2014年3月9日日曜日

新規事項追加の判断指標

知財高裁平成26年2月24日判決
平成25年(行ケ)第10201号 審決取消請求事件

1.概要
 本事例は、原告が有する特許権に対する特許無効審判における請求認容審決(無効とする審決)に対する審決取消訴訟の知財高裁判決である。知財高裁は審決に違法性はないと判断した。争点は審査段階で原告(出願人)がした補正が新規事項追加に該当するか否かである。審決、知財高裁ともに補正は新規事項追加に該当すると判断した。
 出願時明細書に「第1凹部」が記載されている。一方、補正後の請求項1、7では「段差部」が記載されている。「段差部」が新規事項か否か(新たに導入された技術的事項といえるか否か)を判断するにあたり裁判所は、補正後の発明が、出願当初明細書に記載されている「第1凹部」が解決する技術課題を解決するものか否かを判断基準とした。そして、補正後の発明は当初発明の技術課題を解決することにはならないから、新たに導入した技術的事項に該当すると結論付けた。「新たな技術的事項の導入」の判断指標を理解するうえで知っておくべき裁判例の一つであろう。

2.裁判所の判断のポイント
2 新規事項の追加判断の誤りについて
(1) 本件補正及び本件訂正について
 本件発明7の「段差部」の発明特定事項は,「その多角形に形成された側壁の少なくとも1の面は,前記底壁側の側壁面が前記上縁部側の側壁面に対して段差部を有して前記収納空間側へ窪んで形成されており,」,「その段差部は,前記収納空間に前記培土を収納した場合にその培土によって埋没した状態となる位置に形成され」,「前記開口面を臨む部分に開口され,前記収納空間に収納される苗に関する情報が表示された表示板を差し込む差込み口を有」するというものである。その後,本件訂正により,上記につき,「前記段差部は,少なくともその差込み口が開口されている部分に形成されていること」(③’)が付加されているが,これは,訂正請求書(甲5の1の1)の記載及び審決の判断のとおり,明瞭でない記載の釈明(特許法134条の2第1項3号)を目的とするものである。そして,訂正前の本件発明7において,段差部に差込み口が開口されることが既に記載されており,実質的には,本件発明7に上記③’が記載されていたものと解される。
 本件補正及び本件訂正において示される「段差部」は,底壁側の側壁面が上縁部側の側壁面に対して収納空間側へ窪んで形成されることは特定されているものの,その段差部が側壁面の幅に対していかなる幅を有するかについての特定はなく,育苗ポットの側面の全周に段差部が形成されるという技術事項や,一つの側壁の全幅に渡って段差部が形成されるという技術事項までを含むものである(以下「技術事項A」とも総称する。)。
・・・・
・・・・「第1凹部」は,側壁の一部が他の側壁の外面よりも収納空間側に窪むことで,育苗ポットに収納された培土に埋もれて開口面から把握できない差込み口の位置を,側壁の外面から把握するための目印としての機能を有するものである。・・・・これらのことに,本項の上記下線部の記載を考慮すると,前記の第1による目印は,差込み口の位置に対応した側壁の一部が当該側壁の外面よりも収納空間側に窪むことにより,当該部分に着目させて側壁の外面から特定可能とし,育苗ポットに収納された培土に埋もれて外部から把握できない差込み口の位置を,容易に把握させるとの機能を果たすものであると認められる。
ウ 以上を前提に,本件補正により新たな技術的事項が導入されるか否かについて検討するに,前記(1)のとおり,本件補正によると,育苗ポットの側面の全周に段差部が形成されたものや,一つの側壁の全幅に渡って段差部が形成されたものまでが「段差部」に含まれることとなる(技術事項A)が,この場合,段差部において差込み口が形成されている領域と差込み口が形成されていない領域とが区別できなくなり,差込み口の位置を側壁の外面から把握できない結果となる。上記のとおり,差込み口のある側壁部分と他の側壁部分とを区別させる第1凹部の構成は,側壁の外面から差込み口を容易に把握できるという本件発明の技術課題の解決手段として設けられたものであることからすれば,本件補正により第1凹部を設けない場合には,当初発明の技術課題を解決することにはならないから,技術事項Aは,新たに導入した技術的事項に該当するというべきである。」