2010年5月8日土曜日

形式的に請求項数が増加する訂正であっても実質的に「特許請求の範囲の減縮」を目的とする場合には許容される

知財高裁平成22年3月10日判決
平成20年(行ケ)第10467号審決取消請求事件

1.概要
 訂正前の請求項10は多数項従属形式の従属請求項であった。
 訂正請求において形式上追加された訂正後の請求項26は独立形式で記載されているが、実質的には、訂正前の請求項10の発明のうち、訂正前請求項1および4を順次引用する部分(「訂正前請求項10(4・1)」という)と同一の発明を記載する。
 訂正請求において形式上追加された訂正後の請求項28は独立形式で記載されているが、実質的には、訂正前の請求項10の発明のうち、訂正前請求項1および3を順次引用する部分(「訂正前請求項10(3・1)」という)を更に減縮した発明を記載する。
 訂正請求において形式上追加された訂正後の請求項29は独立形式で記載されているが、実質的には、訂正前の請求項10の発明のうち、訂正前請求項1、3および8を順次引用する部分(「訂正前請求項10(8・3・1)」という)を更に減縮した発明を記載する。

 訂正請求が特許請求の範囲の減縮を目的とした適法なものであるか否かが争われた。
 なお審決では訂正は適法であるとして認められている。
 裁判所も審決に誤りはないと判断した。
 要するに「特許請求の範囲の減縮」であるか否かは形式ではなく実質を見て判断される。

2.裁判所の判断のポイント
「訂正前請求項10(4・1)の記載は,上記のとおりであるところ,これは,訂正後請求項26の記載とすべて同一である。したがって,訂正前請求項10(4・1)を訂正後請求項26とすることは,単に請求項の項番号を改めるものにすぎず,本件明細書を本件訂正明細書のとおり訂正することを求める本件訂正の実質的な内容を成すものではないし,そもそも,原告が主張するような増項を目的とするものではない。」
「・・・訂正前請求項10(3・1)を訂正後請求項28とすることが特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当することは明らかであり,そもそも,原告が主張するような増項を目的とするものではないから,訂正後請求項28に係る取消事由1の(2)は理由がない。」
「訂正前請求項10(8・3・1)を訂正後請求項29とすることが特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当することは明らかであり,そもそも原告が主張するような増項を目的とするものではないから,訂正後請求項29に係る取消事由1の(2)は理由がない。」
「ア 原告は,訂正請求においては個別の請求項について訂正の前後を通じた1対1の対応関係の存在が強く要請されるところ,増項により追加される請求項はそのような対応関係を欠くと主張するが,上記(1)ないし(3)において説示したとおり,訂正前請求項10(4・1)及び訂正後請求項26,訂正前請求項10(3・1)及び訂正後請求項28並びに訂正前請求項10(8・3・1)及び訂正後請求項29は,いずれも,本件訂正の前後を通じた1対1の対応関係を有するものであるから,原告の主張は理由がない。
イ また,原告は,請求項1ないし3に係る特許のうち,請求項1に係る部分についての特許無効審判請求がされた場合において,同請求項を削除するとともに,同請求項に新たな構成要件を付加した請求項4を追加するとの内容の訂正請求の例を挙げ,そのような訂正請求が許されるとした場合,特許無効審判請求人は,請求項4に係る特許について新たに特許無効審判を請求しなければならなくなると主張するが,そのような場合には,新たに追加された形式をとる請求項4に係る特許についても,その実質は旧請求項1を訂正(減縮)するものとして,当然に,従前の特許無効審判の対象とされるものと解され,現に,本件審決も,訂正後請求項25,26,28及び29に係る本件特許を審理の対象としているのであるから,原告の主張を採用することはできないというべきである。」