2012年12月17日月曜日

審決において周知技術文献を新たに引用することが適法とされた事例


知財高裁平成24年11月21日判決

平成24年(行ケ)第10098号 審決取消請求事件

 

1.概要

 審決において新たな文献が引用されることが適法な場合と違法な場合がある。

 本事例では、審決で初めて引用された新たな文献に基づいて拒絶理由の通知をしなかったことが出願人の意見書提出及び補正の機会を奪う結果となるとはいえない、と判断され、審決は適法であるとされた。

 

2.裁判所の判断のポイント

「取消事由3(手続違背)について

(1) 特許法159条,50条について

 特許法159条2項が準用する同法50条は,拒絶査定不服審判において査定の理由と異なる拒絶の理由を発見した場合には,拒絶の理由を通知し,相当の期間を指定して,意見書を提出する機会を与えなければならない旨を規定する。その趣旨は,審判官が新たな事由により出願を拒絶すべき旨の判断をしようとするときは,出願人に対してその理由を通知することによって,意見書の提出及び補正の機会を与えることにあるから,拒絶査定不服審判手続において拒絶理由を通知しないことが手続上違法となるか否かは,手続の過程,拒絶の理由の内容等に照らして,拒絶理由の通知をしなかったことが出願人の上記の機会を奪う結果となるか否かの観点から判断すべきである。

(2) 本件における手続違背の有無

 原告は,本件審決が,相違点5について,審査段階の拒絶理由通知において周知例1及び2を引用しなかったにもかかわらず,審決において初めて引用発明に周知技術を適用して,当該相違点が当業者に容易に発明することができたと判断したことが違法であると主張する。

 しかしながら,上記周知技術を採用した場合に,表示モードの切替えの際に,注目しているデータアイテムが失われることがないという作用効果を奏することは,当業者に自明のことにすぎない。

 そうすると,本件審決において上記周知技術を示したとしても,新たな事由により出願を拒絶すべきと判断したことにはならず,そのことが当業者である出願人に対し不意打ちになるということはできないから,本件の拒絶査定不服審判手続において改めて拒絶理由を通知しなかったとしても,原告にとって意見書の提出や補正の機会が奪われたということはできない。