2012年10月9日火曜日

機械構造の機能的限定が考慮されてサポート要件が満たされると判断された事例


知財高裁平成24年5月23日判決

平成23年(行ケ)第10209号 審決取消請求事件

 

1.概要

 無効審判審決(特許有効の審決)に対する審決取消訴訟である。

 本件発明5がサポート要件を満足するか否かが争われ、審決、裁判所ともにサポート要件は満足されると判断した。

 明細書に開示された構造とくらべて権利範囲が過度に広いのではないか、というのが原告の主張であったが受け入れられなかった。機械構造ではしばしば機能的な限定が用いられる。本機能的限定がクレーム発明を実質的に限定することが判断されており実務においても参考になる所があるように思う。

 

2.本件発明5(請求項5)

「【請求項5】第1のユニットに取り付けられるベース部材と,第2のユニットが取り付けられて前記ベース部材に回動自在に軸支されたアーム部材と,を備えるヒンジ装置において,

 前記第1のユニットとの間に前記ベース部材を挟んで保持する板状の保持部材と,前記保持部材と前記ベース部材との間に取り付けられ,前記ベース部材の取付位置を調整する調整部材と,を設け,

 前記調整部材を調整ネジと該調整ネジの端部に間隔を隔てて設けられた2つのフランジとで構成し,前記保持部材に前記調整部材の前記フランジ間の凹部と嵌合するために切り欠いた切欠部を形成したことを特徴とするヒンジ装置。」

 

3.原告の主張

 本件発明5は,本件明細書の段落【0031】と【0032】に記載された変形例2について権利を請求したものである。したがって,本件発明5は,「調整部材は,保持部材とベース部材との間に設けられ,ベース部材の取付位置を調整するのもので,この調整部材は調整ネジと該調整ネジの端部に間隔を隔てて設けられた2つのフランジとで構成される」という意味になるが,これらの記載も発明の詳細な発明や図面との整合性がなく,意味不明である。すなわち,調整ネジはどこに取り付けられるのか,また,切欠部は保持部材のどこにどのように設けられるのか,これらの事項について,変形例2について説明した本件明細書の段落【0031】と【0032】の記載を反映しておらず,不明瞭であって,権利の範囲が発明の詳細な説明の範囲を超えて拡大している。

 

4.裁判所の判断のポイント

「原告は,本件発明5の「調整ネジ」や「切欠部」についても,取付位置等が不明瞭であるなどと主張するが,「調整部材」を限定した「調整ネジ」については,上記1(5)で説示したとおり,取付位置や調整対象が限定されており,「切欠部」についても,請求項5には「前記保持部材に前記調整部材の前記フランジ間の凹部と嵌合するために切り欠いた切欠部」と規定されており,保持部材に設けることや凹部と嵌合するという機能面からの限定があるから,発明の詳細な説明に記載した範囲を不当に広くするものではない。」