2011年9月25日日曜日

請求項中の用語の解釈が争われた特許権侵害訴訟の中間判決

知財高裁平成23年9月7日 判決言渡

平成23年(ネ)第10002号 特許権侵害差止等請求控訴事件

1.概要

 控訴人(第一審原告)が有する特許第4111832号(発明の名称「餅」)は、切り込み部が設けられた切餅に関わる発明である。

 被控訴人(第一審被告)が実施する切餅製品(被告製品)が本件特許発明の技術的範囲に属するか否かが争われた。

 東京地裁での第一審では被告製品は本件特許の「構成要件B」を満足せず侵害不成立と判断された。

 一方、知財高裁は被告製品は本件特許の「構成要件B」を満足し、侵害成立と判断された。

2.本件発明

 特許第4111832号(発明の名称:「餅」)に係る本件発明の特許請求の範囲(請求項1)を構成要件に分説すると以下の通り:

「焼き網に載置して焼き上げて食する輪郭形状が方形の小片餅体である切餅の」(構成要件A),

「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に,この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け,」(構成要件B),

「この切り込み部又は溝部は,この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に一周連続させて角環状とした若しくは前記立直側面である側周表面の対向二側面に形成した切り込み部又は溝部として, 」( 構成要件C),

「焼き上げるに際して前記切り込み部又は溝部の上側が下側に対して持ち上がり,最中やサンドウイッチのように上下の焼板状部の間に膨化した中身がサンドされている状態に膨化変形することで膨化による外部への噴き出しを抑制するように構成した」(構成要件D),

「ことを特徴とする餅。」(構成要件E)

 本件発明は、小片餅体(切り餅)の側周表面に切り込みまたは溝部を設けることにより、オーブントースターなどで焼き上げたときに、餅が膨化すると、膨化によってこの切り込みの上側が下側に対して持ち上がり、餅の外観が損なわれない、という効果を奏する。

3.主な争点

 被控訴人(第一審被告)が実施する侵害被疑物品は、切り餅の側周表面に切り込み部が設けられているだけでなく、切り餅の平坦上面及び載置底面にも切り込み部が設けられている。

 これに対して本件発明の構成要件Bでは「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に」切り込み部を設けると記載されている。

 構成要件Bの「載置底面又は平坦上面ではなく」という記述が、「載置底面又は平坦上面」に切り込み部が設けられることを排除する意図であるのか否かが争点。

4.第一審(東京地裁)

 第一審において東京地裁は構成要件Bの「載置底面又は平坦上面ではなく」という記述により、「載置底面又は平坦上面」に切り込み部が設けられることは技術的範囲から除外されると判断し、被告製品は構成要件Bを備えておらず特許権の侵害は成立しないと結論付けた。

 第一審の判断のポイント

「本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び前記()の本件明細書の記載事項を総合すれば,本件発明は,「切り込みの設定によって焼き途中での膨化による噴き出しを制御できると共に,焼いた後の焼き餅の美感も損なわず実用化でき」るようにすることなどを目的とし,切餅の切り込み部等(切り込み部又は溝部)の設定部位を,従来考えられていた餅の平坦上面(平坦頂面)ではなく,「上側表面部の立直側面である側周表面に周方向に形成」する構成を採用したことにより,焼き途中での膨化による噴き出しを制御できると共に,「切り込み部位が焼き上がり時に平坦頂面に形成する場合に比べて見えにくい部位にあるというだけでなく,オーブン天火による火力が弱い位置にあるため,焼き上がった後の切り込み部位が人肌での傷跡のような忌避すべき焼き形状とならない場合が多い」などの作用効果を奏することに技術的意義があるというべきであるから本件発明の構成要件Bの「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に,・・・切り込み部又は溝部を設け」との文言は,切り込み部等を設ける切餅の部位が,「上側表面部の立直側面である側周表面」であることを特定するのみならず,「載置底面又は平坦上面」ではないことをも並列的に述べるもの,すなわち,切餅の「載置底面又は平坦上面」には切り込み部等を設けず,「上側表面部の立直側面である側周表面」に切り込み部等を設けることを意味するものと解するのが相当である。」

