2015年1月17日土曜日

食品特許における感覚的表現の明確性が争われた事例(その2)

知財高裁平成26年12月9日判決
平成26年(行ケ)第10117号 審決取消請求事件(甲事件)
平成26年(行ケ)第10123号 審決取消請求事件(乙事件)

1.概要
 
   本件は特許無効審判審決(下記請求項1は有効との審決)を不服とする審決取消訴訟(甲事件)の知財高裁判決である。
【請求項1】 食塩を2~8重量%含有する食品に,シュクラロースを,その甘味の閾値以下の量添加することを特徴とする,食塩含有食品の塩味をやわらげ刺激を丸く感じさせる風味向上法
 
 
 被告は、上記請求項1の発明に係る特許権の特許権者である。
 原告は上記下線部「刺激を丸く感じさせる」との感覚的な特徴が不明確であるため、明確性要件を満たさないということなどを理由として無効審判を請求した。
 特許庁審決と知財高裁判決は共に、上記表現は明確であり原告主張の無効理由はないと判断した。食品分野での感覚的な表現の明確性については、知財高裁平成26年11月10日判決平成25年(行ケ)第10271号 審決取消請求事件(本ブログ2015年1月4日記事)では明確性が否定されており、本件とともに参考になる。

 
2.裁判所の判断のポイント
2.取消事由2(明確性要件に係る判断の誤り)について
 原告は,訂正明細書には,「- 塩味がやわらげられ,刺激を丸く感じる」との評価はあるが,審決にいう「十分丸く」なったかどうかの評価はなく,また,「刺激を丸く感じる」との評価はパネラーの感想にすぎず,客観的な判断基準は特定されていないから,どのような場合に訂正発明の技術的範囲に属するのか不明りょうであると主張する(前記第3の2【原告の主張】)。
 しかし,実験例1及び2において,シュクラロースの塩なれ効果は,パネル10名による官能により四段階の判断基準に分けて評価され,「±やや塩味がやわらげられていると感じる。」という段階ではなく,「 塩味がやわらげられ,刺激を丸く感じる。」という段階となって初めて「塩なれ効果」があるとされていることに照らせば,「刺激を丸く感じる」との評価についての判断基準は特定されており,不明りょうであるとはいえない。
 したがって,原告の上記主張は採用することができない。」