2009年9月5日土曜日

無効審判手続きにおける「明りょうでない記載の釈明」を目的とした訂正請求の許否も請求項ごとに個別に判断される

知財高裁平成21年9月3日判決
平成21年(行ケ)第10004号審決取消請求事件

1.関連最高裁判決 
 平成19年(行ヒ)第318号平成20年7月10日第一小法廷判決では、
「・・・特許異議申立事件の係属中に複数の請求項に係る訂正請求がされた場合,特許異議の申立てがされている請求項についての
特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正については,訂正の対象となっている請求項ごとに個別にその許否を判断すべきであり,一部の請求項に係る訂正事項が訂正の要件に適合しないことのみを理由として,他の請求項に係る訂正事項を含む訂正の全部を認めないとすることは許されないというべきである。」
と判断され、特許異議申立手続において、複数の請求項について「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正がされた場合、訂正の許否は請求項毎に判断されるべきであるとされた。

 では、「明りょうでない記載の釈明」を目的とした訂正請求の許否は、訂正請求全体を一体不可分のものとして判断されるのか?

2.本判決の概要
 本判決では、「明りょうでない記載の釈明」を目的とした訂正請求の許否も訂正の対象となっている請求項毎に判断されるべきであると判断された。

 無効審判手続きでは、原告(特許権者、無効審判被請求人)は請求項1ないし3,5,9ないし13,18,19,21ないし25について訂正請求を行ったところ,本件審決は,請求項19及び23に係る2つの訂正請求のみを判断し,訂正要件を欠くとして本件訂正すべてを認めないとした。

3.判決のポイント
「(1) 無効審判における複数の請求項に係る訂正の請求
 昭和62年法律第27号による特許法の改正によりいわゆる改善多項制が,そして,平成5年法律第26号による特許法の改正により無効審判における訂正請求の制度がそれぞれ導入され,特許無効審判の請求については,2以上の請求項に係るものについては請求項ごとにその請求をすることができ(特許法123条1項柱書き後段),請求項ごとに可分的な取扱いが認められているところ,特許無効審判の申立てがされている請求項についての特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正請求は,この請求項ごとに請求をすることができる特許無効審判請求に対する防御手段としての実質を有するものであるから,このような訂正請求をする特許権者は,請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解するのが相当であり,また,このような請求項ごとの個別の訂正が認められないと,特許無効審判事件における攻撃防御の均衡を著しく欠くことになることに照らすと,特許無効審判請求がされている請求項についての特許無効の範囲の減縮を目的とする訂正請求は,請求項ごとに個別に行うことが許容され,その許否も請求項ごとに個別に判断されることになる(前掲最高裁平成20年7月10日判決参照)。
 そして,特許無効審判の請求がされている請求項についての訂正請求は,請求書に請求人が記載する訂正の目的が,
特許請求の範囲の減縮ではなく,明りょうでない記載の釈明であったとしても,その実質が,特許無効審判請求に対する防御手段としてのものであるならば,このような訂正請求をする特許権者は,請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解するのが相当であり,また,このような請求項ごとの個別の訂正が認められないと,特許無効審判事件における攻撃防御の均衡を著しく欠くことになることからして,請求項ごとに個別に訂正請求をすることが許容され,その許否も請求項ごとに個別に判断されるべきものである。

「(5) 被告は,特許無効審判における訂正の請求において,請求項ごとの個別の訂正が認められるのは,特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正請求であり,独立特許要件が要求されていない明りょうでない記載の釈明を目的とする訂正請求については,請求項ごとの個別の適用が認められるものではないと主張するが,たとい特許無効審判における訂正請求の請求書に記載されている訂正の目的が明りょうでない記載の釈明であったとしても,それが請求項ごとに請求することができる特許無効審判請求に対する防御手段としての実質を有するものであるならば,このような訂正請求をする特許権者は,請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解され,また,このような請求項ごとの個別の訂正が認められないと,特許無効審判事件における攻撃防御の均衡を著しく欠く結果となってしまうものであって,被告の主張は採用できないというべきである。」