2010年7月10日土曜日

補正却下の一体不可分性

東京高裁平成15年7月1日判決

平成14年(行ケ)第3号審決取消請求事件

東京高裁昭和59年4月27日判決

昭和56年(行ケ)第236号審決取消請求事件

1.概要

 特許法第53条には「第17条の2第1項第1号又は第3号に掲げる場合・・・において、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面についてした補正が第17条の2第3項から第6項までの規定に違反しているものと特許をすべき旨の査定の謄本の送達前に認められたときは、審査官は、決定をもつてその補正を却下しなければならない。」と規定されている。拒絶査定不服審判請求と同時にする補正についても同様に補正却下の対象となる(特許法第159条第1項)。

 提出された補正書の内容が、補正却下の対象となる補正事項(たとえば新規事項の追加)と、補正却下の対象とならない適正な補正事項とを含んでいる場合、補正全体が一体的に却下される。「補正は一体不可分」であるというのが過去の判決例の立場である。

 最高裁判決(事件番号平成19年(行ヒ)第318号)では、訂正請求(判決は異議申立事件での訂正請求)の場面では、訂正の許否の判断は請求項ごとになされるべきであると判示された。しかしこの判決は補正が一体不可分であるという取り扱いを否定するわけではないので注意する必要がある。

2.判決のポイント

2.1.平成14年(行ケ)第3号

「原告は,補正中に一部についてでも認めることができる部分があるならば,その部分を除いた部分のみを却下すべきであり,補正を全部却下することは許されない,と主張する。

 しかしながら,補正は一体不可分のものと解すべきであるから,一部でも要件に適合しない部分がある場合には,全体として補正は却下されるべきである。」

2.2.昭和56年(行ケ)第236号

「原告は、本件補正が「拒絶の理由に示す事項」についてのもの以外の事項を含むとしても、その記載事項は余事記載であるから、その余事事項のみを却下すべきもので、余事事項を含む補正全体を却下すべきではない旨主張するが、明細書又は図面の補正とは、ある一個の明細書又は図面を補正して他の一個の明細書又は図面とする補正であつて、補正事項の内容としては互に分離できるものがあつたとしても、補正された結果のものは、一つの明細書又は図面として一体不可分のものとなるものであり、余事事項を含む手続補正によつて明細書又は図面が補正されると、余事事項を含めた一体不可分の一つの明細書又は図面となるとみるのが相当であるから、余事事項の補正部分のみを却下するというように、余事事項を可分なものとして処理することは許されないところといわなければならない

 そして、特許法第六四条第一項の規定は、「拒絶の理由に示す事項」に余事事項を含めず、余事事項を含めることを禁止しているものであるから、余事事項を含む手続補正は、余事事項を含むことを理由に全体として却下されるべきものであり、右に反する原告の主張は採用できない。」