2010年12月18日土曜日

機能的表現の明確性要件が争われた事例

知財高裁平成22年11月29日判決言渡

平成22年(行ケ)第10060号 審決取消請求事件

1.概要

 機能的に表現された構造は常に不明確であると判断されるわけではない。

 本件では、機能的表現による構成が無効審判審決において明確であると判断され、知財高裁もそれを支持した。

2.請求項1

「a 遺体の体内物が肛門から漏出するのを抑制する遺体の処置装置であって,

b 筒状の案内部材と,

c 上記案内部材に収容される吸水剤と,

d 上記吸水剤を上記案内部材の一端開口部から押し出す押出部材とを備え,

上記案内部材の一端開口部側は,肛門から直腸へ挿入されるように形成されるとともに,肛門への挿入前に上記吸水剤が上記案内部材の外部に出るのを抑制するように構成されていることを特徴とする遺体の処置装置

3.明確性に関する無効審決での判断

「本件発明の構成eは 「案内部材の一端開口部側が,肛門から直腸へ挿入されるように形成される」という部分(構成e1)と 「案内部材の一端開口部側が,肛 ,門への挿入前に上記吸水剤が上記案内部材の外部に出るのを抑制するように構成されている」という部分(構成e2)とからなっているところ,本件発明の解釈と当業者の技術常識からすると,これらの構成部分はいずれも不明確であるとはいえない。」

4.原告主張の審決取消理由1(明確性要件)

(1) 本件発明の構成e1は不明確である。審決には,何故,長さ,太さ,表面, 性状等についての技術常識を考慮すれば 「肛門から直腸へ挿入される」ことができるために必要な具体的形状構造が明らかであるといえるのか,合理的な説明はない。

(2) 審決は,構成eのうち,構成e1については案内部材自体の構成に基づいて判断しているが,構成e2については案内部材及び別部材の構成に基づいて判断している。このように,審決は,同じ構成要素について異なる判断基準を用いることの合理的説明がなく,矛盾している。また,構成eの「案内部材の一端開口部側は」の記載からすると,本件発明の構成e2についても,案内部材自体の構成に基づいて判断すべきであるのに,審決は別部材に基づいて判断しており,請求項1の記載に基づかない判断である。」

5.裁判所の判断のポイント

「1 取消事由1(明確性要件)について

(1) 原告は,本件発明の構成e1が不明確であり,審決にも合理的説明がない旨主張する。

 しかし,審決は 「遺体の肛門や肛門から直腸までの長さ等の構造・性状は,これらが後の経過時間,体格・年齢等に応じて変わること等を含め,当業者の技術常識である。」(8頁10行~12行)ことを認定し,そのような技術常識を考慮すれば,必要な具体的構造形状・材質等,例えば長さ,太さ,表面性状等は明らかであると判断しているのであって,合理的な理由の説明はされている。

 そして,本件発明の構成e1は,案内部材の一端開口部側が「肛門から直腸へ挿入されるように形成される」と特定されているところ,その字句どおり,案内部材の一端開口部側が肛門から直腸へ挿入されるように形成された構成であれば,どのような形状・材質からなるものであってもよいと解されるから,構成e1の記載が不明確であるということはできない。

 したがって,原告の上記主張は採用することができない。

(2) 原告は,本件発明の構成e2について,案内部材自体の構造から判断すべきであり,これを前提として判断すると不明確であるなどと主張する。

 しかし 「案内部材の一端開口部側」という文言については,これを「案内部材の」と「一端開口部側」に分けて,案内部材それ自体の一端を指すという解釈と,「案内部材の一端開口部」と「側」に分けて,案内部材の一端開口部の方向・面を指すという解釈が考えられるところ,本件明細書の「案内部材の一端開口部側に,該一端開口部を閉塞する閉塞部材を設けてもよい。」(段落【0010】)の記載を斟酌すると,本件発明においては,案内部材それ自体の形状,構造等に限定されるものではなく,別部材を用いる場合も含めた一端開口部周辺の形状,構造等を指すものと解するのが相当である。

 そして,構成e2については,その字句のとおり,案内部材の一端開口部側が,肛門への挿入前に吸水剤が案内部材の外部に出るのを抑制するように構成されていれば,どのような形状・構造からなるものであってもよいと解されるのであって,当業者の技術常識を考慮すれば,構成e2の記載が不明確であるということはできない。」