2012年11月19日月曜日

「一般的な課題」+「周知技術の適用」の進歩性拒絶に対する反論のために参考になる最近の事例


進歩性の拒絶理由において、主引用発明に対する相違点に係る出願発明の特徴点が、一般的で自明な課題を解決する手段に過ぎないと認定され、当該課題を解決する手段として別の文献に記載の周知技術を採用することは容易であると指摘される場合がある。

 このような場合でも、主引用発明に対する相違点に係る出願発明の特徴点が、具体的な狭い課題を解決する手段であること、主引用文献においても当該課題の存在は認識されていないこと、周知技術は当該課題を解決する手段として知られていたわけではないこと、などを主張することで拒絶解消にいたる場合がある。

 このような対応のために参考になる最近の二つの事例を紹介する。

 事例1は無効審判審決において進歩性が否定されたが、取消訴訟において審決が取り消された事例である。事例2は拒絶査定不服審判審決において進歩性が否定されたが、取消訴訟において審決が取り消された事例である。

 

事例1:

知財高裁平成24年10月25日判決

平成23年(行ケ)第10432号 審決取消請求事件

裁判所の判断のポイント

「・・・本件特許発明1は,支持部材の下端部が支持面である地面に係合され,上端付近(支持面の上方)にキャノピーカバー等が配置される骨組構造体であることから,風力等によりシザー要素の横方向の変形及びねじりによる変形を生じ得るという課題を有するものであり,マウント(連結装置)の「平行な側壁部分は上端部又は下端部において水平な壁部分で相互に連結されて」いる構成は,シザー要素の上記の変形を阻止する作用を有するものであり,連結部分の構造を改良・強化することにより,課題を解決する手段であるといえる。

 一方,上記ア() 認定の事実によれば,甲1には,引用発明の「優点」として,「任意に移位可能で定位できる」,「風に吹き倒されるおそれがない」ことが記載され,伸縮支柱(2)下端が一つの底台片(21)に溶接固定されること,第12図には底台片(21)に孔があることが記載されている。そうすると,引用発明は,止め孔を通じて支持面に定位され,風圧等による横方向の力の影響を受けやすい構造体の上部に屋根等が配置される(第1図ないし第6図)ことから,風圧等によるシザー要素の横方向の変形及びねじりによる変形をも考慮して,構造体の補強を指向するものと一応認められる。しかし,引用発明の上固定支えバー軸体,下活動支えバー軸体(本件特許発明1のマウントに相当すると認められる。)は,端縁シザー組立体の外側端部がソケットを有し,上記バー軸体が当該ソケット内に受け入れられるものとなっており,かつ,ソケットの平行な側壁部分は上端部又は下端部において水平な壁部分で相互に連結されていない構成であるところ,甲1には,かかる構成が,シザー要素の上記の変形を阻止する作用を有すること及びそのために連結部分の構造を改良・強化するものであること(本件特許発明1の課題と解決)については,記載も示唆もされていないというべきである。

 また,上記ア() 認定の事実によれば,甲5,甲7及び甲9には,ソケットの平行な側壁部分が上端部又は下端部において水平な壁部分で相互に連結されている構成が示されておらず(この点は,被告も特に争っていない。),また,シザー要素の横方向の変形及びねじりによる変形を生じさせるような力に対する考慮も示唆されていない。また,甲4及び甲8には上記構成と同様の構成が示されているが,以下のとおり,本件特許発明1や引用発明において想定される,シザー要素の上記の変形を生じさせるような力の作用を考慮した連結装置を開示するものとはいえない。

 すなわち,甲4記載の折畳み式ベンチは,交錯状に集交した脚管の端部の連結器具として軸受け盤の軸受けは平行な向き合った側壁部分を有し,その下端部が相互に連結されているが(第4図),携行収蔵に至便,組立て作製も容易なように,脚の下端が接地面(支持面)に固定される構成は有さず,脚の上下端に脚管が連結されて骨格を構成してベンチに作用する力を支持し,傾倒破損を防止する効果を有するものといえる。

 また,甲8記載の折り畳み式腰掛けは,その脚部が,筒体の下部で筒体の内部に上下に摺動可能に嵌挿された脚部保持体を有し,脚部保持体は,平行な向き合った側壁部分の下端部が相互に連結されているが(第7図),より一層軽量且つ小型に構成され,簡便に携帯可能なようにしたものである。

 そうすると,上記ベンチ及び上記腰掛けは,上記の構成,目的及び用途からして,シザー要素の横方向の変形及びねじりによる変形を生じさせるような態様の力が作用することは想定しがたいものであって,甲4及び甲8に,そのような作用を想定した連結装置が開示ないし示唆されているとは認められない。

