されていることから明らかなように,特許権者の専有権の及ぶ範囲は,「特許請求の範囲」の記載によって画される(特許法68条,70条)。もし仮に,「発明の詳細な説明」に記載・開示がされている技術的事項の範囲を超えて,「特許請求の範囲」の記載がされるような場合があれば,特許権者が開示していない広範な技術的範囲にまで独占権を付与することになり,当該技術を公開した範囲で,公開の代償として独占権を付与するという特許制度の目的を逸脱することになる。
 36条6項1号は,そのような「特許請求の範囲」の記載を許さないものとするために設けられた規定である。したがって,「発明の詳細な説明」において,「実施例」として記載された実施態様やその他の記載を参照しても,限定的かつ狭い範囲の技術的事項しか開示されていないと解されるにもかかわらず,「特許請求の範囲」に,「発明の詳細な説明」において開示された技術的範囲を超えた,広範な技術的範囲を含む記載がされているような場合は,同号に違反するものとして許されない(もとより,「発明の詳細な説明」において,技術的事項が実質的に全く記載・開示されていないと解されるような場合に,同号に違反するものとして許されないことになるのは,いうまでもない。)。
 以上のとおり,36条6項1号への適合性を判断するに当たっては,「特許請求の範囲」と「発明の詳細な説明」とを対比することから,同号への適合性を判断するためには,その前提として,「特許請求の範囲」の記載に基づく技術的範囲を適切に把握すること,及び「発明の詳細な説明」に記載・開示された技術的事項を適切に把握することの両者が必要となる。」

「・・・「還元用組成物を適用する作業」における「還元用組成物」は,「アミノシリコーンを含有しない還元用組成物」と限定的に解釈することはできず,また,本願発明に係る「特許請求の範囲」は,本願明細書の「発明の詳細な説明」に記載されていると理解することができるから,本願発明1ないし9の請求項の記載は36条6項1号に適合しないとした審決の判断には,誤りがある。・・・」

「特許請求の範囲には,「還元用組成物を適用する作業」における「還元用組成物」について,アミノシリコーンを含まないとの限定文言は一切ない。したがって,「還元用組成物」は,「アミノシリコーンを含まない還元用組成物」に限定解釈される根拠はない。」

「4 36条6項1号への適合性
 以上を前提として,本願発明の36条6項1号への適合性について,検討する。
 「特許請求の範囲」の記載と「発明の詳細な説明」の記載とを対比し,「特許請求の範囲」に記載された本願発明が,「発明の詳細な説明」に記載・開示された技術的事項の範囲のものであるか否か,すなわち,還元処理の前にアミノシリコーンミクロエマルジョンを含有する前処理用化粧料組成物を毛髪に適用して前処理をし,その後還元用組成物により還元処理をするとの本願発明が,アミノシリコーンを含有する還元用組成物により還元処理をするという従来技術と対比して,毛髪の劣化の程度の緩和等の作用効果を実現し,課題を解決し得ることが,「発明の詳細な説明」に記載・開示されているか否かについて,検討する。
(1) 「特許請求の範囲」の記載について
 本願発明の「特許請求の範囲」の記載は,第2,2記載のとおりである。
 前記3記載のとおり,「還元用組成物を適用する作業」における「還元用組成物」は,アミノシリコーンを含まないものには限定されない。そして,本願発明は,パーマネント再整形における還元処理の前に,「当該ケラチン繊維に対して,化粧品的に許容される媒体中に数平均1次粒子径が3乃至70nmの範囲の粒子を含むアミノシリコーンミクロエマルジョンを含む前処理用化粧料組成物(但し,非イオン性両親媒性脂質を含まない)を適用すること」との前処理工程を付加した点において,特徴を有する発明である。
(2) 「発明の詳細な説明」の記載について
 本願明細書には,実施例1ないし5が記載されているが,パーマネント再整形における還元処理の前にアミノシリコーンミクロエマルジョンを含有する前処理用化粧料組成物を毛髪に適用して前処理をする例が記載されているのは実施例1ないし3であり,実施例1ないし3は,次のとおり記載されている。
・・・
(3) 「特許請求の範囲」の記載と「発明の詳細な説明」の記載との対比
ア 前記(2)の本願明細書の記載によれば,実施例1では,「アミノシリコーンミクロエマルジョンを含む前処理用化粧料組成物による前処理をせず, DV2 で還元処理した比較例(実施例1では「先行技術」と表示される。)」と,「アミノシリコーンミクロエマルジョンを含む前処理用化粧料組成物により前処理した後,DV2 で還元処理したもの(実施例)」の比較結果が示され,本願発明による前処理を施したことによる効果が得られた旨の記載がされている。
 本願明細書中には,DV2 がアミノシリコーンを含んでいるとの明示の説明はされていない。仮に,DV2 がアミノシリコーンを含まないものであると認識されるならば,実施例1における比較例は,アミノシリコーンを含む還元用組成物を用いて還元処理したもの(従来技術)でないから,「本願発明の実施例」と「従来技術に該当するもの」とを対比したことにはならず,本願発明により前処理を施したことによる効果を示したことにならない。審決は,この点を理由として,実施例1の実験は,比較実験として適切なものでないと判断する。
 しかし,審決の同判断は,妥当を欠く。すなわち,前記のとおり,本願発明の特徴は,先行技術と比較して,「アミノシリコーンミクロエマルジョンを含む前処理用化粧料組成物(但し,非イオン性両親媒性脂質を含まない)」を適用するという前処理工程を付加した点にある。そして,①特許請求の範囲において,前処理工程を付加したとの構成が明確に記載されていること,②本願明細書においても,発明の詳細な説明の【0011】で,前処理工程を付加したとの構成に特徴がある点が説明されていること,③本願明細書に記載された実施例1における実験は,前処理工程を付加した本願発明と前処理工程を付加しない従来技術との作用効果を示す目的で実施されたものであることが明らかであること等を総合考慮するならば,本願明細書に接した当業者であれば,上記実施例の実験において,還元用組成物として用いられたDV2 が「アミノシリコーンを含有する還元用組成物」との明示的な記載がなくとも,当然に,「アミノシリコーンを含有する還元用組成物」の一例としてDV2を用いたと認識するものというべきである。
 ・・・なお,甲14ないし16によれば,DV2 は,アミノシリコーンを含有しているものと推認される。
イ また,実施例2,3においても,アミノシリコーンミクロエマルジョンを含有する前処理用化粧料組成物を毛髪に適用した場合とそうでない場合が比較され,本願発明の効果が示されているということができる。
(4) 小括
 以上のとおりであり,審決が,①本願発明について,「還元処理の前にアミノシリコーンミクロエマルジョンを含有する前処理用化粧料組成物を毛髪に適用して前処理をし,その後アミノシリコーンを含有しない還元用組成物により還元処理をする」との構成に係る発明であると限定的に解釈したと解される点,②「前処理をせずに,アミノシリコーンを含む還元用組成物により還元処理をした従来技術」とを比較した場合の本願発明の効果が示されていないと判断した点,及び③本願発明1ないし9について,「特許請求の範囲」の記載と「発明の詳細な説明」の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるということはできないと判断した点に,誤りがある。
 したがって,審決は,36条6項1号に適合しないとの結論を導いた限りにおいて,理由を誤った違法がある。」