2012年9月4日火曜日

図面を根拠とする補正が新規事項追加か否かが争われた事例


知財高裁平成24年5月23日判決

平成23年(行ケ)第10296号 審決取消請求事件

 

1.概要

 明細書の文言ではなく図面の描写を根拠に行う補正は、「新規事項追加」に該当するか否かの判断が難しい場合がある。本事例は、このような補正が新規事項追加に該当するという拒絶査定不服審判審決の判断が妥当ではないと知財高裁が判断した事例である。

 争われた補正は、「接線」等の構成を請求項1に追加する補正である。明細書中には「接線」という文言は記載されていないが、図面には「接線」が描写されていると理解できる状況であった。

 審決では、図面に記載されているのは(数学的に厳密な意味での)接線とは断定できないため、「接線」を請求項1に追加することは新規事項に該当すると判断された。

 これに対して裁判所は、明細書の説明と図面とから「接線」という構成等は十分に理解できると判断した。

 

2.補正前の請求項1

「複数の食品の収納凹部を備え,各収納凹部をフランジで連設する連設部に設けた分離線で切り離し可能とした小分け容器であって,分離線の始端(終端)に,分離線を挟んだ両側の容器の外周線と分離線とをそれぞれ円弧状又は楕円弧状の連続曲線で結び,その円弧状又は楕円弧状の曲線が互いに向かい合って対称形に接する略V字の形状の切り込み部を設けたことを特徴とする食品等の小分け容器。」

 

3.補正後の請求項1

「複数の食品の収納凹部を備え,各収納凹部をフランジで連設する連設部に設けた分離線で切り離し可能とした小分け容器であって,分離線の始端(終端)に,分離線を挟んだ両側の容器の外周線と分離線とをそれぞれ円弧状又は楕円弧状の連続曲線で結び,その円弧状又は楕円弧状の曲線が前記分離線を共通する接線として互いに向かい合って対称形に漸近して接する平面視略V字の形状の切り込み部を設けたことを特徴とする食品等の小分け容器。」

 

4.被告(特許庁長官)による「新規事項追加」の理由

「分離線が共通する接線となるのは,例えば,切り込み線が一定の曲率半径を有する円弧状同士である場合,切り込みが最も深くなるごく一部の態様のときのみである。単に円弧又は楕円弧が互いに向かい合って対称形に接するだけでは,共通の接線とはならない。

 当初明細書等の段落【0008】,【0016】には,「接線」自体について何らの記載がないし,図1,図2でも,分離線3は「接線」であるか否かに関わらず,1本だけしか設けられていないから,当該分離線3が接線であるということにはならない。

 

5.裁判所の判断のポイント

「取消事由1(補正の適否の判断の誤り)について

(1) 当初明細書(甲8)の段落【0008】には,「容器の仮想外周線及び仮想分離線に沿って,円弧又は楕円弧が互いに接して略V字形状となる切り込み線をトムソン刃によって貫設する第1工程と,・・・第2工程とから打ち抜き方法を構成するという手段を採用した。」との記載が,段落【0016】にも,「この切り込み部4は,分離線3を挟んだ両側の外周縁5と中間の分離線3をそれぞれ円弧状又は楕円弧状の連続曲線で結んだ形状に形成する。即ち,円弧(楕円弧)が互いに向かい合って対称形に接する略V字の形状となる。」との記載があるし,当初明細書添付の図1,2には,小分け容器外縁部の分離線の両端付近に,円弧状又は楕円孤状の曲線で構成された平面視略V字状の切り込み部を設け,この切り込み部の曲線の分離線側端部が分離線と滑らかに繋がって連続曲線を成すようにし,上記切り込み部の曲線の分離線側端部における接線を想定した場合にこの接線が分離線と互いに重なり合うようにされている状況が図示されており,また分離線を挟んで両側の小分け容器が対称になる構造を有しているため,両側の小分け容器外縁部の切り込み部の曲線の分離線側端部における接線が,分離線において共通のものになり,したがって小分け容器外縁部の切り込み部の曲線と分離線とが成す連続曲線が接線を共通にして「互いに向かい合って対称形に漸近して接する」状況が図示されている。

 そうすると,本件補正で改められた「分離線の始端(終端)に,分離線を挟んだ両側の容器の外周線と分離線とをそれぞれ円弧状又は楕円弧状の連続曲線で結び,その円弧状又は楕円弧状の曲線が前記分離線を共通する接線として互いに向かい合って対称形に漸近して接する平面視略V字の形状」との発明特定事項は,当初明細書及び図面に記載された範囲内のものであるということができる。」