2009年6月7日日曜日

請求項中の「平均粒子径」という記載が明確性要件違反とされた事例 平成20年(ネ)第10013号

1.概要
知的財産高等裁判所平成20年(ネ)第10013号
平成21年3月18日第1部判決

控訴人が有する本件特許の請求項1:
「セラミックス遠赤外線放射材料の粉末と,全体に対し自然放射性元素の酸化トリウムの含有量として換算して0.3以上2.0重量%以下に調整したモナザイトの粉末とを共に10μm以下の平均粒子径としてなる混合物を,焼成し,複合化してなることを特徴とする遠赤外線放射体。」

本件特許の明細書段落0035には次の記載がある:
「・・・そのため、特に、遠赤外線放射材料と放射線源材料はできるだけ細かな粒子の微粉末とすることが好ましく、一般に、10μm以下の平均粒子径とすることが好ましい。より好ましいのは、0.5~1μm程度の平均粒子径である。そして、それらの粒度が細かい程、自然放射性元素の放射性崩壊によるエネルギ線をより効果的に遠赤外線放射材料に吸収させることができる。」

しかしながら実施例を含む明細書中には平均粒子径の測定定義、測定法について記載されていない。

原判決(大阪地裁)
 本件明細書の特許請求の範囲の記載中「共に10μm以下の平均粒子径としてなる混合物」との記載は,それが具体的にどのような平均粒子径を有する粒子からなる混合物を指すかが不明であるというほかないから,特許法36条6項2号の明確性要件を満たしておらず,同法123条1項4号の無効理由を有する。

控訴審(知財高裁)においても、原判決の判断は支持された。

2.裁判所の判断の要点
「しかし,本件特許の特許請求の範囲において,「10μm以下の平均粒子径」との文言で記載され,発明の詳細な説明・・・において・・・具体的にその技術的意義が説明されているものを,できるだけ細かいものであればよいという見地から,当然に,単なる境界値として特定しているにすぎないということはできない。また,「10μm以下の平均粒子径」という場合の「粒子径」については,技術的に見て,粒子をふるいの通過の可否等の見地から二次元的に捉えたり,体積等の見地から三次元的に捉えるなど様々な見地があり得る中で,本件明細書・・・を精査しても,「粒子径」をどのように捉えるのかという見地からの記載はなく,平均粒子径の定義(算出方法)や採用されるべき測定方法の記載も存しない。これを踏まえると,本件発明の「10μm以下の平均粒子径」の「径」を,本件明細書の段落【0035】等の記載に照らして当然に,ふるい径等の幾何学的径や投影面積円相当径等ではなく体積相当径という意味であるということは困難である・・・」

「・・・JIS Z 8901・・・を根拠として,「平均粒子径」の意義が,レーザ光による光散乱法による球相当径による測定に一義的に特定されるということはできないし,また,・・・セラミックス業界における技術の普及度に照らし,「10μm以下の平均粒子径」との表現が,測定装置あるいは測定方法まで特定する必要のないものであったということもできない。さらに,・・・本件発明の「10μm以下の平均粒子径」という文言は,できるだけ細かいものであればよいという見地からの単なる境界値ということはできず,あくまで,具体的な技術的意義を有する発明特定事項というべきである。そうすると,このような「10μm以下の平均粒子径」との文言について,「10μm」という数値自体ではなく,「10μm以下の平均粒子径」という文言が明確であるかどうかを検討するに当たり,この文言の意義が,どのような測定装置を使用しても「平均粒子径」が10μm以下であるかが確認できればよいという意味であると解して明確性の要件を満たすとすることは,当業者に過度の試行錯誤を課するものであって発明特定事項の開示として相当でなく,また,「平均粒子径」について明確性の要件の充足は要しないというに等しいものというほかない。

「・・・本件特許の出願(平成8年2月)当時において,当業者は,レーザ回折・散乱法以外にも,沈降法等の様々な方法による測定装置によりセラミックスの粒子径を測定していたと認められるものであって,沈降法が実用性を失った状態にあったとは認められず,仮にレーザ回折・散乱法が多く用いられつつある状況にあったとしても,当業者全体の間において見たとき,レーザ回析・散乱法による測定装置で計測することが既に主流になっていたとか,一般化していたということもできないというべきであって,当業者の間に,既にレーザ回折・散乱法による測定装置で計測することが自明であるという技術常識が存在していたということはできない。
 そして・・・本件明細書・・・に,「平均粒子径」の意義を特定することができる手掛かりとなる記載が存するとは認められないから,本件明細書・・・に接した当業者は,本件発明の「平均粒子径10μm以下」という文言について,その意義を理解することができず,本件特許は,特許法にいう明確性の要件を満たしていないというほかない。」

3.コメント請求項中に物性値を記載する場合には、物性値の定義、または少なくとも測定方法を明細書中で明確にすることが重要です。