5.第二審(知財高裁)

 第二審の知財高裁は、東京地裁とは正反対に、載置底面又は平坦上面に切り込み部を設けることは除外されず、被告製品は構成要件Bを備えると判断した。

第二審の判断のポイント

「当裁判所は,構成要件Bにおける「載置底面又は平坦上面ではなく」との記載は,「側周表面」であることを明確にするための記載であり,載置底面又は平坦上面に切り込み部又は溝部(以下「切り込み部等」ということがある。)を設けることを除外するための記載ではないと判断する。

 この点,被告は,「載置底面又は平坦上面ではなく」との記載部分は,「この小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に」との記載部分とは,切り離して意味を理解すべきであって,「載置底面又は平坦上面」には,「一若しくは複数の切れ込み部又は溝部」を設けない,という意味に理解すべきであると主張する。

 しかし,①「特許請求の範囲の記載」全体の構文も含めた,通常の文言の解釈,②本件明細書の発明の詳細な説明の記載,及び③出願経過等を総合するならば,被告の上記主張は,採用することができない。」

「(ア) 特許請求の範囲の記載

 本件発明の特許請求の範囲(請求項1)には,「載置底面又は平坦上面ではなくこの小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に,この立直側面に沿う方向を周方向としてこの周方向に長さを有する一若しくは複数の切り込み部又は溝部を設け,」(構成要件B)と記載されている。

 上記特許請求の範囲の記載によれば,「載置底面又は平坦上面ではなく」との記載部分の直後に,「この小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に」との記載部分が,読点が付されることなく続いているのであって,そのような構文に照らすならば,「載置底面又は平坦上面ではなく」との記載部分は,その直後の「この小片餅体の上側表面部の立直側面である」との記載部分とともに,「側周表面」を修飾しているものと理解するのが自然である。」

() 発明の詳細な説明の記載

a 本件明細書(甲2)には,以下の記載がある。

・・・・

b 上記発明の詳細な説明欄の記載によれば,本件発明の作用効果として,①加熱時の突発的な膨化による噴き出しの抑制,②切り込み部位の忌避すべき焼き上がり防止(美感の維持),③均一な焼き上がり,④食べ易く,美味しい焼き上がり,が挙げられている。そして,本件発明は,切餅の立直側面である側周表面に切り込み部等を形成し,焼き上がり時に,上側が持ち上がることにより,上記①ないし④の作用効果が生ずるものと理解することができる。これに対して,発明の詳細な説明欄において,側周表面に切り込み部等を設け,更に,載置底面又は平坦上面に切り込み部等を形成すると,上記作用効果が生じないなどとの説明がされた部分はない。本件明細書の記載及び図面を考慮しても,構成要件Bにおける「載置底面又は平坦上面ではなく」との記載は,通常は,最も広い面を載置底面として焼き上げるのが一般的であるが,そのような態様で載置しない場合もあり得ることから,載置状態との関係を示すため,「側周表面」を,より明確にする趣旨で付加された記載と理解することができ,載置底面又は平坦上面に切り込み部等を設けることを排除する趣旨を読み取ることはできない。

c これに対し,被告は,本件発明は,切餅について,切り込みの設定によって,焼き途中での膨化による噴き出しを制御できるという効果(効果①)と,焼いた後の焼き餅の美感も損なわず実用化できるという効果(効果②)を共に奏するものであるが(本件明細書段落【0032】),切餅の平坦上面又は載置底面に切り込みが存在する場合には,焼き上がった後その切り込み部位が人肌での傷跡のような焼き上がりとなるため,忌避すべき状態になることから(本件明細書段落【0007】),本件発明における効果②を奏することはないと主張する。

 しかし,被告の主張は,採用の限りでない。

 すなわち,本件発明は,上記のとおり,切餅の側周表面の周方向の切り込みによって,膨化による噴き出しを抑制する効果があるということを利用した発明であり,焼いた後の焼き餅の美感も損なわず実用化できるという効果は,これに伴う当然の結果であるといえる。載置底面又は平坦上面に切り込み部を設けたために,美観を損なう場合が生じ得るからといって,そのことから直ちに,構成要件Bにおいて,載置底面又は平坦上面に切り込み部を設けることが,排除されると解することは相当でない。

