2009年4月19日日曜日

容易想到性の判断基準平成20年行(ケ)10096

1. 事件の概要
知財高裁平成21年1月28日判決
平成20年行(ケ)10096
拒絶審決取消訴訟
主文:拒絶審決を取消す

本願請求項1に係る発明:
「下記(1)~(3)の成分を必須とする接着剤組成物と,含有量が接着剤組成物100体積に対して,0.1~10体積%である導電性粒子よりなる,形状がフィルム状である回路用接続部材。
(1) ビススフェノールF型フェノキシ樹脂
(2) ビスフェノール型エポキシ樹脂
(3) 潜在性硬化剤」

引用発明の内容(甲4):
「下記(1)~(4)の成分を必須とする接着剤組成物と,含有量が接着剤組成物100体積に対して,0~30体積%である導電粒子よりなる,形状がフィルム状である接着フィルム。
(1) アクリル樹脂
(2) フェノキシ樹脂
(3) ビスフェノール型エポキシ樹脂
(4) 潜在性硬化剤」

甲4では、「フェノキシ樹脂」が相溶性及び接着性において優れることが記載されている。

「フェノキシ樹脂」の具体例としては、「ビススフェノールA型フェノキシ樹脂」が記載されている。本願発明で用いられる「ビススフェノールF型フェノキシ樹脂」については甲4には一切記載されていない。

甲4における、「フェノキシ樹脂」及び「ビススフェノールA型フェノキシ樹脂」という記載から本願発明の(1)の構成に想到できるか否かが争点。

審決の判断:「引用例に記載された発明の『分子量が10000以上の高分子量エポキシ樹脂であ」るフェノキシ樹脂として、相溶性、接着性がより一層良くなるように、ビススフェノールF型フェノキシ樹脂を用いてみようとすることは、当業者が容易に推考し得たことである。」

本願明細書の記載:
ビスフェノールF型フェノキシ樹脂を使用した実施例組成物と、ビスフェノールA型フェノキシ樹脂を使用した比較例組成物とを作成して比較し、前者が後者と比較して接続信頼性が高いこと、接続後の回路の補修性が高いことを確認した実験データ等が記載されている。

2. 裁判所の判断のポイント
「特許法29条2項が定める要件の充足性,すなわち,当業者が,先行技術に基づいて出願に係る発明を容易に想到することができたか否かは,先行技術から出発して,出願に係る発明の先行技術に対する特徴点(先行技術と相違する構成)に到達することが容易であったか否かを基準として判断される。ところで,出願に係る発明の特徴点(先行技術と相違する構成)は,当該発明が目的とした課題を解決するためのものであるから,容易想到性の有無を客観的に判断するためには,当該発明の特徴点を的確に把握すること,すなわち,当該発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠である。そして,容易想到性の判断の過程においては,事後分析的かつ非論理的思考は排除されなければならないが,そのためには,当該発明が目的とする「課題」の把握に当たって,その中に無意識的に「解決手段」ないし「解決結果」の要素が入り込むことがないよう留意することが必要となる。さらに,当該発明が容易想到であると判断するためには,先行技術の内容の検討に当たっても,当該発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要であるというべきであるのは当然である。」

「本願補正発明においてビスフェノールF型フェノキシ樹脂を必須成分として用いるとの構成を採用したのは,ビスフェノールA型フェノキシ樹脂を用いることに比べて,その接続信頼性・・・及び補修性を向上させる課題を解決するため」

「一方・・・引用例には,・・・格別,相溶性や接着性に問題があるとの記載はない上,回路用接続部材用の樹脂組成物を調製する際に検討すべき考慮要素としては耐熱性,絶縁性,剛性,粘度等々の他の要素も存在するのであるから,相溶性及び接着性の更なる向上のみに着目してビスフェノールF型フェノキシ樹脂を用いることの示唆等がされていると認めることはできない。」

「・・・良好な耐熱性が求められる回路用接続部材に用いるフェノキシ樹脂として,格別の問題点が指摘されていないビスフェノールA型フェノキシ樹脂に代えて・・・ビスフェノールF型フェノキシ樹脂を用いることが,当業者には容易であったとはいえない。」

3. ブログ管理人コメント
審査官審判官は、いわゆる「後知恵」による先入観を排除して進歩性を判断すべきであることを明確に示した点で意義のある判決といえる。
本件では明細書において、ビスフェノールF型フェノキシ樹脂とビスフェノールA型フェノキシ樹脂とを比較し、前者が優れた効果を有することを示していた点が、原告に有利に働いたように思われる。
本判決を引用し、拒絶審決を取り消した判決としては知財高裁平成21年3月25日判決 平成20年(行ケ)第10261号がある。