2009年5月23日土曜日

組成物の化学的な経時変化による必然的な構成成分の発生は特許発明の実施行為に該当する(カビキラー事件)

1. 事件の概要
東京地裁平成11年11月4日判決
平成9年(ワ)938
損害賠償等請求事件

原告が有する特許権一に係る特許発明:
「(1) アニゾール、ベンゾフエノン、ベンジルフエニルエーテル、ブロメリア、セドレニルアセテート、p‐ターシヤリーブチルシクロヘキサノール、ジメチルベンジルカルビニルアセテート、ジヒドロターピニルアセテート、ジフエニルオキサイド、ジメチルベンジルカルビノール、ジメチルフエニルエチルカルビノール、ジヒドロターピネオール、フエンチルアセテート、フエンチルアルコール、p‐メチルジメチルベンジルカルビノール、メチルフエニルカルビニルアセテート、メンチル‐n‐バリレート、ムスクモスケン、ムスカローム、メチルアミルケトン、フエニルエチルジメチルカルビニルアセテート、ローズフエノン、スチラリルプロピオネート、テトラヒドロムグオール、テトラヒドロムギルアセテート、テトラヒドロリナロール、テトラヒドロリナリルアセテート、ベルドール、ベルベトン、ベルドツクス、コニフエラン、ヤラヤラから成る群から選ばれた一種又は二種以上の単体香料あるいは配合香料と
(2) 次亜塩素酸ナトリウム水溶液に安定に溶解する界面活性剤を含有することを特徴とする
(3) 次亜塩素酸ナトリウムを有効成分とする芳香性液体漂白剤組成物」

被告製品は上記本件特許発明の構成要件(2)及び(3)を充足する。
被告製品には製造時に香料として「ジメチルベンジルカルビニルイソブチレート」(これ自体は構成要件(1)には含まれない)が配合される。「ジメチルベンジルカルビニルイソブチレート」の少なくとも一部が被告製品の製造後に「ジメチルベンジルカルビノール」に変化する。「ジメチルベンジルカルビノール」は構成要件(1)に包含される。

争点:
被告製品が構成要件(1)を従属するか?

2. 裁判所の判断のポイント
「本件特許発明一は、芳香性液体漂白剤組成物という物の発明であって、その製造方法には何らの限定もないものであるから、特許請求の範囲に記載された香料を当初から添加する場合だけでなく、当該香料が製造後使用時までの間に含有されるように、当該香料を生成させ得る別の香料を製造時に添加する場合も、その技術的範囲に属するものというべきである。
 証拠・・・によれば、「ジメチルベンジルカルビニルイソブチレート」は、界面活性剤を含有し次亜塩素酸ナトリウムを有効成分とする芳香性液体漂白剤組成物中において分解され、「ジメチルベンジルカルビノール」が生成されること、右の経時変化は、原告側の実験によれば、摂氏二〇度に静置保存されるという条件下で、三〇日経過後における「ジメチルベンジルカルビノール」の量が「ジメチルベンジルカルビニルイソブチレート」の量とほぼ等しいものになっていること、被告側の実験の結果によっても、実験開始から二八日が経過した時点で、「ジメチルベンジルカルビニルイソブチレート」の約三分の一が「ジメチルベンジルカルビノール」に変化していることが認められる。
 本件被告製品は家庭用かび取り剤であるところ、右の二八日ないし三〇日という期間は、本件被告製品が製造されてから商品の流通過程を経て一般需要者の手にわたるまでの通常の期間と比較して決して長すぎるものではなく、また、家庭用かび取り剤は、一本の容器の内容物を一回で使い切ることはまれであり、通常、家庭に備えられてある程度の期間にわたって清掃等の都度使用されるものであることからも、本件被告製品においては、需要者による使用時までの間に「ジメチルベンジルカルビニルイソブチレート」のうちのかなりの部分が「ジメチルベンジルカルビノール」に変化しているものと認めるのが相当である。
 したがって、本件被告製品は、その製造時・・・には本件特許発明一の構成要件(1)に記載された香料のいずれをも含有するものではないが、その後の経時変化により必然的に構成要件(1)に記載された「ジメチルベンジルカルビノール」を含有することになるのであるから、被告が本件被告製品を製造する行為は、本件特許発明一を実施する行為に該当するというべきである。」

3. ブログ管理人コメント
 一緒に検討すべき事件として東京高裁平成15年7 月18日平成14年(ネ)4193号「ドクターブレード事件」があります。