 また,当初明細書(甲6の2)の段落【0021】には,作用効果に寄与する切り込みの形成方法が記載され,同明細書の段落【0043】,【0045】には,周方向の切り込み等は,側周表面に設けるよりは作用効果が十分ではないが,平坦頂面における場合でも同様の作用効果が生じる旨記載され,図6(別紙図5)が示されていたことに照らすと,周方向の切り込み等による上側の持ち上がりが生ずる限りは,本件発明の作用効果が生ずるものと理解することができ,載置底面又は平坦上面に切り込み部を設けないとの限定がされているとはいえない。さらに,本件明細書段落【0007】の記載は,米菓で採られた噴き出し抑制手段の適用における問題点を記載したものであり,本件発明において,周方向の切り込み等による,上側の持ち上がりによる噴き出し抑制手段を採用するに当たり,載置底面又は平坦上面に切り込み等を設けるか否かについて,本件明細書に何らかの言及がされていると解する余地はない。したがって,被告の上記主張は,採用することができない。

d また,被告は,切り込み部位が小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に設けられるという構成であることを表現するのであれば,「小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面に切り込み部又は溝部を設ける」と記載すれば足り,「載置底面又は平坦上面ではなく」との記載を付加する必要はない,と主張する。

 しかし,被告のこの点の主張も採用できない。すなわち,前記のとおり,角形等の小片餅体である切餅において,最も広い面を載置底面として焼き上げるのが一般的であるといえるが,これにより一義的に全ての面が特定できるとは解されない(別紙「原告提出の参考図面」参照)。したがって,小片餅体の上側表面部の立直側面である側周表面を特定するため,「載置底面又は平坦上面ではなく」との記載を付加することに,意味があるといえる。したがって,被告の上記主張は,採用することができない。」

() 出願過程について

 被告は,原告は本件特許の出願過程において,切餅の載置底面又は平坦上面ではなく,切餅の側周表面のみに切り込みが設けられることを述べた経緯がある旨主張する。

 しかし,被告の上記主張は,以下の出願過程の具体的経緯に照らして,採用することができない。

「a 出願過程における具体的経緯

・・・

b 判断

 上記本件特許の出願の経緯に照らすならば,原告は,平成17年5月27日付けで拒絶理由通知を受けたことから,同年8月1日付けで手続補正書(甲8の2)を提出して,切餅の上下面である載置底面又は平坦上面ではなく,切餅の側周表面のみに切り込みが設けられる発明へと補正することを試みたが,同補正は,審査官から認められず,同年9月21日付けで拒絶理由通知(甲9)を受けたため,結局,同年5月の補正を撤回し,また,従前の意見内容も改めて,平成17年11月25日付けの手続補正書(甲10の2)を提出した経緯が認められる。

 以上のとおりであり,本件特許に係る出願過程において,原告は,拒絶理由を解消しようとして,一度は,手続補正書を提出し,同補正に係る発明の内容に即して,切餅の上下面である載置底面又は平坦上面ではなく,切餅の側周表面のみに切り込みが設けられる発明である旨の意見を述べたが,審査官から,新規事項の追加に当たるとの判断が示されたため,再度補正書を提出して,前記の意見も撤回するに至った。したがって,本件発明の構成要件Bの文言を解釈するに当たって,出願過程において,撤回した手続補正書に記載された発明に係る「特許請求の範囲」の記載の意義に関して,原告が述べた意見内容に拘束される筋合いはない。むしろ,本件特許の出願過程全体をみれば,原告は,撤回した補正に関連した意見陳述を除いて,切餅の上下面である載置底面及び平坦上面には切り込みがあってもなくてもよい旨を主張していたのであって,そのような経緯に照らすならば,被告の上記主張は,採用することができない。

(エ)以上のとおり,構成要件Bにおける「載置底面又は平坦上面ではなく」との記載は,「側周表面」を特定するための記載であり,載置底面又は平坦上面に切り込み部等を設けることを除外する意味を有すると理解することは相当でない。」

