2010年2月20日土曜日

「新規事項追加」の拒絶を解消するための補正は「最後の拒絶理由通知書の応答時」等には却下される

平成20年3月19日判決

知的財産高等裁判所平成19年(行ケ)第10159号

1.概要とコメント

 本事例によれば、最初の拒絶理由応答時に追加した補正事項が「新規事項の追加」に該当するとの指摘を解消するために当該補正事項を削除する補正は、特許法第17条の2第4項(現在の第5項)に規定する請求項の削除(1号)、特許請求の範囲の減縮(2号)、誤記の訂正(3号)、明りょうでない記載の釈明(4号)のいずれにも該当しなければ(該当しないことが通常であるが)、「最後の拒絶理由通知書の応答時」又は「拒絶査定不服審判請求時」には却下される。

 出願人側には酷な話である。この場面での現実的な対応としては、担当審査官に電話連絡し補正が認められるか確認する。許可されるのであれば補正書を提出し、許可されないのであれば分割することが考えられる。特許法第17条の2第5項違反自体は無効理由ではないことから、担当審査官が補正を許可してくれさえすれば無効審判で問題となることもない。

 質問すると却ってやぶへびになる可能性もあるので、審査段階の「最後の拒絶理由通知」の場面では担当審査官には質問せずに認められて当然のような態度で補正書を提出し、許可されず査定となってしまった段階で分割出願するほうが賢明かもしれない。

2.裁判所の判断のポイント

「原告は,特許請求の範囲における新規事項の追加状態を解消する補正は,記載不備状態を解消するためのもので,第三者に不測の不利益を与えることもないから,特許請求の範囲の不明りょうな記載を明りょうな記載にする補正として取り扱うべきであり,本件補正は「明りょうでない記載の釈明」を目的とした補正に該当し,補正の要件を満たすものであると主張する。」

「拒絶査定(甲第11号証)には,次の記載がある。

 ・・・上記事項は,膜厚の面内均一性の上限値を5%以下とするという出願当初明細書に記載のない,新たな発明を記載したものである。つまり,出願当初明細書の何れの記載を検討しても,膜厚の面内均一性の上限値を5%という数値で区切るという記載も示唆もない。

 よって,上記補正によって付加された事項は,出願当初明細書の記載の範囲内において行われた事項とは認められない。」

「(3)・・・原告は,新規事項の追加状態を解消する補正は,記載不備状態を解消するためのものであり,第三者に不測の不利益を与えることもないから,特許請求の範囲の不明りょうな記載を明りょうな記載に補正するものとして取り扱うべきであると主張する。

 しかし,特許法17条の2第4項4号は,「明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」と規定しているから,「明りょうでない記載の釈明」を目的とする補正は,法律上,審査官が拒絶理由中で特許請求の範囲が明りょうでない旨を指摘した事項について,その記載を明りょうにする補正を行う場合に限られており,原告の主張する「新規事項の追加状態を解消する」目的の補正が特許法17条の2第4項4号に該当する余地はない。

(4)本件補正は,補正前の請求項3の「前記ガス噴射孔の先端と前記被処理体のエッジとの間の水平方向の距離は,膜厚の面内均一性を5%以下にするために0~70mmの範囲内に設定されることを特徴とする請求項1又は2記載のプラズマ処理装置。」を「前記ガス噴出孔の先端と前記被処理体のエッジとの間の水平方向の距離は,0~70mmの範囲内に設定されることを特徴とする請求項1又は2記載のプラズマ処理装置。」に変更するものである。

 本件補正は,補正前の請求項3から,発明の内容を規定する「膜厚の面内均一性を5%以下にするために」という文言を削除するものであるから,「請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定する」補正に該当しないことは明らかであり,特許法17条の2第4項2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする補正に該当しない。

(5)以上のとおり,本件補正は,特許法17条の2第4項各号のいずれにも当たらないから,同項の規定に違反するものとして却下されるべきであるとした審決の判断に誤りはない。」