2013年10月7日月曜日

多数の文献を組み合わせて進歩性を否定することの適法性


知財高裁平成25年9月30日判決

平成25年(行ケ)第10013号 審決取消請求事件

 

1.概要

 本件は、進歩性欠如を理由とする拒絶審決に対する審決取消訴訟において、審決が維持された事例である。

 本願請求項1に記載の発明は、「厚労省認定の発毛有効成分 イソプロピルメチルフェノール,酢酸トコフェロール,D-パントテニルアルコール,メントールと付随する成分 ボタンエキス,ニンジンエキス,センブリエキス,アデノシン3リン酸2Na,グリシン,セリン,メチオニン,ヒキオコシエキス-1,シナノキエキス,オウゴンエキス,ダイズエキス,アルニカエキス,オドリコソウエキス,オランダカラシエキス,ゴボウエキス,セイヨウキズタエキス,ニンニクエキス,マツエキス,ローズマリーエキス,ローマカミツレエキス,エタノール,水,BG,POPジグリセリルエーテル,POE水添ヒマシ油を配合した事を特徴とする薬用育毛剤。」というものである。

 本願発明の育毛剤には多数の成分が含まれる。審決では進歩性を否定するために引用文献が9件と、周知技術を示す周知文献が3件引用された。

 欧州、米国、中国等の諸外国では「引用文献を多数組み合わせて初めて完成できる発明は進歩性がある」という認識が一般的であるのに対して、日本では正反対に「引用文献が多数あるということは進歩性がない」という意識の人が多いように思う。審査官が「これでもか」という勢いで多数の文献を引用してくることは日本以外では余り経験がない。

 多数の文献を引用すること自体は問題ない、というのが少なくとも日本の特許庁、裁判所の立場であり、本事例においても拒絶審決に違法性はないと裁判所は判断している。

 

2.裁判所の判断のポイント

「原告は,審決は,9個の引用例及び3個の周知文献を組み合わせて,本願発明は容易想到であるとしたが,そのように多数の引用例等の組合せによってようやく想到できる発明を容易想到であるとすることは誤りであると主張する。

 しかし,本件においては,相違点における各成分の多くは育毛剤に配合される成分であることが複数の文献に記載されており,これらの成分は育毛剤に配合される成分として周知であること,育毛剤においては,同種の作用を有する複数の成分や異なる作用を有する成分等を複合的に使用することが周知であることを立証するために,引用例1ないし8及び周知文献AないしCが用いられていることに照らすならば,引用例等として多数の文献が用いられていることをもって,容易想到ではないということはできない。