2011年9月4日日曜日

進歩性欠如の拒絶審決が取り消された事例

平成22年(行ケ)第10408号 審決取消請求事件

知財高裁平成23年8月25日判決

1.概要:

 本件は、特許庁審判体による拒絶審決(進歩性欠如)が知財高裁により取り消された事例である。

 特許庁審判体は、本願発明の「凸部材」と、引用発明の「溝」とが除去しようとする異物を引っ掛けて除去するという点で共通すること、引用発明2の「カッター」とが異物を捕捉するための構造,機能,捕捉後の異物の動きが共通すること、を理由として本願発明の進歩性を否定した。

 裁判所はこの審決を取り消した。審決は、明らかに「後知恵」的な拒絶審決であり取り消すとの判断は妥当なものと思われる。

2.本願発明の内容:

「水路中に設置されるものであって,流入側より吸い込まれる水を吐出させる羽根車を有するポンプにおいて,/前記羽根車に対向して前記ポンプのケーシング内部に設けられたライナーと,/このライナーの内周に設けられ水とともに吸い込まれ絡み付いた異物を捕捉して前記ポンプ内を通過させる異物捕捉体とからなり,/前記異物捕捉体は,前記羽根車の羽根の先端部に絡み付いた異物を引っ掛けるために,前記羽根車の外周縁部に対向して前記ライナーの内周の一部から前記羽根車方向に干渉しない長さに張り出して設けられた1以上の凸部材である/ことを特徴とするポンプ」

 審決の理由は,本願発明は,引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

3.引用発明1と本願発明との一致点及び相違点:

ア 引用発明1:汚水中に設置されるものであって,流入側より吸い込まれる汚水を吐出させる羽根車を有する汚水ポンプにおいて,前記羽根車に対向して前記汚水ポンプのケーシング内部に設けられたケーシングライナーと,このケーシングライナーの内周に設けられ汚水とともに吸い込まれ前記羽根車の羽根先端とケーシングライナーとの間にかみ込んだ塊状固体を前記羽根先端によって押し込んで前記羽根車の吸込口から吐出口へ移動させる溝とからなる汚水ポンプ

イ 一致点:水路中に設置されるものであって,流入側より吸い込まれる水を吐出させる羽根車を有するポンプにおいて,前記羽根車に対向して前記ポンプのケーシング内部に設けられたライナーと,このライナーの内周に設けられ水とともに吸い込まれ絡み付いた異物を捕捉して前記ポンプ内を通過させる異物捕捉体とからなるポンプ

ウ 相違点:本願発明においては,「前記異物捕捉体は,前記羽根車の羽根の先端部に絡み付いた異物を引っ掛けるために,前記羽根車の外周縁部に対向して前記ライナーの内周の一部から前記羽根車方向に干渉しない長さに張り出して設けられた1以上の凸部材である」のに対して,引用発明においては,異物捕捉体は溝である点

4.審決のポイント

「引用例1には、「汚水中に含有した繊維類、土砂などの塊状の固体が羽根1a先端とケーシングライナー4との間に噛込んだ場合には第2図、第3図に示すごとく、塊状の羽根1a先端によつて溝6内に押し込まれ、」(上記ウ.参照)と記載されていることからも明らかなように、引用発明においては、羽根1a先端に絡み付いた塊状固体は、羽根1a先端によって溝6内に押し込まれるが、その際、塊状固体は溝6の側壁に引っ掛かることによって溝6内に押し込まれると考えられるので、この溝6は塊状固体を引っ掛ける機能を有していると認められる。

 ところで、引用例2には、「唯一夾雑物が引っ掛かるおそれのあるケーシング4と捩り羽根3の外縁との隙間部分には、カッター8が設けてあるので、隙間に入らんとする夾雑物は、捩り羽根3の回転によってカッター8に押し付けられて切断吸引され、流路が閉塞されることがない。」(上記ク.参照)と記載されている。この記載によれば、ケーシング5と捩り羽根3の外縁との隙間部分に夾雑物が引っ掛かるおそれがあるのであるから、ケーシング5の内面から捩り羽根3方向に張り出して設けられたカッター8には、それ以上に引っ掛かる可能性が高いことは明らかである。捩り羽根3に絡み付いた夾雑物は捩り羽根3と共に回転しながら静止している「カッター8に対して押し付けられて切断」されるのであるから、夾雑物がカッター8に押し付けられる瞬間においては、夾雑物はカッター8に引っ掛かった状態になることは明らかであり、引っ掛かるからこそ、切断されるものと考えられる。そうすると、カッター8は、捩り羽根3の外縁に絡み付いた夾雑物を引っ掛けるために設けられたものということができる。

