2012年10月16日火曜日

均等侵害の判断においてクレームの限定補正が「意識的除外」に該当すると判断された事例


東京地裁 平成24年9月13日判決

平成21年()第45432号 特許権侵害差止等請求事件

 

1.概要

 本事例では、均等侵害の判断の際に、クレームの限定補正は原則として「意識的除外」に該当すると判断され、均等侵害は成立しないと判断された。

 今日においては「除くクレーム」が認められやすいことから、均等侵害成立の可能性を高める目的で可能な範囲で除くクレームを利用する出願人が増える可能性がある。

 

2.本件発明1

 本件発明1は「寄生虫からペットを治療または予防するための組成物」であって、

() ポリビニルピロリドン,酢酸ビニル/ ビニルピロリドン共重合体,ポリオキシエチレン化されたソルビタンエステルおよびこれらの混合物の中から選択される結晶化阻害剤」

を構成要件として含む(以下、「構成要件1B」という)。

 

3.出願手続きによる補正

 原告は,本件特許の出願手続において,構成要件1Bの結晶化阻害剤を「ポリビニルピロリドン,酢酸ビニル/ビニルピロリドン共重合体,ポリオキシエチレン化されたソルビタンエステルおよびこれらの混合物の中から選択される結晶化阻害剤」に補正した。この補正は,本件明細書の【0017】・【0018】に挙げた結晶化阻害剤として使用可能な多数の化合物のうち,ポリオキシエチレン-脂肪酸エステル,ポリオキシエチレン脂肪族アルコールエーテル,アルキルスルフェート等の乳化剤,ポリビニルアルコール等の重合体が文献に記載されているという理由で拒絶理由通知を受けたため,これらを除外する趣旨で行ったものである。

 

4.被告製品との相違点、争点

 本件発明1と各被告製品とは,構成要件1Bにおいて,本件発明1が「() ポリビニルピロリドン,酢酸ビニル/ ビニルピロリドン共重合体,ポリオキシエチレン化されたソルビタンエステルおよびこれらの混合物の中から選択される結晶化阻害剤」から成るのに対し,各被告製品ではクロタミトンという結晶化阻害剤から成る点で異なる。

 均等侵害の成立の判断において、被告製品における「クロタミトン」が、本件特許1の範囲から意識的に除外されたものといえるかどうかが争われた。

 

5.原告(特許権者)の主張

「この補正は,結晶化阻害剤として使用可能な化合物の一部が文献に記載されているという理由で拒絶理由通知を受け,平成16年当時は「除くクレーム」が例外的にしか認められなかったため,これを除外する意図で行ったにすぎない。また,構成要件1Bにおける化合物が少ないのは,上記文献に記載された化合物を除く使用可能な全ての化合物を記載することが困難であり,特許出願のプラクティスとして,特に好ましい代表例だけを挙げたからである。原告は,実施例に結晶化阻害剤としてポリビニルピロリドンとポリオキシエチレン化されたソルビタンエステルに相当するポリソルベート80を使用する場合だけを挙げたが,発明の内容が実施例に記載した内容に限定されるわけでもない。このため,原告の側において各被告製品が本件発明1及び本件訂正発明1の技術的範囲に属しないことを承認したり外形的にそのように解されるような行動をとったりしたものではない。

 したがって,各被告製品が本件特許の出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もない。」

 

6.裁判所の判断のポイント

「a 前記()b認定のとおり,クロタミトンは,本件特許の出願当初における明細書に記載されなかった上,原告は,補正により,本件各発明において使用可能な結晶化阻害剤としての化合物を構成要件1Bの構成における3種類の化合物とその組合せに限定したのである。これらの事実を総合すれば,原告の側においてクロタミトンを結晶化阻害剤として用いる各被告製品が本件発明1の技術的範囲に属しないことを外形的に承認したように解されるような行動をとったものである。

 したがって,各被告製品が本件特許の出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情がある。

原告は,構成要件1Bの結晶化阻害剤について補正したのは,文献に記載されているという理由で拒絶理由通知を受けた化合物を除外する意図で行ったにすぎず,また,構成要件1Bにおける化合物が少ないのは,使用可能な全ての化合物を記載することが困難であり,特許出願のプラクティスとして,特に好ましい代表例だけを挙げたからであると主張する。しかしながら,特許権者の側において,特許発明の技術的範囲に属しないことをおよそ外形的に承認したように解されるような行動をとったものである以上,特許権者が後にこれと反する主張をすることは,禁反言の法理に照らして許されないというべきであって,当該行動の理由を問擬する原告の上記主張は,採用することができない。