 以上によれば,甲1には,本件特許発明1のマウントに相当する上固定支えバー軸体,下活動支えバー軸体の構成により,シザー要素の横方向の変形およびねじりによる変形を阻止する作用を有することは格別記載も示唆もされていないから,甲1に接した当業者が,かかる変形を阻止するために,さらに,上記軸体の構成を,相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることに容易に想到するとは言い難い。

 また,仮に,甲1の記載から,引用発明における上記軸体の構成を変更することの示唆を得たとしても,上記のとおり,甲4,甲5,甲7ないし甲9は,ソケットの平行な側壁部分は上端部又は下端部において水平な壁部分で相互に連結された構成は示されていないか,シザー要素の上記の変形を阻止する作用を考慮したものではないから,これらに記載された技術を引用発明に適用することが容易とはいえない。

・・・・

 これに対し,被告は,折り畳み可能な骨組構造体の技術分野における通常の知識を有する当業者にとって,折り畳み可能な椅子の骨組構造体に関する技術知識を有していたと合理的に判断でき,その技術知識に基づけば,甲4及び甲8記載の水平な壁部での連結構造を引用発明に適用するのは極めて容易である,「側壁部分が水平な壁部で相互に連結される構成」は,たわみを阻止するという作用効果を発揮させる上で特段の意味を持つとはいえず,引用発明において,強度の向上を図るため当業者により適宜採用される設計事項にすぎない旨主張する。

 しかし,上記の主張につき,甲4及び甲8には,ソケットの平行な側壁部分は上端部又は下端部において水平な壁部分で相互に連結された構成が記載されているとしても,シザー要素の横方向の変形及びねじりによる変形を阻止する作用を考慮したものではないから,当業者が,甲4及び甲8記載の技術知識を有していたとしても,それを引用発明に適用することを容易に想到し得たとは認められない。また,上記の主張につき,本件特許発明1において,連結装置に関する「側壁部分が水平な壁部で相互に連結される構成」は,平行な側壁部分を連結してこれを補強するものであることは当業者にとって明らかであるから,シザー要素の横方向の変形及びねじりによる変形を阻止するという課題の解決手段であり,発明の特徴点といえる。甲1,甲4,甲5,甲7ないし甲9において,構造体の強度の向上を図るとの課題は示唆されるとしても,かかる一般的な課題から,シザー要素の上記の変形を阻止するとの課題が当然に発想され得ることを裏付ける証拠はないから,連結装置に関して上記構成を採用することを,当業者が適宜採用する設計事項と認めることはできない。よって,被告の主張は失当である。」

 

事例2:

知財高裁平成24年10月10日判決

平成23年(行ケ)第10396号 審決取消請求事件

裁判所の判断のポイント

「・・・引用文献1の図3のシール構造が具体的にいかなる機能を果たすものであるか直ちに断定できず,したがって流路内の主流の流れの乱れを小さくし,漏洩流を小さくし,かつ主流の流線型流れを促進するという補正発明の動翼プラットフォーム前縁(70)のフレア状構造を採用する動機付けが引用文献1に記載ないし示唆されているとはいい難いところ,引用文献2,3の周知技術ないし技術的事項は補正発明のフレア状構造とは技術的意義が大きく異なるし,また本件優先日当時,当業者の間では,蒸気タービン等の軸流タービンにおいて,静翼のノズルの根元付近で主流を乱す境界層が発生し,主流の流れを阻害して,タービン効率を低下させることが知られており,引用文献2のように,あえて主流の一部をホイールスペースに漏洩させて,上記境界層を除去することが試みられていたものである(甲7~11を参照)。そうすると,仮に引用文献1記載発明に上記周知技術ないし技術的事項を適用したとしても,当業者において補正発明との相違点3に係る構成に容易に想到することはできない。

 なお,被告は,タービン全体の効率のためにはあくまで主流の流れを確保することが基本であるなどと主張するが,これは流路を流れる主流が小さくなると出力に寄与する部分が小さくなるというごく一般的な見地から考察するものにすぎないというべきである。被告が本件訴訟で提出する乙第5ないし第7号証(特公平5-7544号公報,特許第2640783号公報,特開2002-201915号公報)にも専ら流路とホイールスペースとの間のシール(密封)について着目した記載があるのみで,補正発明のフレア状構造のように主流の乱れの防止や流線型流れの向上の点にも着目した構成が記載ないし示唆されているわけではないから,相違点3に係る構成の容易想到性についての前記結論を左右するものではない。当業者は,タービン効率を向上させるために,主流の流れをスムーズにするべく,少量の漏洩流を意図的に生じさせて犠牲にしたり,又は他の方法で主流の乱れを抑え,漏洩流を小さくしたり,あるいは異なる冷却等の見地から他の技術的事項を導入するのであって,他の多くの要因との兼ね合いで構成を検討するものである。したがって,主流の流量を確保することが重要であるからといって,かかる一般的な要請のみで補正発明の具体的なフレア状構造の構成(相違点3)に容易に想到できるものではない。