 また、カッター8は、引用例2の上記コ.の図示内容や汚水ポンプの構造からみて、捩り羽根3の外縁に対向してケーシングの内周面の一部から捩り羽根3方向に干渉しない長さに張り出して設けられており、本願発明の「凸部材」に相当することも明らかである。

 そして、引用発明と引用例2に記載された発明とは、どちらも汚水ポンプに関する点で共通の技術分野に属するものであり、しかも、引用発明のケーシングライナー4に設けられた溝と引用例2記載のカッター8とは、どちらも羽根に絡み付いた異物を引っ掛けて除去する点で機能が共通する。

 そうすると、引用発明及び引用例2に接した当業者であれば、引用発明に引用例2に記載された発明を適用し、ケーシングライナー4に設けられた溝6に代えて引用例2記載のカッター8を採用し、相違点に係る本願発明のように構成することは、格別の創意を要することなく容易に想到できたことである。」

5.裁判所の判断のポイント

「イ そうすると,本願発明,引用発明1,引用発明2は,いずれもポンプの羽根に絡み付く異物を除去してポンプ内を通過させることをその技術内容とするものであるが,本願発明は,その手段として,ケーシングライナーの内周に凸部材を設けることにより,異物を引っ掛けて捕捉して羽根から取り除き,さらに異物を羽根と羽根の間を通過させてポンプ外に排出させる構成を有することをその技術的特徴とするものであるということができる。

 これに対し,引用発明1は,溝に異物を押し込んで捕捉し,溝内を通過させる構成を有するものであり,本願発明1とは,異物捕捉体の具体的構成及び捕捉後の異物の排出方法が異なるものである。

 さらに,引用発明2は,ケーシングライナーの内周にカッターを設けるものであり,当該カッターは突起形状を有するものの,あくまで異物を切断する目的で設けられた部材であって,異物を引っ掛けて捕捉することを目的として設けられた構成ではない。

ウ したがって,本願発明は,異物捕捉体として,引用発明1のように,異物を押し込んで排出する溝や,引用発明2のように,異物を切断して排出するカッターを設けることなく,凸部材を設けるだけで,異物を引っ掛けて捕捉し,羽根と羽根の間を通過させて排出する構成を有する点に,その技術的な特徴を有する発明であるというべきであって,引用発明1及び2とは,異なる技術思想を有するものということができる。

 また,引用発明1の「溝」に換えて,引用発明2のカッターから刃を除いた「凸部材」の構成を採用することは,動機付け欠くものというほかない。

 よって,相違点に係る構成は,当業者が容易に想到し得たものということはできない。

エ この点について,被告は,引用発明1において,塊状固体は異物捕捉体としての溝に引っ掛かって捕捉されるものである,本願発明の凸部材と引用発明2のカッターとは,異物を捕捉するための構造,機能,捕捉後の異物の動きが共通するから,引用発明2のカッターは,本願発明の凸部材に相当するなどと主張する。

 しかしながら,先に指摘したとおり,本願発明は,引用発明1のような「溝」を設けて異物を排出するのではなく,「凸部材」を設けることによって異物を捕捉し,羽根と羽根との間を通過させて異物を排出することをその技術内容とするものであるから,引用発明1の溝が異物を引っ掛けて捕捉するか否かは,上記結論を左右するものではない。

 また,引用発明2のカッターは,異物を引っ掛けて捕捉するためのものではなく,切断するために設けられた構成であるから,異物を切断する前段階において異物が刃に引っ掛った状態となるとしても,本願発明の凸部材とは明らかにその機能が異なるものである。

 したがって,被告の主張はいずれも採用できない。」