2016年12月5日月曜日

組成物発明の新規性について争われた事例

知財高裁平成26年7月16日判決
平成25年(行ケ)第10291号 審決取消請求事件

1.概要
 本事例は、特許出願人が、拡大先願発明による新規性欠如(特許法29条の2)を理由とする拒絶審決の取り消しを求めた審決取消訴訟において、審決が取り消された事例である。
 本願発明と拡大先願発明とはともに「固体農薬組成物」に関する発明である。知財高裁は2つの発明の組成物が、互いに重複する部分を含む場合であっても、本願発明の請求項中での必須構成要件が拡大先願発明に記載されていない以上は新規性は認められると判断した。

2.本願発明(本願請求項1)
「ワタ,カポック,アマ,タイマ,ラミー,ボウマ,ジュート,ケナフ,ロゼル,アラミナ,サンヘンプ,マニラアサ,サイザルアサ,マゲイ,ヘネケン,イストリ,モーリシャスアサ,ニュージーランドアサ,フィケ,ココヤシ,パナマソウ,イグサ,シチトウイ,カンゾウ,フトイ,アンペラソウ,コリヤナギ,タケ,コウゾ,ミツマタ,ホウキモロコシ,チーゼルおよびヘチマから選ばれる吸油性の高い繊維作物の破断物と,常温で液体の農薬活性成分または農薬活性成分を液体溶媒に溶解もしくは分散させた液状物とを含有することを特徴とする水田用固体農薬組成物。」

3.特願2000-239324号(特開2002-53405号)公報に係る明細書記載の発明(拡大先願発明)
「農薬成分(アニロホス,ベンフレセート,エトキシスルフロン及びダイムロン)21.4重量%,界面活性剤9.5重量%,デンプンアクリル酸グラフト重合体部分ナトリウム塩4.0重量%,合成シリカ10.0重量%,塩化カリウム10.0重量%,ケナフ粉10.0重量%,ナタネ油6.0重量%,焼成軽石29.1重量%を含む水田に散布される浮遊性の農薬製剤。」

4.裁判所の判断
「農薬活性成分の状態
 上記のとおり,融点の低いアニロホス,ベンフレセートに融点降下が起きて液状化するとは認められないから,固体の状態を維持したまま混合され,ケナフ粉などその他の原末成分とともに粉末化される。ここで,溶媒の役割を果たすべき液体のナタネ油の量は6%と非常に少ない上に,予め焼成軽石に浸み込まされているために農薬活性成分と混合した際に触れる量はより一層少ないから,ナタネ油は,混合された固体の農薬活性成分を液状化するまでには至らず,結合剤として機能するだけで,固体の農薬活性成分を焼成軽石の表面や内部空隙に結着させるにすぎないと考えられる。したがって,拡大先願発明において,農薬活性成分が製造過程において液状になることはなく,「液体」又は「液状物」が「含有」されたものとはいえないから,「液体の農薬活性成分」又は「農薬活性成分を液体溶媒に溶解もしくは分散させた液状物」を「含有」することを必須とする本願発明とはこの点において相違がある。
 確かに,本願発明と拡大先願発明はいずれも物の発明であるところ,本願発明において,液体溶媒に分散された固体農薬活性成分が繊維作物の破断物の内部空隙まで浸透せずに表面に結着して存在する場合,生成物同士を比較すると,本願発明と拡大先願発明との間で固体農薬活性成分の存在形態に違いがない以上,両者を区別することはできない。また,拡大先願発明において,ケナフ粉の空隙と焼成軽石成分粒子の大小関係次第では,ケナフ粉の内部にアニロホス,ベンフレセートを含めた固体の農薬活性成分粒子が侵入することも考えられるが,この場合,農薬活性成分が繊維作物破断物の内部へ浸透する場合の本願発明と,固体農薬活性成分の存在形態に違いがなくなり,両者を区別することはできないことになる。このように,本願発明と拡大先願発明の固体農薬組成物に重なり合う部分があることは否定できないが,本願発明の請求項に「液体の農薬活性成分」又は「農薬活性成分を液体溶媒に溶解もしくは分散させた液状物」を「含有」するという記載がある以上,拡大先願発明との対比においてこの点を無視することはできないのであって,拡大先願発明がこの点を具備しない以上,相違点と認めざるを得ない。