2012年4月8日日曜日

審判請求時補正における請求項の増加が許容されるか否かの判断基準

知財高裁平成24年3月28日判決
平成23年(行ケ)第10226号 審決取消請求事件

1.概要
 本事例では、審判請求時にする補正において、特許法17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮(第三十六条第五項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とする補正を行う場合に、請求項数が増す補正(増項補正)が許容されるのはどういう場合があるかが具体的に例示されている。
 訂正の際の増項補正が「特許請求の範囲の減縮」に該当し許容される場合があると判断した裁判例として、知財高裁平成22年3月10日判決平成20年(行ケ)第10467号審決取消請求事件(本ブログ2010年5月8日記事参照)がある。

2.裁判所の判断のポイント
「さらに,法17条の2第4項2号は,同条1項4号に基づく場合において特許請求の範囲についてする補正について,「特許請求の範囲の縮減(第36条5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであって,その補正前の当該請求項に記載された発明その補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」を目的とするものと規定しているところ,これは,審判請求に伴ってする補正について,出願人の便宜と迅速,的確かつ公平な審査の実現等との調整という観点から,既にされた審査結果を有効に活用できる範囲内に限って認めることとしたものである。そして,同号かっこ書が,補正前の「当該請求項」に記載された発明と補正後の「当該請求項」に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る旨を規定していることも併せ考えると,同号は,補正前の請求項と補正後の請求項とが,請求項の数の増減はともかく,対応したものとなっていることを前提としているものと解され,構成要件を択一的に記載している補正前の請求項についてその択一的な構成要件をそれぞれ限定して複数の請求項とする場合あるいはその反対の場合などのように,請求項の数に増減はあっても,既にされた審査結果を有効に活用できる範囲内で補正が行われたといえるような事情のない限り,補正によって新たな発明に関する請求項を追加することを許容するものではないというべきである。
 しかしながら,本件補正は,請求項の数を22から56に増加させるものであるところ,例えば,第一の吸収性物品の形体が「臍の緒のくぼみを有している」(本件補正後の請求項2),「第一の吸収性物品の毛布のような感触を提供する特徴を有している」(同3),「第一の吸収性物品を第一の装着者により良く適合させる」(同4),「第一の装着者の自由な動きを可能にする」(同5),「狭い股領域を有している」(同6),「可撓性ファスナーを有している」(同7),「高拡張側部を有している」(同8)又は「第一の吸収性物品の湿り度を示す」(同9)など,いずれも本件補正前の各請求項には全く存在しない構成を付加することで,新たな発明に関する請求項を多数追加しているから,既にされた審査結果を有効に活用できる範囲内で補正を行っているといえるような事情が見当たらない。
 したがって,本件補正のうち,以上のとおり請求項2以下に請求項を多数追加している点は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえず,本件補正は,法17条の2第4項2号に違反するものというべきである。」